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皆様、本当にありがとうございました
しおりを挟む「拝聴頂き、ありがとうございました。歌う機会を下さったミリアン様に深く感謝致します」
「いや、私の方こそ特等席で今人気絶頂の歌手、リリーの歌声を聞けて役得でした。最高の誕生日プレゼントをありがとうございます」
「勿体なきお言葉です」
ミリアン様に礼を取り、もう一度会場の人達にお辞儀をして舞台から降りる。
そうすれば、待ち構えていたように、ショーンが私の前に立ちはだかった。
「何か御用でしょうか、ブリガルド様」
「ブリガルド様なんて他人行儀な言い方は止せよ。婚約者同士なんだから、今まで通りショーンでいい」
ニヤニヤと笑うショーンに頭痛がする。
さっき時分がこの会場のど真ん中で何を言ったのか覚えてないのだろうか。馬鹿だとは思っていたけど、まさか自分が何を仕出かしたのかを忘れるほど馬鹿だとは思わなかった。
「あの、先程ブリガルド様と一緒に居た女性はどちらへ?」
「ああ、アイツならもう捨ててやったさ。こんな美人の婚約者が居るのに、あんな程度の女と一緒になんて居られないだろ?」
本当に最低な男だ。こんな男に引っかかった女性も女性だけど、最低なショーンの言い分に同情する。
「さ、俺の腕を取れ。お前みたいな女は、俺の隣が相応しい」
何故当然のようにエスコートが出来ると思っているのか。こんな男の手を取るなら、カエルを手に乗せた方が余っ程マシだ。
「お断りします。先程、貴方がここにいらっしゃる皆様の前で何を仰ったのかお忘れですか?」
「ああ、婚約破棄の事か、アレなら取り消してやるよ」
なにが、取り消してやるよ。だ。
この馬鹿な男をどうやって言い込めようかと考えていると、ふと後ろに影ができる。
「話しているところすいません。ですが、少し私もその話に混ぜてもらえませんか?」
「ミリアン様…?」
「これは、これは、ミリアン様。どうかされたのですか?」
「少し、君に聞きたいことがあるんです、ブリガルド君」
「私に、ですか?」
突然現れたかと思うと、ミリアン様はショーンに話しかけた。一体どうしたのだろう。
「君は、自分が放った言葉の責任は取る方ですか?それとも、無責任に反故にする方ですか?」
「あの、いきなりどうしたのですか?」
「今丁度、私の補佐官を探していまして、君にその適性があるかどうかを聞いてみたのですよ」
補佐官なんてこんな男に務まるはずがないと、さっきのショーンの言動を見て分かるはずなのに、何故そんなことを質問するのだろう。
それに、ショーンは自分の欲望に忠実な男だ。王子の補佐官なんて名誉な職に着きたいがために、自分をよく見せようと嘘をつくに決まっている。
「僕は、自分の言葉に責任を取る方です!それに、口も硬い方ですし、自分で言うのも何ですが、僕は結構学業も優秀ですし、ミリアン様の補佐をしっかりこなせると自負しております」
先程の婚約破棄の騒動で、この会場全員に自分は馬鹿だと言ったも同然なのに、よくもそんなにスラスラと嘘が言えるものだ。
マヌケすぎる姿に、見てるこっちが恥ずかしくて顔を覆いたくなる。だけど、ミリアン様はそんなショーンに爽やかに笑いかける。
「なるほど、なら君は自分の言葉に責任を取れるんですね」
「はい!もちろんです!」
「なら、ミッドレイ嬢との婚約破棄も取り消すはずは無い。そうですよね?」
「はい!……はい?」
ミリアン様に勢いよく頷いたショーンだが、何を言われたのか頭が理解してから、笑顔が固まった。だが、ミリアン様は畳み掛けるように笑顔で続ける。
「ああ、やはり君がミッドレイ嬢に婚約破棄を取り消す。などと言ったのは私の聞き間違いだったようで良かったです」
「あの、ミリアン様…それは、その…」
焦り出すショーンに、ミリアン様は言葉を続ける。
「それに、私やこの会場にいる全員を婚約破棄の証人にしたんですし、それを取り消すわけが無い。ですよね?」
「そ、そうですね…」
ミリアン様の言葉に、流石の馬鹿なショーンも自分の立場を理解したようで、悔しそうに頷いた。
「さて、ブリガルド君へ聞きたかったことは聞けたので、次はミッドレイ嬢」
「はい?」
私にも、何か質問があるのだろうか?
内心首を傾げる私に、ミリアン様は手を差し出してくる。
「貴女と踊る栄誉をいただけませんか」
「わ、私ですか?」
まさかダンスのお誘いを受けるとは思っていなかったので、すごく驚いてしまう。それに、こういう場でダンスをした事は皆無に等しい。なので断りたいが…。
「私でよければ、よろしくお願いします」
王子様のお誘いを断るなんて出来るはずがない。
「ありがとう」
ミリアン様の手を取れば、嬉しそうに笑い私をエスコートしてくれる。
「そうだ、クソ野郎の婚約者と婚約破棄出来て良かったね」
「え…」
ダンスが始まってから、ミリアン様が急に話しかけてきた。だけど、王子様から出るはずのない汚い言葉に目が点になる。
「ずっと言ってただろ?馬鹿過ぎて話が通じないって」
「なぜ、そのことをミリアン様が…」
ミリアン様と直接話したのはこれが初めてのはずなのに、どうして私がショーンの悪口を言っていたことを知っているんだろう。
「君の変装には正直に驚いたよ。だけど、僕だって結構変装が得意なんだよ。特に、図書室の奥で静かに座る図書委員に変装するのは」
「え…嘘…」
「やっとわかった?」
イタズラが成功した子供のように笑うミリアン様に、開いた口が塞がらない。
だって、ショーンの愚痴を毎日放課後に聞いてくれていた図書委員がミリアン様だったなんて、誰が想像出来るだろう。
「全然気付きませんでした…」
「だろうと思ったよ。だけど、君の姿もかなり衝撃的だったよ。でも、出来ればずっと隠して欲しかったな」
「どうしてですか?」
「だって、ライバルが増えるだろ?」
「ライバルってなんのですか?」
「そんなの決まっているだろ。恋のライバルだよ」
それはどういうことか、とい聞きたかったけど、タイミングよく曲が終わってしまう。
互いにお辞儀をし、元の場所へと戻っていく。が、去り際にミリアン様が耳元で囁いた。
「僕の気持ちを聞く勇気があるなら、また図書室に来て。卒業するまではずっと待ってるから」
去っていくミリアン様の後ろ姿を呆然と見届けた私が、卒業までに図書室に行ったかどうかは秘密だ。
だけど、そう遠くない未来で、新しい王妃の歌声が素晴らしく、聞けた人には幸福が訪れる。なんて噂が流れることになるのだった。
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ショーンのその後は、時間があれば書いてみたいと思います。読んでみたいと言っていただけて嬉しいです*ˊᵕˋ*
ありがとうございました。
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コメントありがとうございます!
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