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しおりを挟む「そういえば、ふっ!エマって剣振ったことあんの?」
「わっ、剣術指南所のバイトでサクラしてたことある、とう!から基礎くらいなら出来るよ」
「よっと、さくら?なんだそれ?」
こっちの世界でサクラって通じないのか。
そういえば、桜の花も見たことがないかも。
「せい!指南所に門下生が沢山いるってアピールする為に、どうだ!お金払って偽物の門下生を期間限定で雇うんだよ」
「っ、今の打ち込みはエグイなっ、なんのために?」
「やった!これは、どうだ!門下生が多いと、他の人も通ってみようかな、とう!ってなるから」
打ち合いしながら喋るのって結構しんどいな。
「ふーん、っ、と。色んなバイトがあるんだな」
「ねっ!とりぁ!」
「っ、手加減するとは言ったけど、手加減いらなくね?」
「うおりぁ!手加減必要!」
「こんなに的確に急所狙ってきてよく言う、な!」
「うわ!」
今のは危なかった!
刃が潰されてるとは言っても、鉄の塊。
切れることはなくても骨折だってありえる。
この世界では魔法で簡単に治せるけど、骨折なんてどう考えても痛いに決まってる!
負けるのは良いけど剣には当たりたくない!
「手加減!してよ!」
「おわっ!無理に!決まってんだろ!くっ、なんで鍛えてる俺と互角に戦えんだよ!」
「バイトで鍛えてるから?ふんぬ!」
「下っ端とはいえ騎士と互角って、どんな鍛え方だ!」
薪を切るバイトしたり、畑耕すバイトとかかな。
あれ全身運動だから結構鍛えられると思うんだよね。
でも、流石に打ち合いは初めてだから、そろそろ剣を掴んでる手がジンジンしてきた。
このまま打ち合えば手に力が入らなくなってくる。
「そういやっ、エマって戦闘だけは得意だったっ、よな!」
「いっ、戦闘じゃなくて、攻撃魔法っ、ね!」
ああ、今受けた攻撃は痛い!
受け止めれたけど、手への衝撃が痛い!
流石にそろそろ限界だから、降参した方が…。
「攻撃性高過ぎだろ!」
「あ、ちょっ!」
流石にもう攻撃は受けきれない!
参ったという前に攻撃してくるなんて、アル君のくせにやるじゃないか!褒めて遣わす!
けど、流石にこれはヤヴァイ!
頭に向かって攻撃とか、受け止められなかったら頭蓋骨が粉砕される!死ぬ死ぬ死ぬ!
何とか避けないと!
いや、これアカンやつや…。
さよなら今世。推しに出会えたことに感謝しながら私は目をつぶります…。
ガキン!
目をつぶった瞬間、急に後ろに引っ張られたかと思うと、頭上で剣と剣がぶつかり合う音が聞こえる。
引っ張られた反動で後ろに倒れそうになるけど、暖かくてガッシリとした物に受け止められる。
そして、ふんわりと香ってくる、推しの香り…。
「っ!エリオット様!?」
「お前、目を閉じてたはずなのによく分かるな…」
驚いて目をパッチリと開けた私に、アル君が若干引きながら言ってくる。
わかるに決まってるでしょ!
ここ数ヶ月ずっと膝の上に座ってたんだから、エリオット様の匂いならすぐに分かるわ!
私と同じ石鹸使ってるはずなのに、何故かそれよりもいい匂いがするこの匂いを間違えるはずがない!
って、そうじゃない。
「助けていただきありがとうございました」
エリオット様が片手で抱き抱える様に私を支えながらアル君の剣を受け止めている状況を見るに、私はエリオット様に助けてもらったのだろう。
なので、お礼を言っておかないと。
ファンの分際で推しの手を煩わせてしまって申し訳ありませんでした…。
しかも、逆にお助けしなければいけないメイド兼補佐役のくせに迷惑をかけてしまった…。
恥ずかし過ぎる…。
いや、たくさんの騎士達がいる中で抱き抱えられているなんて恥ずか死ぬ。
「いや、エマに何も無くてよかったよ」
アル君の剣を片手で軽く受け止めながら私に笑顔を向けるエリオット様。
顔が良過ぎか!めちゃくちゃ爽やかで涼しい顔をしてらっしゃるんですけど!見上げているせいか、太陽の光で後光が射しているように見えるんですけど!神かな?私の推し神かな?あ、神だったわ。この世界での太陽神はエリオット様だったのかもしれない。布教しよう、太陽神エリオット様。さぁ、みんなで崇めよう太陽神エリオット様。
「また拝まれてるし…。エマって俺を拝むの好きだよね」
はっ!ついまた思考がトリップしてしまっていた…!
「すみません…。エリオット様を見ていると、つい手を合わせてしまうんです」
「俺はエマにとって神かなにかなの?」
「近しい存在ですね」
推しがいるから日々の生活にハリが出る。
どんなに辛いことがあっても前を向いていられる。
という事は、推しとは神と言っても過言ではないよね。うんうん。
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