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「あの、お茶を…」
「疲れたから休憩する」
「それなら尚更お茶を…っ、」


 用意します。という前に、エリオット様が私の首に顔を埋めてくる。


これはイケナイ!
私はぬいぐるみ私はぬいぐるみ私はぬいぐるみ。
これはぬいぐるみに対してしているだけで他意はない。
疲れていたらぬいぐるみにギューってしたくなる時だってあるもんね!私だってそんな日はあった!いや、今世では借金が多すぎてぬいぐるみどころじゃなかったか。


「エマっていつもいい匂いするけど、なに使ってるの?」
「に、匂いですか…?」


香水なんて高い物は買わないから持ってないし、お香も一緒で持っていない。


「強いて言うなら、石鹸…でしょうか?」


それも庶民でも買えるような泡が全然立たない石鹸を。


「そう…いい匂いだね」


いい匂いだと思って頂けるのは嬉しいですけど、そんなに顔を近付けないで!本気で恥ずかしい!
推しにバックハグされて匂い嗅がれるとかどんな羞恥プレイよ!


「あ、あのぉ…そろそろ離して…」
「学校から家がそんなに遠くないのにエマが寮生活してたのって、もしかしなくても母親と妹の事があったから?」
「えっと…はい、そうですね…?」


流石にお金を勝手に使われたのはショックで、2人のことが信じられなくなって寮生活を選んだんだよね。
だけど、どうして今そんな話を?


「じゃあ、今家から通勤してもらってるのはエマ的に良くない状況なのか…」


何故か考え込んでしまった!?


「あの、別に家に帰るのが嫌という訳では無いですよ?」


またあの二人に給金を取られるんじゃないかとは思うけど、泊まり込みで仕事をするより家に帰った方がいいと提案してくれたのはエリオット様なので、自分の感情より雇い主の意見を優先させるべきだと思うんだよね。


「でも家に帰るとお金を盗まれたりするんだろ」
「それは…絶対ではないと……思います、多分」
「嘘つかなくて大丈夫だよ。盗まれるって、エマも確信してるんだろ」
「………」


はい、そうです99%盗られると予想してます。
でも1%位は家族の良心を信じたい気持ちがあるって言うのも本当なんですよ…。


まあ、100%盗られるだろうけど。


「決めた。今日からエマはここに住み込みで働いてもらう」
「そんな急に、ですか?」
「うん、幸いまだ給金が支払われていないし、善は急げって言うから、今日からここで暮らして」
「で、でも、今日からは流石に…着替えとかもありますし…」
「それならこっちで用意するから安心して。とりあえず必要な物を用意させるから」


そう言って、まず必要な物を紙に書出し、執事を部屋に呼んで買い物と部屋の用意をするようにテキパキと指示を出してくれた。
だけど、そういう仕事は私がするべき事では…?


「エマはそれよりも大事な仕事があるからいいの」


そう言ってまた膝の上で抱きすくめられてしまった。
因みに、執事さんがいる間も私のことを離してくれず、この恥ずかしい格好を人に見られてしまいました。
もう、お嫁に行けない…。


「それなら俺の所に来ればいいよ。エマの家は大変そうだし、俺と結婚すれば家の事で悩むことはないかもよ」
「いえ、そんなことはありませんよ。仮に結婚していただいたとしても、家族だからってお金をどうにか都合してもらえないかって言いに来る気が……って、私、声に出してました!?」
「ん?お嫁に行けないってこと?」


うわーーー!!
バッチリ聞かれとる!!
なんで声に出しちゃったの私!
と言うかエリオット様もそんな独り言に軽いノリで俺の所に来いなんて言っちゃダメですから!!!


「俺のせいでお嫁に行けないなら、俺が責任取るよ」
「だ、ダメです!そんな責任感じて私なんかと結婚するなんて冗談でも言っちゃダメですよ!!」


例え愛した人と結ばれない当て馬キャラだったとしても、自暴自棄になっちゃダメ!


「エリオット様には、心から愛し合える方と結婚して欲しいです!なので、そんな理由で私と結婚するなんて言わないでください!」


訴えるように言いながらエリオット様の顔を見れば、彼は少し驚いた顔をしてから苦笑した。


「そんな理由…か。確かに、こんな理由にして結婚するのはエマにも失礼だったね…」
「いえ…私は全然そんな事は思っていません。それよりも、生意気なこと言って申し訳ありませんでした…」


彼のどこか悲しそうな苦笑を見て、自分が言ったことを後悔する。
失恋してから間もない人に、私はなんてことを言ってしまったんだ…!


周りには普段通りに振舞って失恋の傷跡なんて無いように見せているけど、人生で初めて本気になった恋愛が散って平気なわけがない。
それなのに、失恋から立ち直れてない彼に対して、愛し愛される関係の人と結婚してほしいなんて言ってしまった。


ヒロインみたいに愛せる人なんてそうそう居ないだろうに、私は本当になんて事を言ってしまったんだ…。




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