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ただ、本当に私でいいのかは不安だけど。


「それと…俺の呼び方はそれで良いから。他の人がいない時は様も取っていいし」


少し言いにくそうに、照れたように呼び捨てでいいなんて言うなんて可愛い!なにゆえこの世界にはカメラのような魔道具がないんだ!


だけどーー。


「それは流石に恐れ多いので遠慮しておきます」
「なんでだよ」


少し拗ねたように言われてしまうけど、様を取ってしまうと前世の感覚で今よりももっと気軽に話してしまいそうなので自戒を込めて様は外さないようにさせてもらいたい。


「お互いの為です」
「どういう意味だよ」


私が馴れ馴れしすぎてエリオット………様に不快な思いをさせないように必要な事なんです!流石に私も推しには嫌われたくないので立場は弁えていこうと思うのです!
なんて言っても意味がわからないだろうから、適当にそれらしい理由を言っておこう。


「私達の関係は雇い主と使用人の関係です。二人きりとはいえ馴れ馴れしい呼び方をするのはよくないと思います」
「……俺はそんな関係望んでない。そもそもエマを雇ったのだって、」
「だって、なんですか?」
「………いや、別になんでもない」


いやいやいやいや!全然なんでもないって雰囲気じゃないんでけど!そんなところで切られたら続きが気になるじゃないですか!私を雇った理由ってなんなのですか!


「もうすぐ仕事の時間だから、とりあえずそっちの部屋に服を用意してるから着替えて来て」
「…かしこまりました」


ものすごく話の続きが気になるけど、所詮私は雇われの身。雇用主に命じられれば従うしかないのです。
因みに現在私はエリオット…様の執務室におります。


指示された部屋は仮眠室のような場所なのか、シングルのベッドにサイドテーブルがひとつ置かれているシンプルな部屋だった。


もしかしてこのベッドに推しが寝たことが…?


いやいやいや、冷静になれ私。
いくら推しが寝たかもしれないベッドが目の前にあるからといって衝動的に飛び込もうとなんてしちゃダメ!
ちょっと匂いを嗅いでみたいな…なんて変態時見た事も頭に過ぎるけど!


せっかく雇って頂いたのに推しに嫌われて解雇とか絶対にダメだから!それは人としてダメだから!
理性が煩悩に負ける前に早く着替えて外に出ないと!


「、思ったより…早かったね。メイドも付けなかったから手間どうと思ったのに」
「いえ、いつも着替えは自分でしていますので問題ありませんよ」


それにあれ以上あの部屋に居れば何をしでかすか自分でも分からない。なので出来るだけ早く着替えを終わらせてきたんですよ。なんて本当のことは言えないのでとりあえず笑っておこう。


「初めてメイド服を着用したんですけど、似合ってますか?」
「……………まぁ、いいんじゃない」


間が長い…!


横を向いてしまったから表情は見えないけど、きっと気まずくなってるはず。
すみません、思ってもないことを言わせてしまって。
ちょっと煩悩まみれだった事を誤魔化したくて言ってみたんですけど、冗談にしても答え辛かったですよね。


「えっと…着替えたのでまず何から始めればいいでしょうか?」


空気を変えるために話題を変えよう。


「そうだな…部屋の外にティーセットが置かれているはずだから、それでお茶を淹れて」
「かしこまりました」


ドアを開ければエリオット様の言った通りティーセットが置かれている。
なんて用意がいいんだろう。


だけど、これ自体を取りに行く所から私の仕事なんじゃないのかな?
ここではティーセットを用意する係、淹れる係は別なのかな?
よくわからないけど、とりあえず言われた通りにお茶の用意をしよう。


ふむふむ、流石国家騎士団を取りまとめ王家に信頼されたルバーム家、茶葉も貧乏貴族のうちと違って最上級の茶葉を使っているんだ。
きっと香りも良いんだろうな。


「あ、それは使わないでこっちを使って」
「え、はい。かしこまりました」


茶葉を開けようとする前にエリオット様から待ったが入り、引き出しから茶葉を取り出して渡される。


お茶にこだわりがあるのかな。
渡された茶葉の名前はしっかり覚えておこう。
これは決して推しの好きな物が知りたいとかそういうのではなく、雇い主の趣向をチェックしておくのも専属メイド兼補佐の仕事の一環。断じて推しの好きな物チェックでは無いと言っておこう。


いや、本当は推しの好きな物が知れてめちゃくちゃ嬉しいです。
給料を頂いたらこの茶葉買って飲んでみよ。


「お茶の用意が出来ました」


私がお茶の用意を始めてから書類仕事に取り掛かり始めたエリオット様にお茶を持っていく。

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