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しおりを挟む「えっと、ジョンは靴屋の息子で幼なじみに片想い中の12歳で、クルトはパン屋の孫息子で最近お店の手伝いを始めたばかりの5歳児です…」
この答えでいいのかな?
こういう場合ってなんて答えるのが正解?
2人の何が知りたかったのか分からないからどう答えるのが正解なのか分からない。
「片想い中の12歳と5歳児…そっか、なら良かった」
何が良かったんだろう…。
問い詰める様な雰囲気は無くなったからよかったけど、今日の彼は感情の起伏が激しい気がするな。
一体どうしたんだろう。
「パン屋って、もしかしてエマがくれたジャムパンが売ってたりする?」
「はい、覚えていただいていたんですね」
「うん、パンにジャムが入ってるなんて初めて食べたからよく覚えてる。あれもまた食べたいな」
「なら、ジュースを飲んでから案内しますよ」
「じゃあ、お願いするよ」
そうして私は一通りのオススメグルメを案内し、帰宅する頃にはお腹がはち切れんばかりになり、食い倒れとはこのことか、と学んだ日になった。
帰りも馬車で送ってもらい、帰り際にお父様とお母様を交えて彼と何かを話したけど、正直糖分の摂りすぎで頭が全く回っていなくて話の内容は全く覚えていない。
覚えていないけど、どうやら私は推しの家ーーールバーム家で働くことが決まったようです。
って、どういうことーー!?
「もう一度言っておくけど、エマは俺の専属メイド兼補佐係だから、俺の指示以外聞く必要は無いから。で、何か質問ある?」
「はい!どうして私はメイドにしていただけたのでしょうか!」
彼の家は代々を守る騎士団を取りまとめる高位貴族、そんな家で働く人も当然高い教養と気品を持つ貴族出身の人達。
それなのに、貧乏貴族で教養もそこまで高くなく、気品?そんなもの生まれる前から持ち合わせていませんでしたが?状態の私がなんの審査もなく働けるなんておかしすぎる。
「エマといると楽だから」
「そんな理由で!?いや、そんな理由で簡単に専属メイド兼補佐係に採用しちゃいけませんよ!確かに、ルバーム様はなんでも1人で出来るほど優秀な方ですけど、だからって楽だからって理由で何の役にも立たない私なんかを雇うのは間違ってますよ!」
「あ、そうだ。今から俺の事名前で呼んでね。ややこしいから」
そっか、ルバーム家で働くなら家名で呼ぶと他の方が反応する場合もあるか。
それなら、エ、エリオットと呼んでもいいってこと!?
いいの?いいの!?
前世では普通に呼び捨てしまくっていたけど、今世では立場が違い過ぎて心の中で呼ぶのもはばかられて、だけどルバーム様っていうのも違和感があって呼び方を悩んでいたけど!
ついにエリオット呼びを許可してもらえた!?
って、違う!
推しから名前呼びを許可されて舞い上がってしまったけど、もっと重要なことがあるでしょ!
「あの、ですからどうして私なんかを雇って下さったんですか。というか、私はここで働くことを今知ったんですけど」
「え?下町で買い食いした時の帰りに俺から頼んでエマが了承してくれただろ。それに、ちゃんとご両親からも働く許可をもらっているし」
な、なんだってーーー!!
それよりあの両親知っていたのか!
今日も突然この人が家にやって来て私に馬車に乗るように言ってきた時、やけにニヤけてるなと思った理由はそれだったのか!
くぅううう…どうせ私の結婚相手が思うように見つからない時に出仕の話が来て渡りに船だと思ったのでしょうね!
ちくしょう!もしそうだったとしても事前に伝えてよ!と言いたいけど、私が了承した?
馬車の中で了承した…?
正直、あの時は頭が全く回っていなくて会話の内容をほぼ思い出せない。
だけどーーー。
「給料がいくらなら働くかって話はした様な…」
「あんなに色々話したのに覚えてるのはそこだけ?というか、雇用の話忘れてたなんて嘘だろ」
推しの「マジでありえねぇこいつ…」っていう視線が痛い!
「その…あの日はエリオット様と一緒にいられることで緊張して疲れてしまったので、馬車に乗った時は疲れ切って話をよく聞けていなかったんです……申し訳ありません」
実際は糖分過多で頭が回っていなかっただけなんだけど、それはちょっとマヌケ過ぎるから黙っていよう…。
だけどこんな理由で許してもらえるわけないよね。
「…今回だけだからね。次からはちゃんと話を聞けよ」
許してもらえた!?
え、いいの?
「けど、雇用の話はなかったことに出来ないから。もう一度メイドを探す気力も時間もないし」
「わかりました。覚えてはいませんが、1度自分が了承した事なので責任を持って仕事を行います!」
それに働くこと自体は嫌いじゃないし、家で縁談の話をされるよりは余程いい。
それに何より間近で推しを見られるんだからこんなに幸せなことはない!
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