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しおりを挟む「ここでのオススメは?」
「ん~どれも美味しいので全部…」
「それは流石に無理。エマがよく飲むのは?」
「今の時期だといちごですね」
「時期で変わるの?」
「変わります!」
このお店は季節問わずいつでも全メニューのジュースが飲めるけど、その理由は前世と同じようにハウス栽培で旬では無いフルーツ達を育てる技術がこの世界にあるから。
ハウス栽培はまだまだ普及していなくて収穫されたフルーツ達はとても高価で取引され、上流貴族の人達しか買うことは出来ないもの。
だけど、傷んだフルーツや売れ残ったフルーツはそこそこ安い値段で取引される。
それをここのお店が買取ってジュースにしているというわけだ。
なので、ここではいつでも旬じゃない無いフルーツジュースも飲める。
だけどやっぱり旬のフルーツジュースの方が味が濃くて美味しいんだよね。なので私はその事を力説する。
「なるほど。そういえば、旬のフルーツって季節によって違うんだっけ」
「あ、はい…」
そういえば、この方も旬とか関係なくいつでも好きな物を食べられる高貴な方だったわ。
旬の果物でさえ買うのがやっとな私とは住む世界が違うと改めて実感する。
こうして一緒に買い物が出来るのって本当に奇跡に近いよなぁ。
「…急に手を合わせてどうしたんだよ」
「今この瞬間の奇跡に感謝をしたくなっただけです」
「なんだよそれ」
あ、今ちょっと笑った。
どうして笑われたのかは分からないけど、やっぱり笑った顔もイケメンだ。
「それより、エマはよくこの店のこと知ってるんだな」
「まぁ、ここの人とよく話しますし、たまにお手伝いさせてもらったりもしてますから、ね、クラウスさん」
私が彼と話しているあいだ、他のお客さんを相手にしながら面白そうにニヤニヤしてこちらを見ていた店主に声を掛ける。
そうすれば、ニカッと笑って頷いてくれる。
「ああ、エマちゃんにはいつも助けられていますよ。それより、お2人はデートですか?」
「ちょっと、クラウスさん何言ってるの!」
サンドウィッチの店のおばちゃんと会った時もそうだけど、私が男の人を連れていたらデートだって思うのなんなの?
どう考えても彼と私じゃ釣り合わないでしょうが。
「それより、苺ジュース2つ下さい!」
「はは、冗談だって。そう怒るなよ、お詫びにジュースタダにしてやるから」
「え、いいの!?やったー!じゃあ、許す!」
「エマちゃんは相変わらず現金だなぁ」
そんなのは当たり前!
私のバイト30分とジュース1杯はほぼ同額なんだから。
おまけ、値引き、タダは私にとっては神の一言よ。
というか、クラウスさん口調戻ってるし。
すぐに口調を戻すなら丁寧な口調に変える必要なんて無かっただろうに。
「ほら、ジュース出来たよ。持っていきな」
「ありがとうクラウスさん!大好き!」
そう言ってジュースを受け取ろうとすると、私とクラウスさんの間に腕が伸びてくる。
「これ、釣りは要らないから」
伸びてきた腕はクラウスさんからジュースを乱暴に受け取り、代金にしては多過ぎる金額をクラウスさんに握らせて私の手首を掴んで店の外へと出ていく。
あれ?デジャヴュ?
さっきもこんなこと無かった?
それより、掴まれた手首が痛いのですが…。
私、何か怒らすようなことでもしたのかな?
表情はよく見えないけど、なんだか不機嫌そう?
もしかして、代金をタダにしてもらおうとしたのが良くなかった…?
上流貴族の彼からすれば、平民から施しを受けて侮辱されたって思っちゃった?
貴族の中には平民を見下す人がいるし……というか、大半がそんな人達ばかり。
彼はサンドウィッチのおばちゃんとも普通に接してくれていたからそんなことは無いと思ったけど、流石に代金をタダにしてもらったのはプライドを傷付けてしまったのかもしれない。
彼が居るのにいつものノリでクラウスさんと話すんじゃなかった。
クラウスさんは前世の私と年齢が近いから、なんだか同年代の人と話す感覚に近くて、冗談や軽口をついつい言ってしまうんだよね…。
だけど、そのせいで私は推しを傷付けてしまうなんて…!
バカ!私のバカ!時間が戻せるなら軽口を叩いた私をぶん殴ってやりたい!
「さっきの男とどんな関係?」
「え、どんな…?」
急に何故そんなことを聞いてくるのだろう。
歩きながら聞かれた質問の意図は分からないけど、私から言えることは。
「雇い主とアルバイトの関係、もしくは店主とヘビロテユーザーですね」
「へび?何それ?」
「常連客、ということです」
いけないいけない、つい前世で使ってた言葉を使ってしまった。
だけど、それを言ったおかげでヘビロテ言おうとして言えない可愛い推しを見れたから言ってよかった。
「本当にそれだけ?」
「はい、そうですよ。それ以外になんの関係があるんですか?」
「…………他にもあるだろ。例えば…………異性として気になるとか………」
言いずらそうに言われた言葉にはてなマークが私の頭に大量生産される。
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