上 下
15 / 32

15

しおりを挟む



「ここでのオススメは?」
「ん~どれも美味しいので全部…」
「それは流石に無理。エマがよく飲むのは?」
「今の時期だといちごですね」
「時期で変わるの?」
「変わります!」


このお店は季節問わずいつでも全メニューのジュースが飲めるけど、その理由は前世と同じようにハウス栽培で旬では無いフルーツ達を育てる技術がこの世界にあるから。


ハウス栽培はまだまだ普及していなくて収穫されたフルーツ達はとても高価で取引され、上流貴族の人達しか買うことは出来ないもの。
だけど、傷んだフルーツや売れ残ったフルーツはそこそこ安い値段で取引される。
それをここのお店が買取ってジュースにしているというわけだ。


なので、ここではいつでも旬じゃない無いフルーツジュースも飲める。
だけどやっぱり旬のフルーツジュースの方が味が濃くて美味しいんだよね。なので私はその事を力説する。


「なるほど。そういえば、旬のフルーツって季節によって違うんだっけ」
「あ、はい…」


そういえば、この方も旬とか関係なくいつでも好きな物を食べられる高貴な方だったわ。
旬の果物でさえ買うのがやっとな私とは住む世界が違うと改めて実感する。


こうして一緒に買い物が出来るのって本当に奇跡に近いよなぁ。


「…急に手を合わせてどうしたんだよ」
「今この瞬間の奇跡に感謝をしたくなっただけです」
「なんだよそれ」


あ、今ちょっと笑った。
どうして笑われたのかは分からないけど、やっぱり笑った顔もイケメンだ。


「それより、エマはよくこの店のこと知ってるんだな」
「まぁ、ここの人とよく話しますし、たまにお手伝いさせてもらったりもしてますから、ね、クラウスさん」


私が彼と話しているあいだ、他のお客さんを相手にしながら面白そうにニヤニヤしてこちらを見ていた店主に声を掛ける。
そうすれば、ニカッと笑って頷いてくれる。


「ああ、エマちゃんにはいつも助けられていますよ。それより、お2人はデートですか?」
「ちょっと、クラウスさん何言ってるの!」


サンドウィッチの店のおばちゃんと会った時もそうだけど、私が男の人を連れていたらデートだって思うのなんなの?
どう考えても彼と私じゃ釣り合わないでしょうが。


「それより、苺ジュース2つ下さい!」
「はは、冗談だって。そう怒るなよ、お詫びにジュースタダにしてやるから」
「え、いいの!?やったー!じゃあ、許す!」
「エマちゃんは相変わらず現金だなぁ」


そんなのは当たり前!
私のバイト30分とジュース1杯はほぼ同額なんだから。
おまけ、値引き、タダは私にとっては神の一言よ。


というか、クラウスさん口調戻ってるし。
すぐに口調を戻すなら丁寧な口調に変える必要なんて無かっただろうに。


「ほら、ジュース出来たよ。持っていきな」
「ありがとうクラウスさん!大好き!」


そう言ってジュースを受け取ろうとすると、私とクラウスさんの間に腕が伸びてくる。


「これ、釣りは要らないから」


伸びてきた腕はクラウスさんからジュースを乱暴に受け取り、代金にしては多過ぎる金額をクラウスさんに握らせて私の手首を掴んで店の外へと出ていく。


あれ?デジャヴュ?
さっきもこんなこと無かった? 
それより、掴まれた手首が痛いのですが…。


私、何か怒らすようなことでもしたのかな?
表情はよく見えないけど、なんだか不機嫌そう?


もしかして、代金をタダにしてもらおうとしたのが良くなかった…?
上流貴族の彼からすれば、平民から施しを受けて侮辱されたって思っちゃった?
貴族の中には平民を見下す人がいるし……というか、大半がそんな人達ばかり。


彼はサンドウィッチのおばちゃんとも普通に接してくれていたからそんなことは無いと思ったけど、流石に代金をタダにしてもらったのはプライドを傷付けてしまったのかもしれない。
彼が居るのにいつものノリでクラウスさんと話すんじゃなかった。


クラウスさんは前世の私と年齢が近いから、なんだか同年代の人と話す感覚に近くて、冗談や軽口をついつい言ってしまうんだよね…。


だけど、そのせいで私は推しを傷付けてしまうなんて…!
バカ!私のバカ!時間が戻せるなら軽口を叩いた私をぶん殴ってやりたい!


「さっきの男とどんな関係?」
「え、どんな…?」


急に何故そんなことを聞いてくるのだろう。
歩きながら聞かれた質問の意図は分からないけど、私から言えることは。


「雇い主とアルバイトの関係、もしくは店主とヘビロテユーザーですね」
「へび?何それ?」
「常連客、ということです」


いけないいけない、つい前世で使ってた言葉を使ってしまった。
だけど、それを言ったおかげでヘビロテ言おうとして言えない可愛い推しを見れたから言ってよかった。


「本当にそれだけ?」
「はい、そうですよ。それ以外になんの関係があるんですか?」
「…………他にもあるだろ。例えば…………異性として気になるとか………」



言いずらそうに言われた言葉にはてなマークが私の頭に大量生産される。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います

下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。 御都合主義のハッピーエンドです。 元鞘に戻ります。 ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

処理中です...