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「何?そんなに俺の顔見て」
「やっぱりルバーム様はイケメンだな、と思っていただけです」
「っ、」
「大丈夫ですか!?」


突然足がもつれそうになったので慌てて彼の体を支える。


「大丈夫。ちょっと石に躓いただけだから」
「そうなんですか?どこも怪我とかしていませんか?」
「別に何ともないよ。それより、曲が終わったな」
「そうですね。ありがとうございました」


リードのおかげで人生初めてミスせずに踊りきれた!
そんな記念すべき初めてを推しと踊れたなんて、私は今日が命日なのかもしれない。


学校に通った3年、食べ物を渡し続けた約1年。
毎日推しを見て幸せを感じた日々だった。
そして、卒業パーティでは踊ってもらえて、きっと私は一生分の運を使い果たしたと思う。


だけど、この日々があったからこそ、これからの人生を乗り越えていけそうだ。


「あのさ、あんたって俺が落ち込んでないと会いにこないの?」


ん?何故今そんなことを聞かれているんだろう?
落ち込んだ時以外に話しかけるきっかけもないし、私みたいなモブに絡まれるのは面倒だと思うから会いに行かなかったんだけど…。
それに彼は学年問わずモテてるからよく女子に話しかけられていて忙しそうだし。


「魔術大会の後から全然姿見せないし、学校で探してみても全然見つかんないし。俺避けられてんのかと思ってた」
「え!さ、避けてなんてないですよ!私の方は毎日ルバーム様の事見てましたし!」
「なら、なんで話しかけてこなかったんだよ」
「それは、きっかけがなくて…」
「きっかけとか無くても挨拶するとかあるだろ」


まぁ、そうなんですけど。
私的には何も無いのに推しに話しかけるって結構ハードル高いんですよ!
というか、なんかちょっと怒ってる?
知り合いなんだから挨拶くらいしろよってこと?


いやいや、推しであるのもそうですし女子に囲まれてる中に挨拶しに行くとか無理ゲーですよ!
私が食べ物を持って行ったり出来たのは、彼が1人だったっていうのが1番大きいんですからね!


「花火の時は普通に渡しに来ただろ」
「うっ…」


私の心の声を見透かしたように言われて言葉につまる。


「あの時は…人は居ても学校じゃなかったので…。あ!あ!料理が冷めますし!一旦食べませんか!?」
「……あんた、話逸らすの下手過ぎるだろ」


それは否定出来ない…。


「ま、今回は見逃してあげる」


今回って、卒業したらもう会うことがないのにそんな言い方をするなんて、私に気を使わせないようにしてくれているのかな。


「そういえば、あんたの名前教えてよ」


お皿からつまみながら彼が私に名前を聞いてくる。


そういえば、花火大会の後も1度も名乗っていなかったな。
どうせ今日でお別れだし、たいした名前でもないけど、最後だから名乗らせてもらおうかな。


「エマ。エマ=グランテです」
「エマ…どこにでもありそうな名前だな」
「よく言われます」


どストレートに思ったことを言ってくるな…。
どうせ私はモブだからどこにでもありそうな平凡な名前なんですよ。
見た目も平凡だから、名前負けするような名前じゃなくて良かったとは思っているけどね。


「で、エマは今後どうするの?」
「!?」


いきなり名前呼びですか!?
推しから名前呼びされると思わなくて心臓がドキってしたんですけど!危うく不整脈を起こしかけるところだった!


私はこんなにも焦ってるのに、彼を見れば何ともないような顔してるし。
流石、ヒロインに会うまでは来る者拒まずのプレイボーイ。
女の子の名前呼びなんて慣れていますか。 そうですか…。


「…今後って、卒業してからのことですか?」
「うん…。俺はさ、卒業したら直ぐに父親の補佐として働くことが決まってるし……………あと、婚約者が出来るかも…」


彼の家は確か、騎士団を取りまとめる家系だっけ。
言いにくそうに言ったけど、貴族なら婚約者が出来てもおかしくないよね。むしろ、卒業してから出来るのは遅い方か。
ヒロインへの恋心が断たれた今、女遊びも止めて家の将来のためを考えて婚約者を作ろうと決断したのかな。


ヒロインへの失恋の傷がもう癒えたのかは分からないけど、どうかお相手は彼の見た目だけじゃなく、中身もしっかり理解して互いに一緒にいて幸せだと感じれる様な人でありますように。
今日限りで彼に会うことが出来なくなる私は、心の中でそう祈っておこう。


「エマは?」
「私も、同じ様なものですね、私もそろそろ婚約…というか結婚しろと言われている…」
「は?結婚?どういうこと?」
「ど、どういうことと言われましても…」


何故かいつもの興味無さそうな返事ではなく、弾かれたようにこちらを向く彼に動揺してしまう。


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