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しおりを挟む月日が流れるのは本当に早い。
年寄り臭い言い方だと言われるかもしれないけど、前世アラサー+今世で現在17歳の私が言うのだから何らおかしい事はないだろう。
アラサー+17かぁ…今更合計年齢にビビるな。
精神年齢アラフィフがピチピチの現役学生…。
いや、今はその事を深く考えるのはやめよう。
気付けば彼に抱きしめられた日から数ヶ月経ち、今日はもう卒業パーティの日。
あの日から彼と顔を合わせることは1度もなかった。
遠目からは何度も見ていたけど、話すことも特になかったし、彼だって突然食べ物を持って現れるおかしな女に落ち込んでもいないのに関わられるのは嫌だろうから声もかけなかった。
今日で、推しを直で見られるのは最後か。
卒業すれば、貴族は各々の家に従って職に就いたり結婚したりする。なので、卒業すれば彼と会うことは出来なくなる。
この世界にカメラがあったら、彼の写真を撮りまくっていたのに…。
卒業するまでに誰かカメラに代わる魔道具を発明して下さいと祈り続けたけど、ついぞ出来ることは無かった。
なので、今日はしっかりとこの目に推しを焼き付けよう!
さて、彼はどこにいるかなぁ…。
と探し始めると、突然周りから盛大な拍手が起こる。
何事かと周りを見回せば、ヒロインとヒーローがパーティに入場してきたらしい。
色々あって、あの人達の関係は周知の事実になって、生徒と先生の禁断の関係!なんて言って彼らを題材に本にまでなって、二人の関係は今や国全体で祝福されているんだっけ。
やっぱり主役なだけあって、2人とも周りと違って目を引くなぁ。
けど、私の探してる人ではないから視界からシャットアウト。
私の探し人はどこにいるかな。
あ、いた!どうやら庭に出ていこうとしているみたいだ。
ヒロインのことは諦めても、まだ2人を直視できるほど失恋の傷が癒えていないのかもしれない。
こういう時はやっぱり、美味しいものを食べて忘れるのが1番だよね!
適当に美味しそうなものをお皿に取り分けて彼に食べてもらおう。
おかしいな、こっちに歩いていったと思うのに…。
「そんなに食べ物を皿に盛って何してるの?」
「っ!あ、ルバーム様」
明かりが少ない暗い庭で突然声をかけられて飛び上がりそうになったけど、相手が彼だと気付いて何とかお皿を落とさずに済んだ。
「ま、聞かなくてもだいたい予想はつくけど。それ、もしかしなくても俺に?」
「はい。こちらに歩いて行くのが見えたので、召し上がって頂こうと思いまして」
「あんたって、ホント俺に食べさせるの好きだよね。そんなに太らせないの?」
「いえ!決してそんなつもりは!」
まずい!まさか食べ物を持っていく理由をそんなふうにも捉えられていたなんて!ここは誤解をとかないと!
「私はただ、美味しいものを食べていただきたいだけで、他意は無くてですね…!やはり、美味しい物は他の人にも知ってもらいたいので、えっと、別に太らせたいわけでは…」
「ふ、知ってるよ。ちょっとからかっただけ」
よ、良かった…からかわれただけだったのか…。良かった、悪意で食べ物を持ってきてると思われてなくて。
「ねぇ、せっかくだから踊らない?」
「………私と、ですか?」
「他に誰がいるんだよ」
いや、だって。
まさか両手に料理が乗ったお皿を持ってる私にダンスを誘うなんて思わないじゃん。
それに、私だよ?特に綺麗でも可愛い訳でも無いどこにでも居そうなモブの私に、超絶イケメンの推しがダンスを誘ってくるなんて思わないじゃん!
「音楽は聴こえて来てるんだし…ほら、手」
手を差し出してくれるけど、生憎と両手が塞がっていて取れない。
「全く…あんた相手だと雰囲気も何もないな」
「それは、すみません…?」
「ま、今更だから別にいいけど」
そう言って指をパチンと鳴らして風魔法で私が持っていたお皿を浮かせてくれる。
「これなら大丈夫だろ」
そう言って再び手を差し出してくれるので、手をそっと重ねる。
「一応踊れますけど、下手ですよ?」
「その分俺がリードするから、あんたは俺に委ねてればいいよ」
手を握りながら、彼が宣言通り完璧なリードで私をフォローしてくれる。
すごい、今までこんなに踊れたことないよ!
自分の身体じゃないみたいにスムーズに身体が動く。
この人は本当になんでも出来るすごい人なんだと改めて思う。
見た目も頭が良くて、なんでも出来て、少し不器用だけど誰にでも優しい彼を振るなんて、本当にヒロインももったいないことをするな。
私がヒロインなら、絶対この人を選ぶのにな。
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