当て馬役推しの私は、彼の幸せを切に願っています……が、この状況はどういうことでしょうか!?

しあ

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なにこのいい匂い!!
イケメンはいい匂いって本当だった!!
いや、いい匂いだってのは近付いた時に知ってたけど、なんて言うの?もう今そのいい匂いに包まれて何も考えられないんですけど!?


いい匂い、いい匂い、いい匂い!
てか、案外胸板厚い!これって、背中に腕回していいのかな?流石にそれはおこがまし過ぎる?てか、心臓の音めちゃくちゃ聞こえるんだけど!ちょっとだけ早い?


平静を装ってるけど、やっぱりショックだったんだろうな…。それに、決勝ではかなりやり合って怪我をするほど激しかったもん。


って、怪我!
そうだ!怪我してるんだったら手当てをしないと!!


「あの、今すぐポーションをもらってくるので一旦離してもらってもいいですk…」
「ダメ」
「え…」


なんか食い気味に否定されたんですけど…。


「でも、怪我してましたよね?」
「それなら自分で治した」


流石ハイスペ当て馬。
ポーションなんて出番ありませんでしたね。


「あれ?でも、ここ怪我してません?うわっ」


ちらっと見えた彼の肩に怪我を発見して伝えると、何故か抱きしてる力を強められてしまった。


ふぉぉぉおおお!推しとの密着率が上がる!!
なにこのご褒美!?持ってきたクロワッサンが冷めてしまったのにこんなご褒美を頂いてもいいんですか!?


「そんなの後で治すからいいの 。それより、じっとしててよ。俺を慰めてくれるんだろ」
「そう、ですけど…」


ここまで密着するのは予想外でした!
てか、全然泣いてませんよね?
むしろ、私の髪を指に絡ませたりして遊んでません?


「あの、それ楽しいですか?」
「まぁまぁかな」
「そうですか…あの、後どれくらいこの状態でいた方がいいでしょうか…」
「うーん…俺が満足するまで?」


それっていつですか!
ちょっと本気で心臓が破裂しそうなんですけど!
腕を広げたのは私ですけど、本当にキャパオーバーです!
前世含め男性と触れ合うことなどほぼ皆無な私にこの状態はハードルが高過ぎた!
ノリで胸を貸すなんて言うべきじゃなかった!女友達に言うようなノリで言った私を誰か殺してくれ!


「あんたの髪は触り心地がいいんだね」
「…ご満足いただけたなら、良かったです」


日々メイドさんが頑張ってくれているおかげで推しに褒めてもらえた。ありがとうメイドさん。今度なにかプレゼントしようと思います。


「そういえば、いつも後ろに下ろしてるけど、髪飾りとか付けたりしないの?女子の間で結構流行ってるけど」
「流行りには疎くて…」


そもそも精神年齢アラサーにはあんな可愛い若者の髪飾りは精神的にキツイです…。


「ふーん」


そう彼がいつもの様に興味が無さそうに返事をしたのを最後に、私たちの会話は途切れた。


推しと密着していることで全くもって落ち着かない。
だけど彼は、私の髪をいじるのが楽しいのか全然離れようとしてくれない。


心臓が爆ぜそうだから早く離してほしいけど、よく考えれば彼の初恋は今日で終わった。という事は、私が落ち込む彼に食べ物を持っていくことも今日で最後ということになる。


彼とこうして話すことができるのはおそらく今日で最後と言っても過言ではない…。


それならば、心臓の心配をするよりもこの貴重な時間を心に刻んでおく方が大切なのではないか?


ファンサ供給過多ではあるけれど、こんな奇跡はもう二度と来ないだろう。今後は話すことはおろか、顔を合わせることも、ましてや胸に顔を埋めるなんてこともできるわけが無い。


ならば今は何も考えずに、ただただ推しを感じよう。


そう煩悩優位な結論を付けた私は、彼が離れていくまでピッタリとくっ付いていた。ちゃっかり彼の背中に腕を回しながら。


いや、本当にいい匂い過ぎる!
回した手で触れた背中は程よく筋肉が付いていて、なんて言うか……体格までドタイプです!
まさか細マッチョだったなんて……!


一生推します!!


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