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しおりを挟む花火大会から後も、相変わらず私は推しが落ち込んでいそうな時は、そっと食べ物を渡して即去ることを繰り返している。
花火大会から変わったことといえば、食べ物を差し出した時に少し笑って「ありがとう」と言われるようになったくらいかな。
くらいと言っても、推しに目を見て微笑まれると感動のあまり鼻血を出しそうになるので彼にもっと自分の容姿について理解を深めていただきたい。
あの笑顔は反則でしょ!
落ち込んでるからちょっと影のある表情で、だけど食べ物を渡された事でちょっと嬉しそうに微笑するあの顔を見てファンの私が冷静でいられるとお思いか!?
もう有り難すぎて毎日イチオシグルメを献上したくなるじゃないか!そんなことをすれば、貧乏貴族出身の私のお財布が一瞬で空になるのは必至!だけど、推しに喜ばれるならそんなくらい軽く貢ごうと思うのがヲタクというもの!だけど、毎日私に行けば彼も鬱陶しいだろうか、私は何度も坐禅を組んで煩悩を消し去りイベント時のみ会いに行くと己に言い聞かせている。
そんな私は、イベントが起こった今日、推しに食べ物を渡しに行こうとしている。
が、しかし、今日の私はいつもと違って緊張している。
何故かと言うと、本日は学校の一大イベント、魔術大会が行われる日で、じれじれヒロインとヒーローがくっつく日!
つまり、私の推しの初恋が無惨に砕け散る日!
おそらく、というか絶対彼はものすごく落ち込んでいるはず。そんな彼に、私は食べ物を私に行ってもいいのか。
食べ物であの傷は少しでも癒えるのか…。
前世から数えで初恋すらした事の無い私には想像すら出来ない。
マンガの記憶を頼りに探しに来てみれば、頭にタオルをかけた彼がベンチに座って俯いている。
いつもみたいに、彼の隣にそっと食べ物を置いて帰ろうか。
だけど、あまり近寄れる雰囲気でもない。
失恋した時は、1人でいる方がいいのかな?
今日は近寄らずにそっとしておいた方がいいのかな…。
「ねぇ、居るんでしょ…?」
クロワッサンを片手にどうしようかと悩んでいると突然声をかけられて木陰で飛び上がりそうになる。
ど、どうして私がいるってバレたの!?
やっぱり声がいつもよりもかなり沈んでるし、来ない方が良かったかもしれない!
「バターの匂いがここまで流れてくるんだけど…。」
私のバカ!なんで出来たてのクロワッサンなんて選んだの!
でも、屋台で売ってて美味しそうだったし、彼に食べて欲しいって思ったんだから仕方ない!って、脳内で自己反論してている場合じゃない!
私がいる事がバレたんだし、いつも通り食べ物を置いて去ろう。
「ねぇ……今日は一緒にいてよ」
「え…」
近付くと、力無い声を出しながら手首を掴まれる。
縋るような手を振り払う事も出来なくて、静かに隣に腰かける。
「………俺さ」
「はい」
「……………多分、人生で初めてくらい頑張った」
「はい」
それは、魔術大会の事を言っているのかな。
確かマンガでは、大会の前に彼がヒロインに対して「大会に優勝したら付き合ってくれ」って言って承諾してもらえたんだよね。
だから、彼は今まで出した事ない本気を出して決勝まで勝ち上がっていった。
「けどさ…アレはずるいでだろ…」
「そうですね」
ずるいと言うのは、決勝相手になる人が昼食に当って腹痛で棄権して、本来なら不戦勝で彼が優勝するところを、ヒロインの想い人の先生が決勝相手の代打として出てきた事だろう。
マンガの読者なら、ヒロインを奪われないようにライバルの前に出てきてヒーローがヒロインを勝ち取るカッコイイシーンだと思う。
だけど、実際に見ると全然カッコイイとは思わない。
彼は本気を出して決勝まで勝ち上がっていったのに、今まで立場がどうとかうだうだ言って自分の気持ちに正直になれずにいたヘタレな大人が、やっぱり誰かに取られたくないからって代打で大会に出て優勝を勝ち取るのはどう考えてもおかしい。
いや、実際のところは学校側も先生を優勝させるのは不公平だということで、先生との試合は無効で彼が優勝者である事は間違いない。
だけど、彼からすればヒロインを勝ち取った先生が優勝で、先生に負けて得られた優勝なんてなんの価値もないだろう。
なんだかなぁ…。
ちょっとイラッとしちゃうよね。
彼は当て馬でヒロインと結ばれるとこはないって知ってても、態度と言葉で好意を示してきた彼と違って、いつも自分の感情から逃げて、だけど肝心なイベントの時だけは好意を全面に出してヒロインを攫って行って…。
先生と生徒だからとか、身分が違うからとか理由があるのは分かる。だけど、それならヒロインへの気持ちに完璧に蓋をすればいいだけなのに。
そうすれば、彼がこんなにも傷付くことはなかったのに…。
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