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まさか…。
しおりを挟む「大丈夫ですか?」
頭上から優しい声の男性が声をかけてくれる。
きっとさっき言っていた会社の社長の1人なんだろうな。
そんな人の前でなんてことをさせるのよあの2人。
社長さんたちに迷惑だから早く謝って立ち去らないと。
「大丈夫です。突然すみませんでした」
申し訳なくて顔が見られない。
頭を下げたまま去らせてもらおう。
そういえばこの男性の声、どこか懐かしい感じがする…。
ああ、そうか。
異世界で一緒に旅をした勇者のフィンに、声がよく似ているんだ。
けど、記憶の中の彼の声はもう少し若かったかな。
「ジュナ…?」
「え?」
この人、どうして私の名前を知っているの?
思わず顔を上げるとーー。
「フィン…?ウソ……」
どうしてここにフィンが…?
記憶している彼よりも年をとっているけど間違いない。
だけど、異世界に居るはずの彼がここに居るなんてどういうこと?
これって夢…?
「驚くと頬をつまむ癖はそのままですね。ジュナ」
「キール…?」
「はい」
パーティで魔術師をしていたキールもここにいるの?
「フィンやキールだけじゃなく俺もいるぞ」
重騎士の。
「スタング…」
「おうよ!」
「僕もいますよ、ジュナさん」
パーティ最年少でアサシンの。
「ロン…」
「はい!」
「な、なんでみんながここに居るの!?」
私、またいつの間にか異世界に召喚されていた!?
いや、でもここは同窓会の会場で…本当に意味がわからないんだけど!
「ジュナ、やっと会えたんだから顔をよく見せて」
「フィン…?」
優しく両頬を手で包んで顔を近づけられる。
相変わらず綺麗な顔をしてるなぁ。
あれから7年は経っているはずなのに美しさが全く衰えていない、むしろ磨かれている気がする。
「ようやく見つけた。結構掛かったけど、この世界に来て本当に良かった」
「ここに…来た?」
私が異世界から帰ってこられたって事は、こっちに来られる道筋があるって事だろうけど……どうしてわざわざこっちな世界に来たんだろう。
向こうの世界は魔王を倒して平和になったのだから、わざわざこんな生きづらい世界に来なくても良かったのに。
「フィン、いつまで独り占めしているつもりですか?私達は全員ジュナに会うためにここに来たのですから、独り占めは許しませんよ」
フィン達のことを考えていると、キールが腕を掴んで後ろに引いてくる。その行動でフィンの手から顔が開放される。
「ごめん、嬉しくてつい、ね。とりあえず、これから俺達食事する予定だからジュナも来てよ」
「え、いいの?」
いじめっ子達の話を聞く限り、この人達って今は大企業の社長さんってことでしょ?
そんな人達と一緒に食事なんてしていいの?
フィン達以外にも秘書的な人達が居るのですが…。
「コイツらなら気にすんな!適当にどっかで時間潰させるからよ」
「いいの?」
「いいに決まってますよ!むしろ、ジュナさんに会えたのに仕事なんてやってられませんよ!」
いや、仕事なんだからどうでも良くないでしょロン。
スタングも人の扱い方雑だし、この人達が本当に社長なのか疑わしくなってくる。
「スタング、部下は大切にしないとダメだよ。そんなんだから部下に裏切られたんでしょうが」
「うっ…あれは…魔族なんかの誘惑に負けたアイツが悪いんだろうが」
苦し紛れに言い訳してくるけど、あの裏切りのせいで私達のパーティが壊滅しかけたことは忘れてないからね。
「誘惑に負けたのが悪いって言うけど、そんな誘惑に負けるような鍛え方しか出来なかったのはスタングでしょ?」
「ぐっ、相変わらずジュナは手厳しいな」
「いや、あれはスタングが悪い」
「間違いなくスタングの責任ですね」
「やっぱり、あれは無いですよねぇ~」
「お、お前らまで…」
私の言葉に便乗してフィン達もスタングに追撃していき、ガタイが良いはずのスタングが小さくなっていく。
「ふふふ」
そういえば、旅をしている時はよくこうやってスタングをいじっていたっけ。
今の光景はあの頃に戻れたようで、なんだかとても懐かしいな。
「ジュナの笑顔も見れたことですし、そろそろ移動しますか」
「そうですね!」
「ほら、スタングも拗ねてないで早く行くよ。ジュナも」
「うん」
さっきはみんなが社長になっていたから遠慮しそうになったけど、社長になっても皆は魔王討伐の旅をした時のままだった。
何も変わっていない皆に遠慮しているなんて、なんだかおかしいよね。
社長だろうがなんだろうがフィン達はフィン達!
というか、私だって異世界では国王に頭を下げられるような立場だったんだから、立場がどうとかで気にする必要なんてなかったかも。
高校の同窓会に意図せず参加しちゃった時は時間の無駄だと思ったけど、こうして異世界での仲間に会えたんだから参加してよかった。
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