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証拠とは、こういうものです。

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「申し開き…と言いますか、殿下に申し上げたいことがございます」
「またその嫌味な言い方か…。まぁいい、最後だから聞いてやる。言ってみろ」


私の少し含みのある言い方にうんざりしたように発言を許可してくださる。
では許可も頂いたことですし、殿下に教えしてさしあげましょうか。人の罪を暴く時はどのようにするものなのか。


「お話する前に、ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「私が行ったという証拠はございますか?」
「証拠?そんなものはこのディアが証言していると言うだけで十分だろうが!」


常々殿下には頭が足りていないと思っておりましたが、まさかここまでとは。
私だけではなく国王陛下まで頭を抱えて呆れておられますわよ。


「罪を立証するのに証言だけでは不十分ですわ」
「はっ、その言葉こそが罪を認めているということだろう!証拠が無ければ立証出来ないと言って言い逃れするつもりだろうがそうはいかないぞ!」
「言い逃れするつもりは微塵もございませんわ」


そもそも言い逃れをする必要などどこにもありませんもの。


「それよりも…証拠というのは、この様にどなたが見ても罪があると理解出来るものをご用意くださいませ」
「なんだそれの透明な球体は」


私が傍に控えていた執事から魔道具を受け取ると、殿下は小馬鹿にしたように笑う。
ですが、笑っていられるのも今のうちだと思いますわ。
せいぜい今のうちに笑っていてくださいませ。


「こちらは、最近私と魔道具研究所で共同開発を行った映像記録魔道具です」
「映像記録?何を馬鹿なことを言っているんだ。そんな物はおとぎ話の中だけのものだ。夢を見るのも大概にしろよ」


どのようなものか見てもいないのに思い込みで否定するのは殿下の悪い癖ですわね。
その悪い癖のせいで今もこのような状況になっているのですが。


「おとぎ話の中だけなのかどうかは、その目で見て確かめて下さいませ」


周りにも聞こえるように言ってから魔道具を起動させる。


起動させれば魔道具の上から光が漏れていき、それが映像となって頭上に映し出される。


映し出された場所は、王立学園へ訪れたことのある者ならば誰もが知っている噴水の広場。
そこでは人目もはばからずに愛を囁き合う男女が1組。


「おい、なにを写しているんだ!今すぐ止めろ!」
「あら、嫌ですわ。まだ始まってもいませんのに何故そのように焦っておられるのでしょうか?」


映像を見て喚き出す殿下に、心底分からないと惚けたように返せばしどろもどろになりながら反論してくる。


「こ、こんなよく分からない魔道具をこの様なパーティで皆に見せるものでは無いだろう!い、今すぐ消すんだ!」


そう言われますが、映像はイチャつく男女をクローズアップしていき、男女の顔がハッキリと確認出来るほど鮮明に見えてきましたわ。


「この方々、殿下とそちらにいるディア様にそっくりですわね」
「っ、」


ふふふ、お二人共顔色がよろしくありませんわね。
ですが、今でそれでしたら続きはどのような反応をされるのでしょうね?


『ディア…君だけだ、こんなにも俺の事を理解し愛してくれるのは…』
『そんな…そんな事を仰るとエレノア様が悲しまれますわ』
『エレノア?あんなのは親が勝手に決めた婚約者なだけで愛などあるはずがない。俺はあんなのよりディア…君を生涯愛し続けたい』
『殿下…』


熱の篭った視線を交わすふたり。
そして2人の顔が段々と近づいて行き、唇が重なる。


その映像を見た周りにいるご婦人方は、ありえないと言ったように声を上げる。


分かりますわ。
親が決めたとはいえ婚約者がいる身で他の方とこのような事をするのはあってはならないことですものね。
ですが、これはまだ可愛い方ですわ。


2人のキスを捉えた映像は、次は人気のない教室へと変わる。
その途端、殿下が青ざめた顔で大声を上げる。


「お、おい…!一体何を映す気だ!!」
「さぁ?私、色々と撮りましたので次に映るものが何かは覚えていませんわ。殿下は…なにか心当たりがございますの?」


忘れることなんてありませんが、やはり証拠はしっかりと見て頂かなければいけませんわよね。
ふふふ、この映像を見たお二人の顔が楽しみですわ。


「や、やめてください!ごめんなさい!エレノア様は私を虐めてなんていません!私が嘘を吐きました!ですからお願い致します!どうかその魔道具を止めてください!」
「ディア…?」


あら、これからだと言う時に白状されてしまいましたわ。
ですが、自分で始めた茶番を勝手に終わらすなんて許しませんわ。


『早くエレノアと婚約破棄出来るように父上達を説得する。だから、それまで待っててくれるか?』
『もちろんです。ただ…』
『ただ、なんだ?』
『ただ、エレノア様はとても素敵な方で、私があの方に勝てるところなどひとつもありません。なので…殿下とこの先も一緒に居られるか心配で…』


泣きそうな顔をするディア様を殿下が優しく抱きしめてキスを落とす。
そうすれば周りから非難めいた声が飛び交う。


ですが、本番はここからですわ。

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