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今日の主役は私ではないわ!

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「貴女は、真心からこの男子を夫とすることを願いますか」


神父様が新郎に質問した後に私に質問をする。
これは結婚式で必ず聞かれる質問。


私はそれにーー。


「いいえ、願いません」
「ユリアナ?」


今日私と結婚する予定だったニコル様は驚きの声を上げ、式場全体がザワザワと動揺し始める。


だけど私はそんな声を気にせずに参列席を振り返る。


「私は、ニコル様と私の愛する妹ヘレナが結婚することを願います!」


ーー
ーーー
ーーーーー



それは、本当に偶然だった。


あと数日で結婚する予定のニコル様が忘れ物をしていることに気付いて、急いで馬車で追いかけようと庭を通り抜けていた時ーー。


ニコル様と私の愛する可愛い妹が、深い口付けを交わして居るのを見てしまったのです。


口付けが終わっても2人は抱き合ったまま離れず、互いの事をとても愛し合っているように見えました。隠れてそんな様子を見るのははしたないと分かっていても、2人から目を離すことが出来なくて、ぼーっと見つめてしまいました。


「ニコル…もうすぐで貴方はお姉様と結婚してしまうのね…」
「ああ…。だが、彼女と結婚しても俺が愛するのは君だけだよ、ヘレナ」


2人の会話で私が2人の愛を妨げていることを知って、驚きとともに胸が酷くいたんだ。


ヘレナは欲しいものがあればなんでも私にねだってきて、そんな彼女が可愛く思っている私はなんでも望むものを渡してきた。それなのに、彼女の愛する人を私が奪っていたなんて…。


そんなの、ヘレナが可哀想過ぎるわ…。


ごめんね、ヘレナ。あなたの気持ちに全然気付いてあげれなくて。分かっていたらすぐにでもニコル様と婚約解消をしたのに。


だけどもう数日で結婚というところまで来てしまっている。今から結婚式を断れば、双方の家にとっていい事は何もない。


それなら………ヘレナとニコル様の結婚式にしてしまえばいいのだわ!


なんていいアイデアなのかしら!
そうと決まれば周りに気付かれないようにヘレナのウエディングドレスを仕立てなければいけないわね!


主役はヘレナなんだから、うんと綺麗で可愛く仕上げてもらわないと!
そうと決まれば、今すぐ仕立て屋に連絡しないといけないわ!それから、髪飾りとアクセサリーも…これから忙しくなるわね。


だけど愛する妹のためだもの、これくらいどうってことは無いわ!


待っててねヘレナ、私が忘れられない結婚式にしてあげるから!


そう決意して、私の想像した通りの状況になった今、ヘレナはとても困惑した表情のまま参列席に座ってこちらに来ようとはしない。


少し驚かせすぎたかしら?
でも大丈夫よ。お姉様が付いているから、貴女は貴女の幸せだけを考えればいいのよ。


「今私が言った通り、ヘレナとニコル様はとても愛し合っています。ですから、私はこの結婚に異議を申し立て、今この場で2人の結婚を祝福したいと思います」
「お、お姉様…?な、何を仰っているの?」
「私、貴女達がキスしているのを見たの。とても愛し合っている貴女達の仲を引き裂くなんて私には出来ないわ」


参列している方達がザワついているけど、きっとヘレナとニコル様が隠れて愛し合わなければいけなかった事を不憫に思っているのでしょうね。


私も2人のことを知った時はそうだったから気持ちは凄く分かるわ。
でも結婚する前に知れてよかった。
そうでなければ、今頃可愛い妹の愛する人を奪った酷い姉になっていたんだもの。


「さぁ、ヘレナ。このブーケを持ってニコル様の所へ来て」
「お姉様、何か勘違いをなさっているわ。私は、ニコル様とそういう関係では…」
「何を言っているの、とても別れを惜しむように抱き合って、結局2人で馬車に乗ってどこかへ行ってしまったじゃないの」
「そ、それは…!」
「それほど愛し合っているのだから、早く行きなさい」


私に遠慮しているのか、ヘレナは誤魔化そうとするだけで席から立とうとしない。


サプライズという形を取ったのが良くなかったのかしら。


「今日はなんて目出度い日なんだ!ユリアナ嬢のおかげで我が兄が愛する人と結ばれる事に感謝を!さぁ皆様、我が兄とヘレナ嬢、お似合いの2人に祝福の拍手を!」
「カーライル様?」


ヘレナをどうやって壇上へ連れて行こうかと悩んでいると、突然ニコル様の弟のカーライル様が立ち上がり会場の皆様に声をかけてくださる。


カーライル様の言葉を聞いて、あちらこちらから拍手が上がり、段々と拍手の音が大きくなり最後は会場全体を音が覆った。


「さぁ、ヘレナ嬢。会場中が貴女達の婚姻を祝福しています。どうか壇上で兄と愛の誓いを交わしてください」
「え、ですが…。お姉様が…」
「貴女の姉上は、我が兄と貴女が結ばれることを心から願っておられるようなのでなにも気にする必要はありません」
「ですが…」


カーライル様から安心するように言われても、ヘレナはまだ戸惑った様に席を立とうとしない。
そんなヘレナにカーライル様はうっかり、というように言う。


「あ、そうですね。バージンロードを1人で歩けませんよね。すみません、失念してました。カールトン公爵様、お願いできますか?」
「もちろんです」


ヘレナがこれから結婚すると言うのに、お父様は呆れたような、怒ったような、なんとも言えない顔でヘレナの腕を掴んで無理やり立たせる。


「お、お父様、これは違うの」
「何が違うんだ。会場の皆様を待たせるな」


なにか言おうとするヘレナにお父様は淡々と話し、私の時とは違い引きずるようにバージンロードをヘレナと歩き、ニコル様にヘレナを預ける。


あら?なんだかニコル様も顔色が少し悪いような気がするけど、気のせいかしら?

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