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遠回しにお断りの言葉を伝えたとに、叔父様は変わらず優しい口調で話してくださる。


「俺達がそれを望んでいるのにかい?」
「それは…有難いことですが、私がここに居ていい事などありません」
「君がカーミラの娘だから?」


本当は違うけれど、ここは納得してもらえるように頷いておきましょう。


「…はい」
「その事なら気にするな。お前はあやつとは違って賢いワシの孫だからな。それと、お前はまだ子供なのだから、周りに気を遣わず少しは甘えなさい」


突然横からわしゃわしゃと髪を撫でられて当惑する。


「閣下…?」
「その呼び方も止めなさい。今日からお前はイザベラ=ワイズとなるのだから、私の事はお爺様と呼びなさい」
「ですが、」
「じゃあ、俺の事は叔父さんでいいから、なにか困ったことがあればいつでも相談するといいよ。それと、後で俺の妻を紹介するね」


お爺様の言葉に続けて、叔父様が私に何も言わせないように言葉を遮ってくる。


「あの、」
「部屋はこの者に案内させる。足りないものがあれば直ぐに言いなさい」
「閣、」
「初めまして、お嬢様。私の名前はマルタです、よろしくお願い致します。それでは、こちらですお嬢様。あまり使われていない部屋ですが、掃除は毎日しておりますのでご安心ください」


侍女長まで私に何も言わせないようにしてくるので、お爺様と叔父様にお断りの言葉が言えないまま部屋へと案内されてしまう。


「こちらが、お嬢様の部屋でございます」


案内された部屋は、前の人生で皇帝の側室として過ごしていた部屋と変わりないほど広くて豪華だった。


この部屋を、本当に私が使ってもいいのかしら…。
私はこんな待遇を受けていい人間ではないのに。


「お気に召されませんでしたか?」
「いえ、とても素敵な部屋で驚いていただけです。私には分不相応だと思いまして」
「そんな…。そんなことを仰られると、当主様が悲しまれます。どうか、当主様方の好意をお受け取りください」


そんなことを言われても、私がこんな部屋を使わせてもらって暮らすなんて、なんの償いにもならないわ。


だけど、断ればお爺様達が悲しまれるのかしら…。それなら、お爺様達のご合意を受け取り、贅沢せず、迷惑もかけずに静かに生活する方がいいのかもしれないわ。


この部屋を使いたくないと言えば、侍女長を困らせてしまうかもしれない。ここは素直にご好意に甘えることにしましょう。


「閣下に、素敵なお部屋を用意して下さり感謝しています。と伝えていただけますか?」
「私からお伝えするより、お嬢様から言って頂いた方が当主様はお喜びになられると思います。ですので、どうか、お嬢様からお伝えください」


私から伝えられて嬉しいものなのかしら…。


お爺様はただ、私が暮らしていた環境を哀れんでここに連れてきてくださっただけなのだろうから、誰から伝えられても同じなのではないかしら。


けれど、礼儀として感謝を自ら伝える方がいいわよね。


「分かりました。では、そう致します」
「是非、そうなさってください。それと、私共に丁寧な言葉遣いをされる必要はございません。どうか、楽にお話ください」
「今の話し方が一番楽ですので、お気になさらないで下さい」
「承知致しました」


余計な事を言わず受け止めてくれるなんて、流石ワイズ公爵家の侍女長ね。前に私に付けていた侍女は、私が望んでいないことまで何でも話していたのに。皇帝の側室になろうとも、所詮私の周りにいた人達はそういう人間しかいなかったのね。


「お嬢様の到着を前もって連絡頂いていれば、お洋服等も準備出来たのですが、今から用意いたしましても、明日のお洋服はご用意できそうにありません。ですので、こちらのドレスルームから合う服をご用意してもよろしいでしょうか」


そう言って開けられたドレスルームには、色とりどりのドレスが掛けられていた。ほとんどが大人用に見えるけど、その中から数着、今の私が着れそうなドレスを持ってきてくれる。


「こちらなど、どうでしょうか。……やはり、サイズがピッタリですね」
「やはり…?」


もしかして。


「このドレスは、母の物…でしたか?」
「はい、こちらはカーミラ様が幼少の時にお気に召されて、ずっと取っておられた物なのです」
「そう、なのですね」


侍女長の言い方は、お母様に対してあまり悪い感情を抱いていないように思える。


私の知っているお母様は、皇族への執念だけで生きている様な人だったけれど、もしかすると、侍女長抱いている印象は違うのかもしれないわね。だとしても、今更お母様のことを聞こうとは思わないけど。


「ここは、母が使っていた部屋なのですね」
「その通りでございます。これからお嬢様が使われることになりますので、この部屋もきっと喜んでいると思います」


優しく笑ってそう言ってくれるけど、そんなはずが無いわ。この部屋も、私に使われて可哀想ね。もっといい人に使われて欲しかったでしょうに。


出来るだけ汚さないように使うから、ここにいさせてもらう間だけ我慢してね。出来るだけ早く出て行けるようにするから。


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