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「どういう…ことかしら…」


目が覚めると、見覚えのある天井があった。


「おはよう、イザベラ。なんだか魘されていたみたいだけど、大丈夫なの?」
「お母様…」


間違いない、ここは私が皇城へ行く前にお母様と過ごしていた部屋だ。


だけど、どうして?
どうしてお母様は生きているの?
それに、私は処刑されたはずじゃなかったの?


「どうしたのイザベラ?ボーっとして、貴女らしくないわね。皇女になるのだから、どんな時でも気を緩めちゃいけないわよ。私達はもうすぐ皇城へ行くことになるんだから」
「…………うそ、ですよね」
「あら、嬉しすぎて嘘だと思ったの?大丈夫、本当の事よ」


そんな…。


「お母様、今何年何月何日ですか?」
「もう、なに寝ぼけているの、今日はーーー」


ありえない…そんな…。
お母様はもうすぐ、皇后陛下を殺害するために皇城へ行くつもりなんだわ。


そうなれば、前回と同じように、お母様が皇后陛下を殺害した後、皇子を人質に取り、私を皇城へと連れて来るように皇帝に要求するでしょう。


そして私は、再び皇城へと行くしかなくなるわ。だけど、私はもうあの場所には行きたくないし、行けるわけがないわ。


それに、お母様に皇后陛下を殺害させる訳にもいかない。前世で私達親子によって苦しめられた人達には、同じ苦しみを味わって欲しくはない。


きっと、私が処刑されて過去に戻ってきたのも、神様が私に償う機会を与えてくださったに違いないわ。


それならば、私のすることは1つよ。


前世で知ったお母様の実家へ、お母様を止めてもらうように手紙を書くしかないわ。廃嫡されたとは言え、流石に娘が皇后陛下を殺害しようとしている事を知ればどうにかしてくれるはずよ。


本当は私自身でどうにかしたいけど、今の私には出来ることが限られている。なので、今はこの手紙にかけるしかないわ。


どうか、この手紙によって、あの悪夢が再び起こりませんように…。


だけど、もしこの手紙が無駄だったとしても、何とか母を足止め出来るように私も準備しておく方がいいわよね。


言葉で母を止めることはきっと出来ないだろうから、お母様のお腹を壊す薬を作っておくことにしましょう。お母様なら簡単に治療薬を作ってしまうだろうけど、1日でもいいから出発を遅らせないといけないわ。


お母様が参加しようとしているパーティに行けないように…。


そう意気込んで薬を調合していたけど、その出番はなさそうで良かったわ。私の手紙を読んでくださったみたいで、お母様の実家の方が訪ねてきてくださったみたい。


前の人生ではでこんなことは1度もなかったから、きっとそうに違いないわ。


窓から見えた馬車の家紋を見て、思わず笑みがこぼれそうになる。だけど、何も知らないフリをしないければいけないわね。


お母様に実家の方が来られたことを悟られてはいけないわ。もしもお母様が逃げてしまえば意味が無いもの。


「ねぇ、お母様」
「なにかしら?」
「お母様は、何をしに皇城まで行かれるの?」
「それは、皇帝陛下と皇后陛下にお話をするためよ」


嘘つき。
話すつもりなんてあるはずが無いのに。
それどころか、お2人には接近禁止命令が出ているはずなのに、それでも会いに行こうとするのだからお母様の執念は本当にすごいわ。


今なら分かるわ。
お母様の目は正気なんかじゃない。
お母様はもう、とっくに狂ってしまわれていたのね…。


今更気付いた事に切なくなる。
私も…前はこんな目をしていたのかしら。


おぞましいこと…。


今回は誰も傷つくことがないために、今はお母様の気を逸らすことに集中しましょう。


「両陛下とお話が出来るだなんて、お母様はすごいですね」
「当たり前よ。あの2人と会って話しをするなんて簡単な事ーー」
「今の話は本当か」
「お、お父様!?」


予期せぬ人物の登場で、鼻高々に話していたお母様は一瞬にして顔色が変わる。お母様は驚きと動揺が隠せない様子ね。


そんなお母様に、部屋に入ってきたお母様のお父様。関係性からすれば、私のお爺様が怒りを抑えるようにお母様に問いかける。


「それで、今の話はどういう事だ。お前は両陛下に接近禁止命令が出されているはずだが」
「そんな、私が命令に背いてお会いするなんてありえませんわ。一体誰にそんな事を吹き込まれたのかしら」


お母様は動揺を隠しながらも、笑顔でとぼけて逃げようとする。


流石、私に嘘を信じ込ませていた人だわ。知らない人が見れば、本当に何も企んでいないと信じてしまいそう。


けれど、事前にお爺様には事細かにお母様が行おうとしている事を伝えてあるから、言い逃れなんて出来ないはずよ。


「死の薬草を、何故持っている」
「死の薬草?なんのことですか?家から追い出された私がそんなものを持っているはずが…」
「引き出しの奥か」


ポツリと呟いたお爺様の言葉に、お母様の笑顔が一瞬固まる。その表情の変化を見逃さず、お爺様は化粧台の引き出しを勢いよく引っ張り出す。


「ま、待ってくださいお父様!そこには何も!」


止めようとしても無駄ですわ。お母様。


取り出された引き出しを探り、お爺様が幾重にも巻かれた布を取り出す。それを解いた中から薬草が出てくる。


「まだ持っていたとは…」
「お父様!それは違います!それは死の薬草に似た…」
「他の者達が見間違えたとしても、我が一族の人間が見間違うはずがないだろ!お前は一体何を考えていたのだ!すぐに警備隊に捕らえさせてやる!」
「そんな…!お父様!」
「私に娘はもう居ない!今すぐこの者を捕らえろ!」


お爺様の言葉で、ドアの外に待機していた警備隊が部屋に雪崩込みお母様を捉えて連行していく。


「離しなさい!私が誰だかわかっていないの!私は本来この国の皇后となるべき人間なのよ!」


捉えられてもなお、お母様は激しく抵抗して喚き散らす。


「イザベラ!貴女が皇族に入って私の屈辱を晴らすのよ!いいわね!必ず私の無念を晴らすのよ!」


最後まで、お母様はずっと自分のことしか考えて居ないみたいね…。私は、この人に愛されようとして、あんなことを侵してしまったのね…。


「さようなら、お母様。私も償うので、お母様も自らの罪を償ってください」
「何を言っているの…?貴女は…貴女は私を幸せにする義務があるのよ!でなければ、貴女を産んだ意味が無いじゃない!私が何のために、あんな醜くて卑しい男に嫁いで子供まで作ったとーー」
「聞かなくていい」


喚き続けるお母様の声が途切れたと思えば、お爺様が私の耳を大きな手で塞いでくれていた。


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