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再会しました
しおりを挟む「あの…もしかしてラッツェル嬢ですか…?」
「もしかして…あの時の…?」
こんな偶然が有り得るのだろうか。
まさか今思い出していたその人に会えるなんて。
驚き過ぎて言葉が出ない私と違い、彼は嬉しそうに笑いながら話かけてきた。
「やっぱり!お久しぶりです!まさかお会い出来るなんて思っていなかったので、つい声を掛けしてしまいました」
「いえ、私もお会い出来るとは思っていなかったので、声をかけていただけて良かったです」
「そういう言ってもらえると有難いです。ですが、こんな夜更けにどうしたのですか?エーリッヒ殿下はご一緒ではないのですか?」
「あ、それはーーー」
別に隠すことでもないので、今日あったことを彼に伝える。
まだ国民にも伝わってはいないけど、どうせすぐに伝わる事だろうし、全てありのままを話す。
そうすれば、彼は少し悲しそうな顔をした。
「そうですか…今まで大変でしたね」
「でももう開放されたので、これからしたいことが出来ると思うと嬉しさしかありません」
「そうですね、今まで出来なかった分、存分に楽しんで下さい!あ、もし僕に出来ることがあればなんでも言ってください。例えば、トルーアの観光案内とか」
現地の人に観光案内をしてもらえるのはすごく有難い気もするけど…。
「今回は家族と来ていますので、両親も一緒に案内して頂く事になるのは迷惑だと思いますので、今回はお断りを…」
「別にいいじゃないか」
「え、お父様!?それにお母様までどうしてここへ?」
「娘が夜中に急に居なくなれば探しに来るのは当たり前だろう。それより、私達のことは気にせず、明日2人で観光してきなさい」
「そうよ、私達は久しぶりに2人っきりでこの国を観光するし。ね、あなた」
一体どういうことだろう…。
お父様達が急に現れたのは一旦置いといて、どうして初対面の相手に娘を簡単に預けれるのだろう。
今までのお父様達ではありえないのに…。
「もしかして、こちらの方とお父様達はお知り合いなの?」
「あら、バレてしまったわ」
「流石私の娘、直ぐに気づくとはな。ああ、彼は私の旧友の息子でな、家を出る前にここに泊まりに来ることを伝えてあったんだ」
「だから、彼が私と会えたの…?」
偶然に再開して、馬鹿みたいだけど少し運命を感じていたのに…。なんだか勝手にガッカリしてしまう。
だけど、彼が慌てて手を振って否定した。
「ち、違います!確かに、シルバーさんが来られることは聞いていましたが、ラッツェル嬢が来られることまでは知りませんでしたよ!それに、エーリッヒ殿下の事なども!」
「そうなんですか?」
「ああ、久しぶりにトルーアへ行くから、良ければ寄ってくれと言っただけだ」
「それに、あなた達が知り合いだなんて、私達も初めて知ったのよ」
「そうなんですか?」
彼やお父様達の顔を見るに、嘘は言っていないようだ。
なら、私の早とちりだったんだ。
なのに勝手にガッカリしてしまうなんて申し訳ない。
だけど、どうして私はガッカリしたんだろう?
仮に彼が私のことを知っていて会いに来てくれたとしても、再会出来ただけでも嬉しいはずなのに…。
「それにしても、あなた達随分仲が良さそうね。私達が知らないだけで、お手紙のやり取りとかしていたのかしら?」
「そ、そんな!以前たまたまお会いして話をして頂いただけです!それに…僕はまだ、ラッツェル嬢に名前すら告げられていませんから」
「そうなのか?あんなに仲が良さそうだったのに、どうして聞かなかったんだ?」
「それは…」
エーリッヒ様に呼ばれて聞くタイミングを逃したがらだ。
彼と話した後から、常に近くに居るように指示されて、そんな暇なんて1度もないまま別れてしまったんだから。
「あの、改めて僕の名前を名乗ってもよろしいですか?」
「もちろんです。遅くなりましたが、貴方のお名前を教えて頂けますか?」
「はい。僕の名前は…シャル、と申します」
何故だが彼が名乗ると、お父様達が面白そうに口の端を上げた。
彼の名前が変なのだろうか?
素敵なお名前だと思うのだけど…変なお父様達。
「シャル様と仰るんですね。私のことは、どうぞ気軽にアリアと呼んでください」
「よろしいのですか?では、お言葉に甘えて、アリア嬢と呼ばせていただきます」
「初々しいなあ。だが、自己紹介も済んだことだし、明日に備えて今日はもう寝ようか。ではシャル君、明日はアリアのことを頼んだよ」
「え、」
「はい!お任せ下さい!」
私はシャル様に観光案内をお願いするとも言っていないのに、勝手にお父様が2人で観光に行くことを決めてしまった。
シャル様も嬉しいそうに頷いていたので、尚更断れる雰囲気ではない。
まぁ、元々断る気なんてなかったけど…。
「ではアリア嬢、また明日の朝にお迎えにあがります」
「はい、お待ちしております。夜も遅いので、お気を付けてお帰りください」
「ありがとうございます。アリア嬢もお気を付けて。そして、良い夢を」
「シャル様も、良い夢を」
優しく笑うシャル様につられて私も笑えば、シャル様から見えないところでお父様達がニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「私達はお邪魔だったようだな」
「そうね、やっぱり明日はシャル君に任せて正解だったわね。ふふふ」
楽しそうに笑う両親に、何故だかシャル様と一緒に居心地悪く、なんともむず痒い気持ちになる。
「オホン、では僕はこれで失礼します」
シャル様が居心地悪い空気に耐えきれず、逃げるように挨拶をして去っていった。
両親と同じ部屋に帰る私は、ベッドに着くまで居心地の悪い視線にずっと晒された。
どうしてお父様もお母様もそんなニヤけた顔で私を見るのよ!
何も悪いことをしていないのに、なんだすごく恥ずかしいんだけど!
応援ありがとうございます!
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