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フィナーレです。
しおりを挟む一通り彼の愚痴を聞いて会場へ戻れば、会場にいる人達からの視線がグサグサと刺さる。
もちろん、私にではなくケイトにだ。
「皆様、クラリスが疲れていたようなので少し席を外してしまいすいませんでした。パーティは楽しんでいただけていますか?」
グサグサと刺さる視線の意味も気付かず、ケイトは盛大な猫を被りにこやかに話す。
そんなケイトにカトリーナ嬢が近寄ってくる。
「ケイト様、クラリス嬢が誕生日プレゼントに何をご用意されたか伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい、刺繍入りのハンカチを頂きました。クラリスから聞きました、カトリーナ嬢の提案だそうですね。素敵なプレゼントを提案していただきありがとうございます」
なんとも白々しい言葉だ。
散々プレゼントを貶していたのに。
「ふふふ、ケイト様って嘘がお上手なのですね」
「……はい?」
「全く、今まで騙されましたわ。それと、確かに貴方は顔が整っていますけど、貴方並みの方は世の中に溢れかえっていますわ」
「えっと…どうされましたか…?」
カトリーナ嬢から言われた言葉の意味が分からず、ケイトは目を白黒させる。
だけど、カトリーナ嬢はそんなことは気にせず話を続ける。
「貴方に愛想良く話しかけているのは、あくまでも"クラリス嬢の婚約者"で、私が愛用している化粧品を取り扱っている"ゼベット商会の息子"だからです」
「は、はぁ…」
状況が呑み込めず、ケイトは必死に笑顔を顔に貼り付けカトリーナ嬢の話を聞くしかなくなっている。
しかし、次のカトリーナ嬢の言葉でケイトの顔に焦りが出る。
「ですが、その化粧品を使うと、どうやら厚化粧に見えるようですので、今後一切ゼベット商会の化粧品を購入しない事に致します」
「そ、そんな!どうして急にそのようなことを!カトリーナ嬢が厚化粧だなんて、そんなことはありませんよ。もしそんなことを言う人が居ましたら、僕が懲らしめてやりますよ!」
「あら、その言葉を信じてもよろしいのですか?」
「も、もちろんです!」
獲物が罠にかかった時のように楽しそうに笑うカトリーナ嬢に、ケイトは必死に頷く。
ケイトはカトリーナ嬢のような太客が商会の物を買わなくなるのを阻止したくて必死なのだろうけど、その言葉は愚かとしか言えない。
「では、ゼベット商会を貴方が継がないと誓って頂けますか?」
「え…それはどういう…」
「だって、私の事を厚化粧と言ったのはーーー貴方ですもの」
「え……」
カトリーナ嬢の言葉を聞いて、ケイトが周りを見渡す。
そして、顔が段々と青ざめていく。
「クラリス?どういうことだい?」
今にも死にそうな顔をして私を問いつめてくるケイトを見て笑いそうになる。
だけど、ここで笑ってしまえば私への同情も薄れ、ケイトへの非難が弱まってしまうので、なんとか耐える。
必死に悲しそうに俯きながら、ケイトに事実を教えてあげる。
「実は…ケイト様へのサプライズとして、先程の部屋で2人っきりになった時にプレゼントを渡す計画を立てていたんです。そして、プレゼントを渡されて喜ぶケイト様を皆様に見て頂こうと思って、この会場へ映像を飛ばす魔道具をあの部屋に設置していたのです…」
「なっ、」
私の言葉にケイトは頭を抱えた。
ふふふ、自分がさっき何を言ったかを思い出し、どう取り繕おうか考えているんでしょうね。
だけど残念、そんなチャンスは訪れない。
「こ、これは、誤解が…」
「何が誤解なのですか?貴方が私達令嬢を馬鹿にしていたという事は十分伝わりましたわ」
「それは、その…」
「貴方も、貴方のお父様も立場を弁えた素敵な方だと思っていましたのに、違ったのですね」
「あの、それは…ご、ごか…」
カトリーナ嬢の責め立てる言葉に、ケイトは言葉にならない言葉を発するしか出来ない。
いつも私を見下した顔をしていたのに、今は顔面蒼白で慌てている姿が滑稽で仕方ない。
「まさか、あの王子のような姿が演技だったなんて、とんだ詐欺師ですわ」
「そうですわね、たかが平民の分際で私達を馬鹿にするなんて」
「それに、クラリス嬢への態度も一体なんでしたの」
「最低にも程がありますわ。婚約者の貴族に対してあんな態度をとるだなんて」
ヒソヒソと、しかし聞こえるようにご令嬢達が話し始め、余計にケイトが泣きそうになる。
良いざまね、だけどまだよ。
だって貴方は王族まで貶したんだから。
「君は誠実な男だと思っていたのに残念だったよ」「殿下…!こ、これは、ちが…」
頼み込んで第一王子に出席してもらえてよかった。
王子殿下の言葉に、ケイトは震えて立つのもやっとの様子だ。
「だが、君の言葉は心に留めておこう。税金を無駄にしない為にも、王家からゼベット商会への取引は今後一切行わないようにしよう」
「そ、それだけは…!申し訳ありません!どうか!どうかお許しを!」
「許すも何も、国民の声に耳を傾けただけだ。気にするな」
「そんな…」
取り付く島もない王子殿下の言葉に、ケイトはついに頭を抱え地面に膝をついた。
「そんな、こんなこと…あってはならない……、ありえない……そうだ、これは俺のせいじゃない、悪いのは全部!全部お前のせいだぁぁぁあああ!」
「ぐっ、」
「クラリス嬢!」
「きゃーー!」
追い詰められたケイトが突然立ち上がり、後ろにいた私の首に手を回して締め付けてきた。
ここまでするとは予想していなかったので、反応が遅れて避けることが出来なかった。
「お前のせいで!お前のせいで全てめちゃくちゃだ!!殺してやる!!」
「ケイト!このバカ息子!!何をしている!早くその手を離さないか!!これ以上問題を起こすんじゃない!っぐ!」
暴走したケイトを見て、慌ててケイトの父親が止めに入ろうとするが、逆にケイトに殴られて倒れてしまう。
「うるさい!俺に指図すんじゃねぇ!散々俺にこんな馬鹿女の相手させといて今更止めろだ?ふざけんな!俺がどんだけ我慢してたと思ってやがんだ!」
「我慢していたのはご令嬢の方だろうが!いい加減その手を離せ!」
「ぐはっ!」
興奮するケイトを王子殿下が殴って止めてくれる。
おかげで首から手が離れて息ができるようになった。
「ごほ、ごほ、ごほ!」
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます…」
「クラリス!大丈夫か!?」
「クラリス、ああ、ごめんなさい…貴女の話を真剣に聞いていればこんなことにはならなかったのに…」
王子殿下の手を借りて立ち上がれば、顔を真っ青にしたお父様と涙ぐんでいるお母様が走ってきた。
「本当にごめんなさい…」
震える手でお母様が抱きしめてくれる。
やっとケイトの醜悪さが分かってもらえて良かった。
まさか首を絞められるなんて思ってもみなかったけど、ケイトへの非難が計画以上になったので良しとしよう。
それでは、そろそろフィナーレといこうかな。
首を絞められたせいで、いい感じに涙も出ていることだし。
「お父様、お母様…。私のせいで、せっかく開いてくださったパーティを台無しにして申し訳ありません。皆様も、御足労頂いたのに、なんとお詫びすればよいか…」
「そんな…ご令嬢のせいでは全くありません。今までお辛かったでしょう。こちらお使い下さい」
「ありがとうございます」
王子殿下からハンカチを貸して頂いてしまった。
なんて優しい方なのでしょう。
遠慮なく涙を拭かせていただきます。
「そんな…貴族の女性と生まれたのです。相手がどんな方であれ、家の為に結婚するのが務めです。なので、辛いなんて…っ、すいません…」
最後の方で頑張って涙を出してハンカチで拭う。
そうすれば、みんな同情の眼差しでこちらを見てくる。
ふふふ、計画通り。
「クラリス、家の為とはいえ、あんな酷い人に大切な娘を嫁がせるなんて出来ないわ!今すぐ婚約破棄を申し立てるのよ!あなた!良いわね!」
「あ、ああ、もちろんた」
やったー!これであの嫌味男からやっと解放される!
お父様、お母様ありがとう!そして、馬鹿なケイト様もありがとう!とても楽しい日になったわ。
今は護衛騎士に身柄を拘束され悲壮感漂う顔で床を見るケイトに、今度こそ笑ってやる。
今まで馬鹿にしてきた女にしてやられるのはどんな気分?
さて、婚約破棄するのは当たり前として、首を絞められたからしっかり慰謝料も貰わないとね。
さて、慰謝料はどうしようかな。
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