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リックス視点
一目惚れと失恋
しおりを挟む俺が エリーナ=マルクス という令嬢を知ったのは、俺が9歳の時。そして、恋と失恋を知ったのも…。
あれは、我が国の第2王子であるルーファス様の10歳の誕生日パーティに招待された時だった。
あまり領地から出ずにいた俺には初めて王都でのパーティーだった。
だからすごく緊張していたのをよく覚えている。
だが、その緊張はある令嬢を見た瞬間に止まった。
歳は俺と同じが少し下くらいのに見える。
だが、幼いながらも堂々としていて、一つ一つの所作が美しく洗礼されていている。
容姿も美しく、彼女の周りだけが輝いて見えるような気がした。
彼女を見つめていると何故だか鼓動が早くなり、顔も少し熱くなってきた気がする。
この気持ちは一体なんなんだろう。
彼女を見るだけで胸が締め付けられるような感覚になる。
だけど、不思議とその感覚が不快なものではないので、余計にこれがどういうものなのかが分からない。
俺は一体どうしちゃったんだ…。
それと、あの子は一体誰なんだろう。
話すことは叶わなくても、せめて名前だけでも教えてもらいたい。
会場の中をゆっくりと進んでいく彼女の後をそっと付いていく。
挨拶くらいなら話しかけてもおかしくないよな。
彼女が止まった時に話しかけてーーー。
「うわっ、」
「いっ、」
彼女ばかり追いかけていたせいで、周りが見えていなくて人とぶつかってしまう。
相手は俺よりも少し年上のようで、背も高くて体格も違うのでぶつかって後ろに尻もちをついてしまった。
「すみません、よそ見をしていてぶつかってしまいました」
すぐに立ち上がって謝罪をする。
「ちゃんと前くらいは見ろよ」
「すみません」
ぶつかってしまったのは俺だが、いくら相手が年下でもタメ口で話すのはどうなんだ。
そんな話し方をしている時点で程度が知れるな。
謝罪は済んだのだから早く彼女の後を追おう。
早くしないと別の人に話しかけられてタイミングを失うかもしれない。
「おい、もしかしてお前…マルクス嬢に話しかけようとしているのか?」
立ち去ろうとするより先に、ぶつかった男がニヤニヤと笑いながら俺を見下ろしてくる。
なんなんだ一体。
「マルクス嬢はこの国で1、2を争うほどの容姿を備え、年齢よりも聡明で礼儀作法もあの歳で完璧。そんなマルクス嬢にお前が話しかけようと…?くははは、こりゃ傑作だ」
ギャハハと腹を抱えながら男が笑いだし、男の友人と思われる人達が声を聞いてわらわらと集まってくる。
彼女の名前がマルクスと言う事が知れたのは嬉しいが、何故自分よりも背格好のあるもの達に囲まれなければいけないんだ。
「そんなに笑ってどうしんたんですかニクソンさん」
「いや、聞いてくれよ。このデブがマルクス嬢とお近付きになろうとしてるからよ、くふふ」
「本気ですか?ふふ、自分の顔を鏡で見た事が無いんですか?」
「っ、」
確かに俺の容姿はお世辞にも良いとは言えないのはわかっているし、体型も標準より大きいのは自覚している。
だが、見ず知らずのもの達にここまで言われる必要はないだろう。
それに俺はマルクス嬢とお近付きになりたいなんて烏滸がましいことは思っていない。
俺だって、自分の見た目が周りからどう思われるかくらいは分かっている。
ただ、挨拶をして名前を聞きたかっただけだ。
それなのに、何故ここまで惨めな思いをしなければいけないんだ。
「お、王子様のお出ましだな…」
ニクソンと言われた男が小さく呟いた言葉で第2王子が来られたことを知る。
確か第2王子は容姿が優れていると言う噂だったな…。
ああいう人ならマルクス嬢の横に並んでも見劣りしないのだろうな。
俺なんかが彼女の横に立てば、きっと彼女が変な目で見られるだろうな。
ニクソン達が言っていたことを肯定するのは癪だが、俺が彼女に話しかけようなんて烏滸がましいことだったんだな。
その後、パーティーで自分がどう過ごしたのかは全く記憶にない。
気付けば家に帰り着き、言いようのない憂鬱さと胸の痛みに苦しめられたのだけはよく覚えている。
その後日、マルクス嬢と第2王子が婚約したとの知らせが届いた。
ああ、やっぱり彼女の隣に立てる男は第2王子のような容姿の優れた者しか出来ないんだな。
婚約の知らせを聞いてから、俺は余計に容姿について頓着しなくなった。
どれだけ体重が増えようと、どれだけ肌が荒れようとどうでもよかった。
そんな俺でも公爵家の跡取り。
婚約者が居ないことに焦った両親によって縁談の話が何度も上がった。
だが、縁談を進めようとしても、俺と対面した令嬢は笑顔を歪め、後日向こうから遠回しな断りが入れられる。
まぁ、正常な判断だろうな。
別に結婚出来なくてもいい。
俺の後はどこかから養子をもらえばいい話だ。
嫌々結婚されたっていい関係は築けないだろうし、そもそも俺は誰かと結婚したいなんて思っていない。
俺の心の中には、一目しか見た事のない彼女の事でいっぱいだったのだから。
彼女と結婚どころか、友人にすらなれるわけがないとわかっている。
わかっているが…心の中で彼女を想うくらいは許してもらえるだろう。
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