19 / 24
19、足が勝手に動いてしまった。
しおりを挟む「その手紙の内容って?」
「旦那様の再婚相手にしろと言う内容だそうです。もちろん、旦那様は毎回断ってますが、懲りずに何度も送られてくるそうです」
ヒューバート様はロザベリーナ様一筋なので、王女様と結婚することなんてありえませんのにね。
と続く言葉を、どこか遠くで聞こえているような感覚になる。
ヒューバート様が王女様と再婚…。
私自身がヒューバート様の再婚を望んでいたはずなのに、何故だか頭を強く殴られた気分になる。
ヒューバート様が私ではない誰かと結婚することを想像しただけで、胸がザワつく。
「ロザベリーナ様?顔色が優れないようですが、どうかされましたか?少しお休みになられますか?」
「いいえ、大丈夫よ…ありがとう。それより、少し歩きたいのだけれど、いいかしら?」
「旦那様が戻るまでの間でしたら」
ヒューバート様がここで待つように言っていたものね。
「わかったわ。あまり遠くへ行かないようにするわね」
メイドにそう告げて、ヒューバート様が去って至った方へと向かう。
彼の気持ちを受け入れる覚悟がないのに、王女様と話しているところに行ってどうするんだと自分でも思う。
だけど、体が勝手に動いてしまう。
応接室の前まで行けば、扉の前に王女様の護衛騎士が数人立っていて、中に誰も入れないように扉を守っていた。
ここからでは中で何を話しているか聞こえるはずもなく、どうしようかと佇んでいると、先程ヒューバート様を呼びに来た執事が護衛騎士達を退かせてくれる。
「さぁ、これで中に入ることが出来ます。どうぞお入りください」
「私が入っても、いいのかしら…」
「ええ、きっと貴女様が行かれた方が旦那様も楽になるでしょうから」
楽になるとはどういう事かは分からないけど、本当に入ってもいいのかしら。
ただ、ヒューバート様と王女様が再婚されることを考えたら、気付けばここへ来てしまっただけで、自分でも何をどうしたいかなんて分からない。
「離婚した私が、おふたりの話合いに入ってもいいのかしら」
「もちろんです。むしろ入っていただけた方が、旦那様の為にも、私共のためにも喜ばしいことです。さぁ、お入りくださいませ、若奥様」
執事が目の前の扉を開けくれて、私の事を若奥様と呼んで部屋に入るように背中を押してくれる。
部屋へ1歩入れば、王女様とヒューバート様の視線が飛んでくる。
1つは冷たく馬鹿にしたようなもの、もう1つは、驚きつつも柔らかくて暖かいもの。
「どうして離婚された部外者が断りもなくここにいるのかしら?」
鋭い視線を向けられ萎縮しそうになる。
そんな私の肩に、ガッシリとした暖かい腕が回される。
「待っていろと言ったのに、どうしてわざわざここに来たんだ」
「それは、その…」
「ヒューバート様!私というものがありながら、何故その人に触れていますの!これは立派な浮気ですわよ!」
私が返事をしようとすれば、王女様が烈火のごとく怒り出してしまう。
浮気と仰ってますけど、ヒューバート様は王女様からの求婚を断っているのですよね?
それなのに、どうしてここまで怒れるのかしら。
「何度も言いますが、私は貴女と婚姻を結ぶつもりはありません。そもそも私と貴女はなんの関係もありませんのに浮気と言われても困ります」
「何の関係もないなんてよく言えますわね!私に好意があることは知っていますのよ。それなのに、捨てたはずの女に構っているなんておかしいですわ」
ビシッと指をさして睨み付けてくる王女様に怯みそうになるけど、ヒューバート様の気持ちを一切考えようとしない言葉に眉を寄せてしまう。
「あらヤダ怖い。私がヒューバート様に愛されているからって、嫉妬で私を睨むなんて酷い人ね。捨てられて当然ですわ」
「私は彼女の事を捨てていません。愛想を尽かされたのは、私の方ですから」
「ヒューバート様ったら本当にお優しいのね。離婚されても縋って家に押しかけてくるような方なのに、その方の名誉を守るような言い方をされるなんて」
「そうではありません」
「いいえ、いいのです。私はわかっていますから」
いえ、全く何も分かっていらっしゃらないわ。
それに、ヒューバート様の話を全く聞こうとしないのは如何なものかしら。
この方は本当にヒューバート様のことを想っていらっしゃるの?
ヒューバート様も王女様に不快感を顕にしてるのに、全く気にした様子もないなんておかしいわ。
「ヒューバート様の優しさは私が1番よく理解しています。なので、私と結婚しましょう。そうすれば、必ず幸せな未来が待っていますわ」
「いえ、私は彼女と幸せな未来を築く予定ですので、お断りさせていただきます」
私の肩を抱いてヒューバート様がピシャリと言い切る。
そうすれば、王女様の眉がピクリと動く。
545
お気に入りに追加
1,178
あなたにおすすめの小説

メリザンドの幸福
下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。
メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。
メリザンドは公爵家で幸せになれるのか?
小説家になろう様でも投稿しています。
蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。
婚約者に好きな人がいると言われました
みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むさわぎとなり――――――
🌸お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!
Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。
最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。
しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。
不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。
ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。


どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。

顔も知らない旦那さま
ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。
しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない
私の結婚相手は一体どんな人?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる