22 / 25
巫覡のもの
しおりを挟む
神霊や精霊を祭祀する職階にはさまざまあるが、彼らはいずれも神の託宣を伝える霊媒者だ。
その中には鄭 凌雪の鄭家のような 祭祀→道教 国の政を占うものや、宋家のように
治病→巫医→道教医 神懸かりな能力を使い医術を行うものがある。
そして、もう一つが・・・
呪術→方術 と言われるものだ。主に祈祷や予言・占い と 錬丹術を執り行うもののことを言う。といってもこれらは、人の願い事を叶えるための民間的な呪術師が多く力も弱い。そして、ほぼまがい物ばかりという現状だった。
『巫覡』というものは死語のように世間では聞かなくなったワードだったが、人々の心の中のどこかに恐怖を植え付けている。存在が見えない分からないものを恐れるのはどの世も変わりはない。
秀鈴が売り言葉に買い言葉で治薬院を飛び出した後、こんなことになってしまったのは『巫覡』の能力が間違いなく本物で恐怖に値するものなのだと証明していた。
今、秀鈴は薄暗い洞窟の中でも薄汚い寺院や古びた宮殿の中でもなく、ただの貧乏でもなく裕福でもない民家の一室にいた。
「 ここはどこ? 」
「 どこと言われても、家?だけど 」
床にへたり込んでいるけど、捕まって身体拘束され紐で縛られているわけではない。立ち上がろうとすればできるし、しようと思えばここから走って逃げたりもできる。
「 ねえ、あんた。ここに座ればいいのに 」
秀鈴に話しかける人は椅子に腰かけ、ゆとりで長い脚を組んで床に転がっている彼女を見下ろす。
( 座れるもんなら座っているよ )
心で毒付きながらその人を睨む。
「 おお~怖 」
それを見てその人は肩をすくめる。
「 あなたは誰? 」
「 わたし? わたしは 白朱亞 あんたは? 」
天然のウェーブがついた黒く長い髪を結い上げることもなく腰を超える長さまで垂らし、黒く長い着物を幾重にも重ねて着ている。あの時の手のり小人そのものが実物大になってここにいた。
あのときのような禍々しさはないけど、異質な存在であるのは間違いない。そんな人と挨拶して自己紹介するという変な状況になっている。
「 名前を聞いてどうするの? 」
「 名前を聞かなきゃ、あんたのこと『あんた』って言い続けなきゃいけないでしょ 」
白はそんな屁理屈を真顔で言う。秀鈴がここでへたりこんでいるのもこの白のせいだ。
治薬院を飛び出した秀鈴は無謀で考えなしで回廊を走りに走って、初めて異変を体験したくちなしの木の所にたどり着いた。でも、今はもう開花時期を終えていて前のような状況を作れずに落胆していた。
そしたら、あの右手の平の痣がうずき始めて身動きが取れなくなり、気が付けばこの部屋に転がっていたという経過を辿る。
この白が何かの能力を使いここに秀鈴を運んできた。超能力?瞬間移動?みたいなことだろうかと無理やり自分を納得させていた。この世界は今まで経験したことのない不思議なことが起こり過ぎるから、もう何が起こっても驚かない。
「 私は 胡 秀鈴。あなたの目的は何?なんで私を狙うの? 」
秀鈴はもう物語の主人公が言うようなセリフを恥ずかしげもなく言っていた。それを聞いた白は手を口に当てて可笑しそうに声を上げて笑い始めた。
「 何が可笑しいのよ 」
真剣に怒って秀鈴が声を荒げる。
それに、白は笑い過ぎで出た涙を手で拭く。長い前髪の隙間から見えたのは二重まぶたでくっきりと大きく吊り上がった目力のある瞳だった。能力がある人はみんなそうなのか、白の瞳は紫水晶のような輝きを浮かべている。
「 ごめんごめん 秀鈴がさ、あんまり真面目だから 」
答えにならない返事をした白は、もう前髪で目が隠れてしまっているから笑みを浮かべる口元だけが見えている。
秀鈴も冷静に考えれば何の特技や能力もない自分を捕らえたところで、この白に利益になることなど一つもない気がして混乱してくる。
「 まあ、秀鈴に用事があるといえば、用事があるのかもしれないし・・・そうでもないのかもしれないし・・・どう思う? 」
( この人 天然? 巫覡の人って変人なの? 言っている意味がわかんない )
訝しむのか呆れるのかそんな視線で見ている秀鈴のことを嬉しそうに白は見ているのだった。
その中には鄭 凌雪の鄭家のような 祭祀→道教 国の政を占うものや、宋家のように
治病→巫医→道教医 神懸かりな能力を使い医術を行うものがある。
そして、もう一つが・・・
呪術→方術 と言われるものだ。主に祈祷や予言・占い と 錬丹術を執り行うもののことを言う。といってもこれらは、人の願い事を叶えるための民間的な呪術師が多く力も弱い。そして、ほぼまがい物ばかりという現状だった。
『巫覡』というものは死語のように世間では聞かなくなったワードだったが、人々の心の中のどこかに恐怖を植え付けている。存在が見えない分からないものを恐れるのはどの世も変わりはない。
秀鈴が売り言葉に買い言葉で治薬院を飛び出した後、こんなことになってしまったのは『巫覡』の能力が間違いなく本物で恐怖に値するものなのだと証明していた。
今、秀鈴は薄暗い洞窟の中でも薄汚い寺院や古びた宮殿の中でもなく、ただの貧乏でもなく裕福でもない民家の一室にいた。
「 ここはどこ? 」
「 どこと言われても、家?だけど 」
床にへたり込んでいるけど、捕まって身体拘束され紐で縛られているわけではない。立ち上がろうとすればできるし、しようと思えばここから走って逃げたりもできる。
「 ねえ、あんた。ここに座ればいいのに 」
秀鈴に話しかける人は椅子に腰かけ、ゆとりで長い脚を組んで床に転がっている彼女を見下ろす。
( 座れるもんなら座っているよ )
心で毒付きながらその人を睨む。
「 おお~怖 」
それを見てその人は肩をすくめる。
「 あなたは誰? 」
「 わたし? わたしは 白朱亞 あんたは? 」
天然のウェーブがついた黒く長い髪を結い上げることもなく腰を超える長さまで垂らし、黒く長い着物を幾重にも重ねて着ている。あの時の手のり小人そのものが実物大になってここにいた。
あのときのような禍々しさはないけど、異質な存在であるのは間違いない。そんな人と挨拶して自己紹介するという変な状況になっている。
「 名前を聞いてどうするの? 」
「 名前を聞かなきゃ、あんたのこと『あんた』って言い続けなきゃいけないでしょ 」
白はそんな屁理屈を真顔で言う。秀鈴がここでへたりこんでいるのもこの白のせいだ。
治薬院を飛び出した秀鈴は無謀で考えなしで回廊を走りに走って、初めて異変を体験したくちなしの木の所にたどり着いた。でも、今はもう開花時期を終えていて前のような状況を作れずに落胆していた。
そしたら、あの右手の平の痣がうずき始めて身動きが取れなくなり、気が付けばこの部屋に転がっていたという経過を辿る。
この白が何かの能力を使いここに秀鈴を運んできた。超能力?瞬間移動?みたいなことだろうかと無理やり自分を納得させていた。この世界は今まで経験したことのない不思議なことが起こり過ぎるから、もう何が起こっても驚かない。
「 私は 胡 秀鈴。あなたの目的は何?なんで私を狙うの? 」
秀鈴はもう物語の主人公が言うようなセリフを恥ずかしげもなく言っていた。それを聞いた白は手を口に当てて可笑しそうに声を上げて笑い始めた。
「 何が可笑しいのよ 」
真剣に怒って秀鈴が声を荒げる。
それに、白は笑い過ぎで出た涙を手で拭く。長い前髪の隙間から見えたのは二重まぶたでくっきりと大きく吊り上がった目力のある瞳だった。能力がある人はみんなそうなのか、白の瞳は紫水晶のような輝きを浮かべている。
「 ごめんごめん 秀鈴がさ、あんまり真面目だから 」
答えにならない返事をした白は、もう前髪で目が隠れてしまっているから笑みを浮かべる口元だけが見えている。
秀鈴も冷静に考えれば何の特技や能力もない自分を捕らえたところで、この白に利益になることなど一つもない気がして混乱してくる。
「 まあ、秀鈴に用事があるといえば、用事があるのかもしれないし・・・そうでもないのかもしれないし・・・どう思う? 」
( この人 天然? 巫覡の人って変人なの? 言っている意味がわかんない )
訝しむのか呆れるのかそんな視線で見ている秀鈴のことを嬉しそうに白は見ているのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる