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捕らわれた秀鈴
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「 何これ? ヤダ 」
自分の手の平の上で、禍々しいものが宙に浮かんでいるのを見た秀鈴は、汚いものを振り落とすように手を振るが元に戻すとそれは変わらず手の上に乗っていた。
『 秀鈴 ・・・ 』
禍々しい小人が秀鈴の名前を呼ぶ。そして、ゆるりと右手を上げると手招きをする。
『 こちらへ 来い ・・・ 』
ズルズルした黒い長い着物に真っ黒な長い髪。目は見えないが口は弧を描き笑みを浮かべていた。見たくもないのにそれに引き込まれていく。目が離せない。
「 秀鈴! 」
光偉が彼女の名前を叫びながら、素早い身のこなしで太刀を振り下ろしその『式神』を切り裂くのが見える。真っ二つに切り裂かれた『式神』は、ただの紙と化してヒラヒラと秀鈴の手の平から落ちて行った。
いつも人をからかい天邪鬼的な顔を見せる光偉が焦っていた。そして、彼が真面目顔で近づいてくるのを秀鈴は見つめていたが、視野がだんだんと狭まって暗闇に吸い込まれていくような感覚に囚われる。
( もしかしたら、私も取り憑かれているの )
亮と光偉の2人が目の前で取り憑かれるのを間近で見たことがあるから、自分もあんな風に侵されていっているのだと分かる。視覚だけでなく体の自由も奪われて身動きができない状態にもなってきていた。
「 おい しっかりしろ 」
光偉は固まったまま動かない秀鈴を強く抱き締める。表情をなくし目が黒色に侵され始める秀鈴の顔に触れ、何度も名前を呼ぶが何の反応も無くなっていった。
秀鈴の呼吸は浅くなり胸郭の動きも小さくなっていく。光偉は左腕だけで秀鈴の体を支え抱き合ったまま、彼女の首を後屈させて口付けをして大きく息を送り込んだ。
「 秀鈴 目を開けろ 死ぬな 」
彼は秀鈴に呼びかけながら必死で何度もマウスツーマウス・・・口付けを繰り返した。
「 秀鈴 」
雲一つない夕暮れの空を切り裂くような光と共にすさまじい音の雷が2人のすぐ近くに落ち、その勢いに2人は吹き飛ばされ倒れ込む。
雷が落ちて煙が上がった見張り台に2人の姿が現れる。それは、照陽王と宋先生だった。
「 へ・・・陛下 」
這いつくばったまま2人を仰ぎ見た光偉は素早く起き上がろうとしたが、上半身を起き上がらせただけで立ち上がれずにもがく。
「 そのままでよい 」
「 申し訳ありません 」
その間に宋先生が秀鈴の傍らに近づき片膝をついて彼女の上半身を抱き起こし、頭上に掌をかざして呪文を唱えた。
「 ・・・ん・・・ 」
うめき声を上げた後に秀鈴はゆっくりと目を開ける。その目は普段と変わりないものに戻っていた。
「 そう・・・先生? 」
「 もう大丈夫です 」
宋先生は病人の熱を見る時のように、秀鈴のおでこや頬を手の平で優しく触れながら言う。前に助けてくれたのもあるし、この手で触れられると落ち着く。
「 あれ? へいか? 陛下がいる 」
さっきまで会っていたのに、なぜここにいるのか?秀鈴は訳がわからず目を瞬かせて照陽王を見上げる。
そして急に思考が繋がって慌てた。弾けるように起き上がろうとしたが失敗して呻く。
「 慌てるな。そのままでよい 」
照陽王は秀鈴を手で制して彼女を見下ろしていたが、傍に落ちているものを見つけ切り裂かれた『式神』を拾い上げた。
「 巫覡か 」
つぶやくように言うと彼の力で、紙切れを宙に浮かばせた後発火消滅させた。エメラルドグリーンの瞳が恐ろしく光るのが見えた。
秀鈴は先ほどとは違う驚異を感じて震えあがる。これが青龍の力の一部なのだと思うのだった。
自分の手の平の上で、禍々しいものが宙に浮かんでいるのを見た秀鈴は、汚いものを振り落とすように手を振るが元に戻すとそれは変わらず手の上に乗っていた。
『 秀鈴 ・・・ 』
禍々しい小人が秀鈴の名前を呼ぶ。そして、ゆるりと右手を上げると手招きをする。
『 こちらへ 来い ・・・ 』
ズルズルした黒い長い着物に真っ黒な長い髪。目は見えないが口は弧を描き笑みを浮かべていた。見たくもないのにそれに引き込まれていく。目が離せない。
「 秀鈴! 」
光偉が彼女の名前を叫びながら、素早い身のこなしで太刀を振り下ろしその『式神』を切り裂くのが見える。真っ二つに切り裂かれた『式神』は、ただの紙と化してヒラヒラと秀鈴の手の平から落ちて行った。
いつも人をからかい天邪鬼的な顔を見せる光偉が焦っていた。そして、彼が真面目顔で近づいてくるのを秀鈴は見つめていたが、視野がだんだんと狭まって暗闇に吸い込まれていくような感覚に囚われる。
( もしかしたら、私も取り憑かれているの )
亮と光偉の2人が目の前で取り憑かれるのを間近で見たことがあるから、自分もあんな風に侵されていっているのだと分かる。視覚だけでなく体の自由も奪われて身動きができない状態にもなってきていた。
「 おい しっかりしろ 」
光偉は固まったまま動かない秀鈴を強く抱き締める。表情をなくし目が黒色に侵され始める秀鈴の顔に触れ、何度も名前を呼ぶが何の反応も無くなっていった。
秀鈴の呼吸は浅くなり胸郭の動きも小さくなっていく。光偉は左腕だけで秀鈴の体を支え抱き合ったまま、彼女の首を後屈させて口付けをして大きく息を送り込んだ。
「 秀鈴 目を開けろ 死ぬな 」
彼は秀鈴に呼びかけながら必死で何度もマウスツーマウス・・・口付けを繰り返した。
「 秀鈴 」
雲一つない夕暮れの空を切り裂くような光と共にすさまじい音の雷が2人のすぐ近くに落ち、その勢いに2人は吹き飛ばされ倒れ込む。
雷が落ちて煙が上がった見張り台に2人の姿が現れる。それは、照陽王と宋先生だった。
「 へ・・・陛下 」
這いつくばったまま2人を仰ぎ見た光偉は素早く起き上がろうとしたが、上半身を起き上がらせただけで立ち上がれずにもがく。
「 そのままでよい 」
「 申し訳ありません 」
その間に宋先生が秀鈴の傍らに近づき片膝をついて彼女の上半身を抱き起こし、頭上に掌をかざして呪文を唱えた。
「 ・・・ん・・・ 」
うめき声を上げた後に秀鈴はゆっくりと目を開ける。その目は普段と変わりないものに戻っていた。
「 そう・・・先生? 」
「 もう大丈夫です 」
宋先生は病人の熱を見る時のように、秀鈴のおでこや頬を手の平で優しく触れながら言う。前に助けてくれたのもあるし、この手で触れられると落ち着く。
「 あれ? へいか? 陛下がいる 」
さっきまで会っていたのに、なぜここにいるのか?秀鈴は訳がわからず目を瞬かせて照陽王を見上げる。
そして急に思考が繋がって慌てた。弾けるように起き上がろうとしたが失敗して呻く。
「 慌てるな。そのままでよい 」
照陽王は秀鈴を手で制して彼女を見下ろしていたが、傍に落ちているものを見つけ切り裂かれた『式神』を拾い上げた。
「 巫覡か 」
つぶやくように言うと彼の力で、紙切れを宙に浮かばせた後発火消滅させた。エメラルドグリーンの瞳が恐ろしく光るのが見えた。
秀鈴は先ほどとは違う驚異を感じて震えあがる。これが青龍の力の一部なのだと思うのだった。
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