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こうして巻き込まれていくのだろうか?
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治薬院の本堂前でもう一刻・・・2時間くらい、煎じ薬を土瓶に入れて専用のコンロで煮沸かしている。煎じ薬は効き目はいいけど、煎じる時の匂いもかなりすごい。そのためにこうして建物の外で地味に団扇をパタパタさせてとろ火で煮る。
これでもう何回もこの仕事をさせられているから、この匂いにも愛着が湧いてくるほどになっていた。
今日はいい天気。青空に白い雲が浮かんでいて夏が近づいていることを教えてくれる。
違う世界だけど空が青いし、雲は白い。太陽だって月だって一個だ。住んでいる場所・建物、人の服装や髪色容姿、風習や暮らしがちょっと・・・いや、かなり違っているだけだ。
人間は人間だし、犬や動物や花・虫・鳥も同じなのに、何か、いや全然違う世界がここにある。
「 あ~~~ァ 」
考えていくと頭が混乱するから、秀鈴は自分の頭をポカポカと叩いてみた。
秀鈴がまだここでこんな仕事を地味にしているということは、宋先生が彼女の話を全部ではないが大体は信じてくれたということだ。
『 信用しているわけではない 』
秀鈴の肉体の中に入っているのはこの世界の人ではない魂だと告白したが、血の色を帯びて光る瞳に見据えられて結局信用しないと言い切られた。
宋先生が秀鈴の何を疑ったのか? それは今でも分からない。夢物語扱いされたのか?それとも狂人扱いされたのか?まあよく知らないが、秀鈴は恐れる対象ではないと判断されて一応外敵扱いからは除外してくれた。それからはまた、ただの雑用係にとしてこき使われている。
「 どうした? 隣の通りまで聞こえる大きなため息だな 」
人の気配に顔を上げると目の前に 杜 光偉の顔がある。
「 うお!! 」
あまりの光偉の顔の近さに後ずさりして、お尻がちょっと乗るだけの小さな椅子から転がり落ちでしりもちをついた。
「 いだ(痛) 」
「 おう、大丈夫か? 」
光偉が秀鈴の腕を掴んで助け起こす。大丈夫かと聞きながらも心配じゃなく、なんだか満面の笑顔だ。何がそんなに楽しいのか?
「 ありがとうございます 」
今はできれば会いたくないと思っていたのに、どうしてここにこの人がいるのかと秀鈴はお礼を言いつつよそよそしい態度を取る。
「 どうした?機嫌悪いのか? 」
構わないでほしいのに彼はそんな空気を読んでくれるような奴ではなく、助け起こした腕を掴む左手の反対の右手で彼女の頬を摘んで引っ張る。それも笑顔で。
「 太子少傅様 先生にご用向きでしょうか?お取次ぎいたします 」
秀鈴も負けずに案内嬢のように精一杯の他所向き対応をしてやった。
「 いや、お前に会いに来た。一緒に来い 」
「 はい? 」
( 今?何言いました? それなんかおかしいでしょ? その言い方誰かが聞いたら誤解する )
と思ったと思ったら、それと同時くらいに、
「 これは、光偉殿 うちの助手に何かご用向きでしょうか? 」
知っているけど知りたくない声がする。それはもちろん、
「 あ、宋先生。ご無沙汰しています 」
光偉は摘んだ秀鈴の頬からはさすがに手を離していたが、助け起こした方の腕は掴んだままで瞬間移動のように出現した宋先生に挨拶をする。宋先生のほうは軽く頷いてそれに応えて見せるが、なぜか光偉に掴まれていない方の秀鈴の左腕を掴んでいる。
「 これは、まだ作業中ですので 」
有無も言わさない強い口調で彼は言う。作業と言ってもこの煎じ薬はそんなに重要なのかと、驚いて秀鈴は宋先生の顔を見つめてしまう。
「 あ、ああ。仕事ですか? わかりました。また後で来ます 」
光偉はもう笑ってはいない。掴んでいた秀鈴の右腕を離すと真面目な顔で宋先生に礼を尽くして答える。王の主治医で代々受け継がれる医師の身分は光偉よりも上になるのだろうか。秀鈴にはこの国の身分の上下関係は理解できない。
「 光偉殿に忠告しておきますが、この者には関わらないように御願いします 」
宋先生は感情の見えない表情で彼に告げた。
「 それはなぜですか? 理由をお聞かせいただけますか 」
光偉も秀鈴の前に現れた時のような砕けた表情は今は皆無だ。彼女が初めて見る様な、いや、あの暗殺未遂事件の時に見た鋭い顔をしている。
「 貴殿のためです。今はそれだけしか言えません 」
武将の眼力で見られても宋先生はまったく怯む様子はない。
その中で1人秀鈴だけはその張り詰めた空気に震えてオタオタして焦りながら2人を交互に見比べていた。
( 最近の私、なんか運気が下がっている? これって? これって? 私もしかして、こんな風に変な感じで巻き込まれていくんだろうか? )
これでもう何回もこの仕事をさせられているから、この匂いにも愛着が湧いてくるほどになっていた。
今日はいい天気。青空に白い雲が浮かんでいて夏が近づいていることを教えてくれる。
違う世界だけど空が青いし、雲は白い。太陽だって月だって一個だ。住んでいる場所・建物、人の服装や髪色容姿、風習や暮らしがちょっと・・・いや、かなり違っているだけだ。
人間は人間だし、犬や動物や花・虫・鳥も同じなのに、何か、いや全然違う世界がここにある。
「 あ~~~ァ 」
考えていくと頭が混乱するから、秀鈴は自分の頭をポカポカと叩いてみた。
秀鈴がまだここでこんな仕事を地味にしているということは、宋先生が彼女の話を全部ではないが大体は信じてくれたということだ。
『 信用しているわけではない 』
秀鈴の肉体の中に入っているのはこの世界の人ではない魂だと告白したが、血の色を帯びて光る瞳に見据えられて結局信用しないと言い切られた。
宋先生が秀鈴の何を疑ったのか? それは今でも分からない。夢物語扱いされたのか?それとも狂人扱いされたのか?まあよく知らないが、秀鈴は恐れる対象ではないと判断されて一応外敵扱いからは除外してくれた。それからはまた、ただの雑用係にとしてこき使われている。
「 どうした? 隣の通りまで聞こえる大きなため息だな 」
人の気配に顔を上げると目の前に 杜 光偉の顔がある。
「 うお!! 」
あまりの光偉の顔の近さに後ずさりして、お尻がちょっと乗るだけの小さな椅子から転がり落ちでしりもちをついた。
「 いだ(痛) 」
「 おう、大丈夫か? 」
光偉が秀鈴の腕を掴んで助け起こす。大丈夫かと聞きながらも心配じゃなく、なんだか満面の笑顔だ。何がそんなに楽しいのか?
「 ありがとうございます 」
今はできれば会いたくないと思っていたのに、どうしてここにこの人がいるのかと秀鈴はお礼を言いつつよそよそしい態度を取る。
「 どうした?機嫌悪いのか? 」
構わないでほしいのに彼はそんな空気を読んでくれるような奴ではなく、助け起こした腕を掴む左手の反対の右手で彼女の頬を摘んで引っ張る。それも笑顔で。
「 太子少傅様 先生にご用向きでしょうか?お取次ぎいたします 」
秀鈴も負けずに案内嬢のように精一杯の他所向き対応をしてやった。
「 いや、お前に会いに来た。一緒に来い 」
「 はい? 」
( 今?何言いました? それなんかおかしいでしょ? その言い方誰かが聞いたら誤解する )
と思ったと思ったら、それと同時くらいに、
「 これは、光偉殿 うちの助手に何かご用向きでしょうか? 」
知っているけど知りたくない声がする。それはもちろん、
「 あ、宋先生。ご無沙汰しています 」
光偉は摘んだ秀鈴の頬からはさすがに手を離していたが、助け起こした方の腕は掴んだままで瞬間移動のように出現した宋先生に挨拶をする。宋先生のほうは軽く頷いてそれに応えて見せるが、なぜか光偉に掴まれていない方の秀鈴の左腕を掴んでいる。
「 これは、まだ作業中ですので 」
有無も言わさない強い口調で彼は言う。作業と言ってもこの煎じ薬はそんなに重要なのかと、驚いて秀鈴は宋先生の顔を見つめてしまう。
「 あ、ああ。仕事ですか? わかりました。また後で来ます 」
光偉はもう笑ってはいない。掴んでいた秀鈴の右腕を離すと真面目な顔で宋先生に礼を尽くして答える。王の主治医で代々受け継がれる医師の身分は光偉よりも上になるのだろうか。秀鈴にはこの国の身分の上下関係は理解できない。
「 光偉殿に忠告しておきますが、この者には関わらないように御願いします 」
宋先生は感情の見えない表情で彼に告げた。
「 それはなぜですか? 理由をお聞かせいただけますか 」
光偉も秀鈴の前に現れた時のような砕けた表情は今は皆無だ。彼女が初めて見る様な、いや、あの暗殺未遂事件の時に見た鋭い顔をしている。
「 貴殿のためです。今はそれだけしか言えません 」
武将の眼力で見られても宋先生はまったく怯む様子はない。
その中で1人秀鈴だけはその張り詰めた空気に震えてオタオタして焦りながら2人を交互に見比べていた。
( 最近の私、なんか運気が下がっている? これって? これって? 私もしかして、こんな風に変な感じで巻き込まれていくんだろうか? )
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