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一章 ~6歳(勉強中ですよ)

淑女って大変・・・逃げ・・・魔王からは・・・

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「では、明日から淑女教育も進めていきましょう」

「あい・・・判りました・・・」

「社交界に出ることは少ないかもしれませんが、
 流石に伯爵位のお嬢様が品位を落とすようなことをすると、問題になりますからね。
 しっかりと覚えてください」

アレッサに一方的に言われる・・・クラリスに逃げよう。

「判りました・・・
 ところでクラリス、淑女教育って本来だったら何歳ぐらいから始めるのですか?」

「そうですね。早くて6歳、遅くても8歳には始まりますね」

・・・という事は、まだ私には早いという事ですよね。

「そ、それなら私も6歳からでよいのではないですか?」

そう言うと、クラリスは少し悩んでいますが、
代わりにアレッサが反応してしまいました。

「普通ならそうですが、エル様は前の記憶を、
 しかも男性の記憶を持たれてますよね」

「そ、それが何か?
 もう前の世界の記憶は、先ほどぼこぼこにされて
 適当に転がされてストンプされてピクリとも動きませんが?」

「では、そのまま転がしておいてください。
 無意識の癖というものは、なかなか抜けるものでは無いのです」

うぁ、ひどい。
前の世界の記憶は泣いて良い。

「ま、まあ。
 癖というのは中々直らないのは判ります。
 だから早めにという事ですね」

「理解が早くて助かります。
 成人になるまでに身に着けた癖というものは中々直るものでは無いと思います。
 大きくなってからですと、魔法や武器の鍛錬に時間が割けなくなってしまいますので」

「うう、判りました!
 今後の為ですものね。
 やってやろうじゃないですか」

そう言いながら、椅子の上に立ち上がって拳を突き上げる。

「では、奥様からも許可をいただいていますし、厳しく行かせて頂きます」

「へ?」

スパーン!

「おぶふぅ!」

「椅子の上に立ちあがっては駄目ですよ?」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!
 アレッサ!そのハリセンはどこから取り出したのですか!?」

「これですか?奥様特製のハリセンです。
 痛みは全くなく、ちょっとした衝撃と音が鳴るだけのものです」

お、お母様特製?

「お、お母様が?・・・ぶふぅ!」

あ、いけない。
夜なべしてハリセン作ってるところを想像してしまいました。

スパーン!
「あぶぅ!」

「何を想像されたのか判りますが、その笑いは駄目ですよ?」

「だ、だからと言って、無表情でスパンスパン叩かないで頂戴!
 こ、これから正していくんだから、ちょっと待ちなさい」

椅子に座り直し、姿勢を正す。
これで大丈夫でしょう。

「ふぅ、落ち着きました。
 アレッサ、紅茶を入れていただけるかしら」

「畏まりました」

綺麗な流れで紅茶のお替りを入れてくれる。
それをボーっと眺めていると、アレッサがハリセンを持っていないことに気が付いた。

「あら?アレッサ、さっきのハリセンは何処へ?」

「はい、あのハリセンは私のスキルの力で暗器として収納しております。
 何時でも収納、取り出し可能ですので、手に持っておく必要が無いのです。
 ただ、エル様の持つ時空魔法の倉庫ではないので、自分の体の何処かに隠すため、
 大きさや重さに制限がございます。
 ただ、一瞬で武器を切り替えることが出来るので、かなり重宝しております」

「何それ!?すごい!今はどこに隠してる」

スパーン!

「のう゛!」

「エル様、落ち着いてください」

「うう・・・私としたことが、ちょっと取り乱しました」

取り出すところ全く見えなかった・・・
スカートの中かと思ったけど、スカートに動きは全くなかったし・・・

「まさか・・・胸!?」

「エル様?」

「な、何でもありませんわ。
 おほほほほ~」

思わず口に出してしまった・・・でも、幾らなんでも無理よね。
アレッサの胸は大きいけど、ハリセンが入りそうには無いもの。
そう思っている間に、紅茶のお替りが用意されていた。

ちょっと心を落ち着けよう。

「ずずっ」

スパーン!

「ぶふぅ!」

「音を立てて飲んでは駄目ですよ?」

「あっぶないわね!こぼして火傷するところだったわよ!?」

「大丈夫です。
 こぼれないようにしていますので、安心してください」

「安心できるかぁ!びっくりするわ!」

スパーン!

「エル様、落ち着いてください」

「い・・・良いように弄ばれている気がします・・・」

「気のせいです。
 では、今日はこれまでとして、悪かった点についてクラリスを交えて説明していきますね」

それから、色々悪かったところを指摘され、
クラリスに完璧なお手本を見せられ、
アレッサの直接的、クラリスの天然入った無意識の言葉のナイフで
前の世界の記憶が滅多刺しにされた時には夕方になっていました・・・

「では、続きはまた明日やりましょう。
 明日は魔法学習の前に淑女学習を行いましょう」

・・・このままじゃ死んじゃう・・・

「鬼、悪魔、人でなし・・・お母様・・・」

「何かおっしゃいましたか?」

アレッサがハリセンをパシパシと手で叩いてます。
そして笑顔ですが額にバッテンマークが付いてます。
どの辺りでバッテンマークが付いたかは内緒です。
内緒ったら内緒です。

淑女教育が始まったこと、ハリセンで叩かれると他のメイドに泣きついてみましたが、
何故か無表情で生暖かい目で見られました。
ぇ?まさかこれが普通とか言わないよね?

次の日、私は淑女教育を逃れるために食事が済むと自室に戻ると見せかけて逃げ出し、
自室の隣の部屋のクローゼットの奥に隠れました。
このクローゼットの奥には梯子のような急な階段があり、
二階の部屋のクローゼットに繋がっているのでいざとなったら、
二階へ逃げるつもりです。

アレッサとクラリスの話声がかすかに聞こえますが、
内容については全然聞こえません。
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「エル様、逃げ出してしまいましたね」

「ええ、奥様が予想した通りの行動になりました」

「隣の部屋ですよね?呼びますか?」

「いえ、今後の為に奥様に見つけていただいて、
 逃げられないことを知ってもらいましょう」

「では、私は奥様をお呼びしてきますね」

「ああ、クラリス。
 その必要はないですよ」

「あ、奥様。
 実はエル様が・・・」

「大丈夫、判っていますから」

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途中からお母様の声がした気がするのだけど・・・気のせいよね?

「エル?そこにいるのは判っているの。
 出ていらっしゃい?」

ひぅ、お母様!?・・・バレてる?
いやいや、まさか

「出てきてくれないの?お母様悲しいわ」

うぐ・・・でも、今出ていくと淑女教育が

「出てくるなら今の内ですよ?」

う・・・ま、まだ大丈夫。
逃げ道は確保しているのです、いざとなったらそっちから逃げたらいいのですよ。
そう、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・

「仕方ありませんね・・・」

カツカツと普段は聞こえない足音がゆっくりと此方に近づいて来る・・・
大丈夫、大丈夫と思いながら、体ががくがく震えてきます。
そして、クローゼット前でその足音は止まりました。

やばい!と思って二階へ逃げます。
そして二階のクローゼットから出ると

「あら、いらっしゃい。
 エル」

あぁ・・・魔王様お母様
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