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子犬の王子
32・魔窟の悪魔
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魔窟の本丸に向け、足を進める。
少しでも早く、少しでも近く。
近づくほどに強くなっていく悪魔。
終わりが見えない戦い。
それでも皆、足は止めなかった。
止められるわけがない。
今自分たちが対峙しているこの悪魔たちが、自分が負けたら家族や国に襲い来るのだ。
負けるわけにはいかない!
本丸にほど近い最後の砦を奪還した夜、皆疲れ切っていたが、もうすぐ戦いが終わる興奮で眠ることも難しかった。
周辺には悪魔が入ってこれないよう防御壁が何重にも重ねられ、安全ではあるが、それでも戦いで張り詰めた体はギラギラと周囲を警戒してしまう。
「みんな!聞いてくれ!」
金色の勇者が、立ち上がる。
眠れずにワイワイ話していた兵士たちが金色の勇者を一斉に見つめる。
皆この勇者に助けられた。
勇者を見る瞳には信頼が宿っている。
「この後は悪魔の本丸と最後の戦いになる。
明日で一気に本丸に仕掛けて戦いを終わらせる!」
兵士たちは興奮して雄たけびを上げる。
「だから、今日はゆっくり休んで、力をためてもらう!
安心しろ!明日は今まで以上に万全に戦える!」
そう言うと勇者は剣を地面に突き刺す。
突き刺した地面に魔法陣が生まれ、野営地全体を照らしながら大きく広がっていく。
「お休み。」
勇者がにっこりと笑うと、兵士たちは力が抜けたようにゆっくりと眠りに入っていく。
剣を地面に刺して魔法陣を発生させたまま、ジルがどさっと身体を投げ出すように地面に座り込む。
「つかれた~。」
空を仰いで本音が溢れて漏れた。
「お疲れ様です。王子。」
シエルがにっこりと微笑みながらお茶を手渡す。
いつもはピシッと立派なシエルの魔術師の服も、今は斬り付けられ、血やら土やらでボロボロだ。
くしゃくしゃの髪のシエルも珍しい。
思わずにっこり笑ってジルはお茶を受取る。
「シエルには魔術が効かなかったか~。」
「すいません。無効化の魔法を常にかけていまして。」
シエルが焚火を囲む手前の石に腰を掛ける。
「私が起きていますので、王子はお休みください。」
ジルがくすっと笑い、空を見る。
「恥ずかしいことに、俺も眠れないんだ。
明日が不安で、期待もあって、気持ちが荒ぶっている。」
「私の魔術も王族のあなたに効きそうもありませんね。
この前のお礼に回復魔法かけますから、眠れるようになったら寝て下さいね。」
「ありがとう。シエル。」
そう言って草原に寝っ転がる。
ジルの瞳には真上に輝く月が映っていた。
戦いは日の出から始まった。
太陽を背負い朝もやの中、兵士たちが駆けながら戦う。
魔術師たちが兵士の行く手を塞ぐ悪魔たちに遠隔の魔術を放っていく。
あっという間に戦場は爆音と怒号で溢れた。
振り下ろされる斧を避け、身を縮め懐に入り、手に炎の魔術をまとわせ悪魔を吹き飛ばす。
吹き飛ばした悪魔が他の悪魔をなぎ倒し、道が出来た場所を駆け抜けていく。
前へ、前へ。
魔窟の殻まで!
あと少し!!
ぐおおおおおおおおぉぉっぉぉっぉおおおお!!!!
目の前から空気を震わせ、内臓を揺さぶるような咆哮が聞こえる。
山のように大きな黒い影が動き出し、地面をズシンと揺らしながら、立ち上がっていく。
伸びあがり立ち上がったその影は、遥かに見上げるほどに大きい。
その体から、黒い霧のように闇の魔力が立ち上がっている。
長い首のドラゴンの様な様相だったが、その存在感は今まで見たどの悪魔よりも、禍々しく呪われているように見えた。
口から青暗い炎をチリチリと吐き散らしながら、頭を振り小さな兵士たちを睨み付ける。
こいつが、魔窟を生み出す正体か!!
絶望的な大きさに皆がしり込みし、ごくりと喉を鳴らす。
時が止まったように張り詰めた空気の中、魔窟のドラゴンの頭を殴りつけるように、炎の塊りが弾ける。
「やっと現れたな!魔窟!!」
ジルが魔術を放ち、斬り込んでいった。
少しでも早く、少しでも近く。
近づくほどに強くなっていく悪魔。
終わりが見えない戦い。
それでも皆、足は止めなかった。
止められるわけがない。
今自分たちが対峙しているこの悪魔たちが、自分が負けたら家族や国に襲い来るのだ。
負けるわけにはいかない!
本丸にほど近い最後の砦を奪還した夜、皆疲れ切っていたが、もうすぐ戦いが終わる興奮で眠ることも難しかった。
周辺には悪魔が入ってこれないよう防御壁が何重にも重ねられ、安全ではあるが、それでも戦いで張り詰めた体はギラギラと周囲を警戒してしまう。
「みんな!聞いてくれ!」
金色の勇者が、立ち上がる。
眠れずにワイワイ話していた兵士たちが金色の勇者を一斉に見つめる。
皆この勇者に助けられた。
勇者を見る瞳には信頼が宿っている。
「この後は悪魔の本丸と最後の戦いになる。
明日で一気に本丸に仕掛けて戦いを終わらせる!」
兵士たちは興奮して雄たけびを上げる。
「だから、今日はゆっくり休んで、力をためてもらう!
安心しろ!明日は今まで以上に万全に戦える!」
そう言うと勇者は剣を地面に突き刺す。
突き刺した地面に魔法陣が生まれ、野営地全体を照らしながら大きく広がっていく。
「お休み。」
勇者がにっこりと笑うと、兵士たちは力が抜けたようにゆっくりと眠りに入っていく。
剣を地面に刺して魔法陣を発生させたまま、ジルがどさっと身体を投げ出すように地面に座り込む。
「つかれた~。」
空を仰いで本音が溢れて漏れた。
「お疲れ様です。王子。」
シエルがにっこりと微笑みながらお茶を手渡す。
いつもはピシッと立派なシエルの魔術師の服も、今は斬り付けられ、血やら土やらでボロボロだ。
くしゃくしゃの髪のシエルも珍しい。
思わずにっこり笑ってジルはお茶を受取る。
「シエルには魔術が効かなかったか~。」
「すいません。無効化の魔法を常にかけていまして。」
シエルが焚火を囲む手前の石に腰を掛ける。
「私が起きていますので、王子はお休みください。」
ジルがくすっと笑い、空を見る。
「恥ずかしいことに、俺も眠れないんだ。
明日が不安で、期待もあって、気持ちが荒ぶっている。」
「私の魔術も王族のあなたに効きそうもありませんね。
この前のお礼に回復魔法かけますから、眠れるようになったら寝て下さいね。」
「ありがとう。シエル。」
そう言って草原に寝っ転がる。
ジルの瞳には真上に輝く月が映っていた。
戦いは日の出から始まった。
太陽を背負い朝もやの中、兵士たちが駆けながら戦う。
魔術師たちが兵士の行く手を塞ぐ悪魔たちに遠隔の魔術を放っていく。
あっという間に戦場は爆音と怒号で溢れた。
振り下ろされる斧を避け、身を縮め懐に入り、手に炎の魔術をまとわせ悪魔を吹き飛ばす。
吹き飛ばした悪魔が他の悪魔をなぎ倒し、道が出来た場所を駆け抜けていく。
前へ、前へ。
魔窟の殻まで!
あと少し!!
ぐおおおおおおおおぉぉっぉぉっぉおおおお!!!!
目の前から空気を震わせ、内臓を揺さぶるような咆哮が聞こえる。
山のように大きな黒い影が動き出し、地面をズシンと揺らしながら、立ち上がっていく。
伸びあがり立ち上がったその影は、遥かに見上げるほどに大きい。
その体から、黒い霧のように闇の魔力が立ち上がっている。
長い首のドラゴンの様な様相だったが、その存在感は今まで見たどの悪魔よりも、禍々しく呪われているように見えた。
口から青暗い炎をチリチリと吐き散らしながら、頭を振り小さな兵士たちを睨み付ける。
こいつが、魔窟を生み出す正体か!!
絶望的な大きさに皆がしり込みし、ごくりと喉を鳴らす。
時が止まったように張り詰めた空気の中、魔窟のドラゴンの頭を殴りつけるように、炎の塊りが弾ける。
「やっと現れたな!魔窟!!」
ジルが魔術を放ち、斬り込んでいった。
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