神様に癒しをお願いしたら旦那様がもふもふでした

Keina

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子犬の王子

30・金色の勇者

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「聞いたか!金色こんじきの勇者の話!」

「ああ!サヴァントの街の活躍だろ!」

「大型の悪魔をバッタバッタと切っていったらしい!」

「俺はレオルの街でドラゴンの首を一刀両断したって聞いたぞ!」

「俺の家族は金色の勇者に救われたんだ!一生の恩人だよ」

「しかも!姿絵がとっても男前なの!かっこいいわ~!」

西方の街々の会話は金色の勇者の話題で持ちきりだ。
毎日毎日彼の活躍の号外が街を賑わし、明かりの消えたようだった西方地域に希望と言う活気が戻ってきていた。

「ジルが西方に来てから3か月、街が息を吹き返したようですよ。
金色の勇者は大人気ですね。」
窓辺から街を見ながらシエルがにっこりと振り向く。

「やめてくれよ。さすがにその呼び方は恥ずかしいんだから。
俺は、筆頭魔術師シエル様の噂もよく聞きますけどね~?」
ジルは悪戯っぽく笑う。
シエルの活躍は多岐にわたっていた、戦力としてはもちろん、回復役としての技術も凄まじく、この能力は軍人のみならず民間人の救助にも大いに助けとして振るわれていた。
シエルが男であるにもかかわらず、線が細く優しげなため、綺麗!可愛い!可憐だ!と大人気なのだ。

「ゴホン!
そ、それにしても、また大きくなられたんじゃないですか?
僕の背丈なんてあっという間に超えてしまいましたね。」
元々小柄なシエルが少し誇らしそうにジルを見上げる。

ジルの身長はここ3か月でぐんぐん伸びて、子供と言うよりも青年と言う方がしっくりくるようになっていた。
声も低く落ち着きがある。
変わらないのは、力強い目と悪戯好きな表情だけだ。

「ああ。大分しっかりと筋肉もついて、骨格も丈夫になってきたから、魔術頼りの戦い方をしなくても良くなったよ。
魔術を温存できる分、ここぞと言う時に使えて助かる。
でもまだまだだ・・・もう少し早く大人になりたいよ・・・。」
ジルは戦場で救えなかった命を思うように遠くを見る。

「今ジルは前線まで出ておられますよね。
戦況は如何ですか、取り返した地域も増えてきましたし街には希望が見えていますが。
あれから3か月、悪魔の質が変わったという噂が聞こえてきます。」
シエルは遠い目をするジルの姿を見る。

体に治らない傷跡が無数に出来て、いつもどこかを怪我して血を流す。
逞しくなった両肩に背負う物の重みがあまりに巨大で、時々どこかに若さを忘れてきてしまったのかと感じるほどに、大人びた顔をしている。

「ああ・・・。俺はもう仕掛けた方がいいと思ってる。
日に日に悪魔が強くなり前線は疲れ切っている。
ここで勝負に出なければじり貧だ。
今全勢力を挙げても、早くて2か月後が決戦になる。
この3か月で悪魔の数も大分削れた。」

「シエル。
ゲートを閉じるため、最後の戦いにしよう。」

シエルの目には、自分をまっすぐに見据える水色の瞳の中に、紫の炎が燃えた気がした。
溢れんばかりの武功を上げ、戦況の予測と決断をこの年でやってのける。

いつの間にか大きくなった青年に、胸が熱くなる。
きっとこの方ならやって下さる。
確かな信頼が、シエルを跪かせていた。

「はい。
必ずやこの世界に平和をもたらしましょう。」

ジルが手を差し出す。
シエルがその手を取ると、ジルはシエルの前に腰を下ろし、手を握る。

「約束だ!戦友!」

そう言って、にっこり笑った顔に傷跡が光っている。
力強く握った手は固く、傷だらけだった。

「約束です。シリウス王子。」

封印していた名前で久しぶりに呼ぶ。
シエルが、人生でなくしたくない人はその時までは人間の師匠だけだったかもしれない。
ただこの時から、絶対になくしたくない人が2人になった。

笑いあう二人に確かに深い信頼と友情があった。

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