神様に癒しをお願いしたら旦那様がもふもふでした

Keina

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子犬の王子

29・西方の砦

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「おい!みんな!砦が見えたぞ~~~~!」
列の先の方で誰かが叫ぶのを聞き、満身創痍の男たちはワッと沸き立つ。

悪魔たちの襲来の後、大半の馬車は使い物にならず、無事だった馬車は負傷者や物資でいっぱいになった。
残った大半の男たちは、何日もかけてキャンプをしながら、歩いて西方の砦を目指していたのだ。

草原の遠くに巨大な砦が見える。
「坊主!砦だ砦!やっと着いたな~!」
すっかり人懐っこい顔になったウォルフが興奮して少年の手を引く。

少年は耳をピンと立て、少し背伸びしてぴょこっとするが、目の前には山のように大きな男たちが列を作り、まったく見えず、尻尾と耳がしゅんとしてしまった。

「ハハハ!どれ!」
豪快に笑いながら、ひょいっと少年を抱え、自分の肩にちょこんと座らせる。

「や!やめろよ!子供じゃないんだぞ!」
少年は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして尻尾で顔を覆う。

「何言ってんだ!子供だろうが!わははははは!」
ウォルフが笑うのと共に、周りの大きな獣人達は皆ニコニコと陽気に笑う。
少年に命を助けられた獣人も多い。
この何日かで、獣人達の少年の評価は小さいけれど強いに、ぐんと上がっていた。

「これで見えたろ?あと少しだ!ここからが本当の闘いだな。」

ウォルフ大きな肩から見る景色は、いつもの目線とはまるで違い新鮮だ。
大きな獣人達の列の先に、白く堅牢な砦が見える。

この砦を超えた先に本当の戦争が始まるのだ。



「なんだ~?子供か?
は~~~。
名前は?誰の推薦だ?」
砦に付くと受付に誘導された、ここから試験があり、様々な隊に割り振られるらしい。

登録のカウンターに居る男は目の下に隈を作り、目頭を押さえながら言う。
「悪いことは言わねえから、今からでもお家に帰りな。
ここは子供の来るところじゃないぜ。」

問題が起きてからろくに寝ていないのだろう、面倒くさそうに欠伸をかみしめている。

「名前はジル・エヴァンス。推薦人は王国筆頭魔術師のシエルだ。」
金の前髪の下に、力強い水色の瞳が、まっすぐに受付の男を見つめる。

「シエルの推薦状だ。」
金の塗料で王国の魔術師団の紋章が描かれている封筒を、受付の机にバシりと提出する。

眠たげだった、受付は封筒を見て目を丸くし、ジルと封筒を交互に見比べる。
すかさず中身を確認し、さらに目を丸くし、今度は手紙を穴が開きそうなほど眺めている。

「で?僕はどうしたらいいの?」
溜息をつき、少年は受付に肘をつく。

「は、はい。あの。隊に割り振るための試験が御座いますので、この紙をもって、試験場にお進みください。」

「うん、ありがとう。」
少年は魅力的ににっこり微笑んだ。




「お!やっぱり坊主も1番隊か!」
ウォルフが二カッと嬉しそうに笑いながら大きく手を振る。

1番隊に選ばれたのは、猛者が多いようで皆一際大きいのに、ウォルフはそこでもやっぱり目立ってガタイが良い。
そんなウォルフが嬉しそうにぶんぶん手を振るものだから、自ずとその先に居る小さな金髪の子供に皆が注目した。

「あ~もうやめてよ!恥ずかしいな~!」
ウォルフといると赤面症になってしまいそうだ。

「お前試験凄かったんだって~?爆音がこっちまで響いてきたぞ~。
わははは!皆腰を抜かしただろうな!」

「別に。普通だよ。
子供だと思うからびっくりするだけでしょ?
僕の先生にはとても及ばないよ。」
ジルの耳がピコピコと嬉しそうに動く。

「わははは!なんだそりゃ!
その先生バケモンかよ!わはははは!」

「それに!」
ジルが腰に携えている剣の柄を握る。
「僕は剣も得意なんだ。だから、後方支援じゃなく前に出るよ。」
ジルが得意そうに尻尾を振る。

「へー?そりゃ楽しみだ!」
ウォルフは愉快そうにまた豪快に笑う。


カーンカーンカーンカーンカーンカーン

その時、けたたましく鐘の音が鳴った。

「敵襲ーーーーーー!敵襲ーーーーー!」

ざわざわと屈強な戦士たちが毛を逆立たせる。

「坊主!剣の腕は実戦で見させてもらおうか!」
大剣をブンッと振りながらウォルフが奥歯をかみしめ笑う。

ジルはすらりと剣を抜き、鋭い目で上空を睨んだ。
「ウォルフに見られる余裕があればね!」

空には大きな翼を持ったドラゴンが数匹旋回しながら現れていた。
地面を震わせる咆哮が、戦いの始まりを告げた。

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