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子犬の王子
27・この世界を守るため
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獣人たちの住むこの平和で暖かな世界が光の世界。
その裏に、悪魔の住まう戦いに溢れた残虐な闇の世界がある。
元々決して交わることのなく作られていたこの二つの世界は、今から800年ほど前悪魔たちによって均衡が破られた。
光の世界に闇の世界のゲートが開かれたのだ。
最初は小さなほころびだった、この世界に居ないはずの悪魔が現れ始め、はじめて見るその残虐な生き物に世界が震撼し、対策が分からず手をこまねいている内に、小さかったほころびはゲートとして開いてしまった。
そこから100年、まさに地獄のような時代が続いた。
世界のどこにも安全などなく、獣人達の街や国は破壊され、獣人の数は4分の1までに減った。
伝説では神に導かれ、異世界から使徒が来られて、戦いを勝利に導いたという。
その使徒と共に戦い勝利に導いたのが、黒い髪に紫の瞳を持つ初代の獣王だった。
それ以来この国の王は黒髪に紫の瞳の色を受け継いだ者のみが王位継承権を得られる。
宗教は神の使徒を祀った、マヤ教のみが国教となっていた。
つまり、この世界でゲートが開くということは、今後100年戦乱が続き、民の多くが死ぬことを覚悟せねばならないという事。
それを未然に防ぐため騎士団は見回りを欠かさず、異変があればすぐに綻びを見つけ、封印するという対処を万全に行ってきた。
そのはずだった。
「・・・綻びが既に魔窟の領域までに広がっていると・・・、そういう事か?」
王の威厳に満ちた重い声が、今までに無い緊張感を孕んでいる。
ピリリとした冷えた空気の会議室、集まったこの国の大臣、領主、皆が緊迫感に毛が逆立たせた。
あまりの事に息をのんだ後、呼吸を忘れてしまったように、沈黙が居座る。
皆分かっているのだ、綻びが魔窟になれば、その後に待っているのはゲートの完成だと。
そして歴史上魔窟を閉じることがどれほど大変な戦いになるのか、ゲートに成長するまで時間はもうあまりないことを。
「はい、陛下。
既に悪魔により壊滅させられた村も多々出ております。」
シエルは重く冷えた空気を吸い込み、意志の強い瞳で話す。
「先に向かった先遣調査隊では、悪魔の進行を抑えることで精いっぱい。
いや、それすらも時間がたてば危うくなります。
私自身悪魔と対峙しましたが、魔窟から発生した悪魔は、これまで戦った悪魔より数段強くなっておりました。
傾向から、魔窟がゲートに近づけば近づくほど、悪魔は強大になるかと。
そうなれば、私でも1対1では退けることが困難になります。」
息を吹き返したように会議室がざわつく。
シエルの魔術の力は100年に一度現れるかどうかの天才と言われている。
そのシエルの力をもってしても、ゲートを開く前の悪魔に苦戦するというのだ。
「魔窟からゲートが開くまで1年、それまでに決着を付けねば、800年前の悪夢がこの地に起こります。」
その言葉と共に、ざわめきから怒号も混じる積極的議論が始まった。
領主は自領の戦力を財力を計算し、王とシエルに相談する。
大臣は、資金繰りに避難民の受け入れ、国中に散らばる武に覚えのある物の招集などを王に相談している。
軍はシエルと情報共有に躍起になって、シエルは皆からの様々な質問に答えるだけでも大変そうだった。
その光景をシリウスは王の横の椅子に控え目に座りただ黙ってみていた。
耳は少しの情報も聞き逃すまいと動く。
まだ王子、しかも声変りが始まったばかりの子供。
王から与えられている職務も権限もない身分のシリウスにはこの場で決められることも、発言をする事が出来るほどの情報もない。
小さな拳を握り締め、なにも聞き逃すまいとそこに座る。
この席に座れること自体が、幸運なのだ。
激しい議論は次の日も次の日も続いていた。
その間、決まったことは次々に王により承認が下ろされ、即座に実行されていく。
皆が疲弊していたが、やらなければならないことは山のようにあり、そのすべてに、猶予などなかった。
議論している間にも西方から、戦況は届き、それが皆の疲労した体に鞭を打ち働かせた。
「シエル!」
バタバタとシエルが必要物資を揃え指示を出していた。
「王子!ほんの数日なのに久しぶりな気がしますね。」
休みなく働いていてもシエルは笑って答える。
彼のこの癖はいつでも素敵なのに、今は疲れも隠しようがなかった。
シリウスはシエルにだけ聞こえる魔術で表で話していることとは別の会話をする。
「必要な物資を集めたよ。」
(西方に戻る日はいつ?)
「有難う御座います!こちらで拝見させて頂きますね。」
(1週間後になります。王子一緒に来られる、許可は取られたのですか?)
「あと東の倉庫にも素材があって、それにも指示が欲しいらしい。」
(取れるわけない、特に母の説得は無理だ、釘を刺されたよ。それでも行く。)
「畏まりました。すぐに確認作業する者向かわせますね。」
(王子はとんでもない戦力だと私は分かっていますが、王を継げるのは王子だけですからね。)
「ああ!あとこの書類にサインをしてくれる?」
(今魔窟を消さないと、継げる国もなくなるさ。魔法で変装していくから心配ないよ。)
「分かりました。こちらで大丈夫ですか?」
(これがばれたら、私は国家反逆罪とかになるのかもしれませんね。)
シエルがにっこりと微笑む。
「大丈夫!全部うまくいってる。」
シリウスは魅力的で力強い笑顔で微笑み返した。
その裏に、悪魔の住まう戦いに溢れた残虐な闇の世界がある。
元々決して交わることのなく作られていたこの二つの世界は、今から800年ほど前悪魔たちによって均衡が破られた。
光の世界に闇の世界のゲートが開かれたのだ。
最初は小さなほころびだった、この世界に居ないはずの悪魔が現れ始め、はじめて見るその残虐な生き物に世界が震撼し、対策が分からず手をこまねいている内に、小さかったほころびはゲートとして開いてしまった。
そこから100年、まさに地獄のような時代が続いた。
世界のどこにも安全などなく、獣人達の街や国は破壊され、獣人の数は4分の1までに減った。
伝説では神に導かれ、異世界から使徒が来られて、戦いを勝利に導いたという。
その使徒と共に戦い勝利に導いたのが、黒い髪に紫の瞳を持つ初代の獣王だった。
それ以来この国の王は黒髪に紫の瞳の色を受け継いだ者のみが王位継承権を得られる。
宗教は神の使徒を祀った、マヤ教のみが国教となっていた。
つまり、この世界でゲートが開くということは、今後100年戦乱が続き、民の多くが死ぬことを覚悟せねばならないという事。
それを未然に防ぐため騎士団は見回りを欠かさず、異変があればすぐに綻びを見つけ、封印するという対処を万全に行ってきた。
そのはずだった。
「・・・綻びが既に魔窟の領域までに広がっていると・・・、そういう事か?」
王の威厳に満ちた重い声が、今までに無い緊張感を孕んでいる。
ピリリとした冷えた空気の会議室、集まったこの国の大臣、領主、皆が緊迫感に毛が逆立たせた。
あまりの事に息をのんだ後、呼吸を忘れてしまったように、沈黙が居座る。
皆分かっているのだ、綻びが魔窟になれば、その後に待っているのはゲートの完成だと。
そして歴史上魔窟を閉じることがどれほど大変な戦いになるのか、ゲートに成長するまで時間はもうあまりないことを。
「はい、陛下。
既に悪魔により壊滅させられた村も多々出ております。」
シエルは重く冷えた空気を吸い込み、意志の強い瞳で話す。
「先に向かった先遣調査隊では、悪魔の進行を抑えることで精いっぱい。
いや、それすらも時間がたてば危うくなります。
私自身悪魔と対峙しましたが、魔窟から発生した悪魔は、これまで戦った悪魔より数段強くなっておりました。
傾向から、魔窟がゲートに近づけば近づくほど、悪魔は強大になるかと。
そうなれば、私でも1対1では退けることが困難になります。」
息を吹き返したように会議室がざわつく。
シエルの魔術の力は100年に一度現れるかどうかの天才と言われている。
そのシエルの力をもってしても、ゲートを開く前の悪魔に苦戦するというのだ。
「魔窟からゲートが開くまで1年、それまでに決着を付けねば、800年前の悪夢がこの地に起こります。」
その言葉と共に、ざわめきから怒号も混じる積極的議論が始まった。
領主は自領の戦力を財力を計算し、王とシエルに相談する。
大臣は、資金繰りに避難民の受け入れ、国中に散らばる武に覚えのある物の招集などを王に相談している。
軍はシエルと情報共有に躍起になって、シエルは皆からの様々な質問に答えるだけでも大変そうだった。
その光景をシリウスは王の横の椅子に控え目に座りただ黙ってみていた。
耳は少しの情報も聞き逃すまいと動く。
まだ王子、しかも声変りが始まったばかりの子供。
王から与えられている職務も権限もない身分のシリウスにはこの場で決められることも、発言をする事が出来るほどの情報もない。
小さな拳を握り締め、なにも聞き逃すまいとそこに座る。
この席に座れること自体が、幸運なのだ。
激しい議論は次の日も次の日も続いていた。
その間、決まったことは次々に王により承認が下ろされ、即座に実行されていく。
皆が疲弊していたが、やらなければならないことは山のようにあり、そのすべてに、猶予などなかった。
議論している間にも西方から、戦況は届き、それが皆の疲労した体に鞭を打ち働かせた。
「シエル!」
バタバタとシエルが必要物資を揃え指示を出していた。
「王子!ほんの数日なのに久しぶりな気がしますね。」
休みなく働いていてもシエルは笑って答える。
彼のこの癖はいつでも素敵なのに、今は疲れも隠しようがなかった。
シリウスはシエルにだけ聞こえる魔術で表で話していることとは別の会話をする。
「必要な物資を集めたよ。」
(西方に戻る日はいつ?)
「有難う御座います!こちらで拝見させて頂きますね。」
(1週間後になります。王子一緒に来られる、許可は取られたのですか?)
「あと東の倉庫にも素材があって、それにも指示が欲しいらしい。」
(取れるわけない、特に母の説得は無理だ、釘を刺されたよ。それでも行く。)
「畏まりました。すぐに確認作業する者向かわせますね。」
(王子はとんでもない戦力だと私は分かっていますが、王を継げるのは王子だけですからね。)
「ああ!あとこの書類にサインをしてくれる?」
(今魔窟を消さないと、継げる国もなくなるさ。魔法で変装していくから心配ないよ。)
「分かりました。こちらで大丈夫ですか?」
(これがばれたら、私は国家反逆罪とかになるのかもしれませんね。)
シエルがにっこりと微笑む。
「大丈夫!全部うまくいってる。」
シリウスは魅力的で力強い笑顔で微笑み返した。
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