神様に癒しをお願いしたら旦那様がもふもふでした

Keina

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子犬の王子

25・魔術師シエル

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次の魔術の授業から僕を教えるのはシエルになった。
いかに王太子と言えど魔術師筆頭から初歩魔術を教わるなど、過ぎた人選ではあったが、お互いが強く望んだことで実現できた。

「王子は人間に生まれた子にあったことはあるのですか?」
何回目かの魔術の授業中、ふとシエルが尋ねる。
ふとした調子ではあったが、その目には探るような慎重さがある。
ぎこちなく書き写す手を止めてしまうが、どう答えたものか迷う問いだった。

「ああ。以前街に出た時にちらっと見たんだよ。」
無難と思われる答えを書き写す手を再開して答える。

「街で?
・・・ああ、それで人間の地位のことをお知りになったのですね。
公的に決まった地位と言う訳ではないですが、確かに差別がひどく生活自体が追いやられている人間が多いですからね。
そもそも大人になれる人間も極僅かなのに、その後の生活も・・・、とても平穏に暮らせるとは言えませんから・・・。」
シエルは口惜しそうに顔を歪ませる。

「・・・そんなに大変な目にあっているのか・・・?」
シリウスは予想以上の困難そうな状況に、不安感が増していくのを感じる。

「僕は・・・そんなに人間に詳しくは無いんだ。
ただその時見た子が、あまりにも辛い状況に置かれていて・・・。
どうしても、我慢がならない・・・!」

シリウスは今度はシエルの目をまっすぐに見て話す。
「救いたいんだ!」

まっすぐで切実な紫の目はシエルの心をぐっと掴みシエルの黒い瞳を潤ませた。

シエルは躊躇いを見せながらも、この小さな王子に何か並々ならぬものを感じ、・・・意を決したように告白を始める。

「王子、私は魔術師としてこの王国で随一の地位を与えられております。
ただ、私の師は・・・私とはくらべものにもならない程に凄まじい魔力とセンスの持ち主でした。」
シエルは伏し目がちに俯く。
さらりとした前髪に隠れた、黒い瞳は酷く遠くを見るようで底知れぬ悲しみを湛える。

「・・・人間でした。彼女は人間だったのです。」
シエルは悲しみを湛えた瞳で、まっすぐにシリウスと対峙する。

「人間は獣人の数倍以上の魔力を持っています。
私の師以外の人間も皆同じでした。
ただ・・・、魔術は教育を受けないと、どうにもなりません。」

「・・・魔術・・・!」
シリウスは何かとてつもなく大事な啓示を受けた気持ちだった。
これ以上は無いほどに、有益な情報だ。

「我が師はとんでもない変わり者でしたから、自分で魔法を作ったって言ってましたけどね。」
ここでようやく気が抜けたように微笑む。
その仕草からシエルにとって師がどのように大切な存在なのか分かるようだった。

「~~~~シエル!
ありがとう!
凄く!
すごく!大事な情報だ!」
シリウスの目の前を覆っていた霧が晴れて道が現れた。

「ふふふ。私の師の事は内密にお願いします。
すごく変わり者なので、厳重に本人から口止めされていまして。」
可愛いスナネズミの耳が悪戯にピコピコ動く。
そこには、今まで見せなかった素直でリラックスしたシエルが居た。

シリウスも緊張が解け、可愛らしい子供の表情で笑う。
こんなに嬉しいことは無いのだから!

探りあっていた二人は今、互いにとってこれ以上ないほどの味方を手に入れた。

魔術教室に差し込む暖かな光が二人を照らす。
きっとこの時がこの国が変わる最初の一歩だった。

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