神様に癒しをお願いしたら旦那様がもふもふでした

Keina

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子犬の王子

22・王子の立場

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「シリウス・・・今回の事は私も困惑している。」
王は眉間に皺を寄せ、珍しく深刻な顔で溜息をついた。

スフィアリム侯爵の離れで見つかったシリウスは、驚くことに侯爵令嬢と番の儀式をしたと言う。
これは異常事態と言えるほどに深刻なことだったが、幼いシリウスは頬を膨らませて拗ねてばかりで、事の重大さは分かっていない様だ。

「あの子は僕の番だ!絶対守らなきゃ!」
子供の姿のシリウスは、王座に座る父を背伸びして睨む。

「父上は彼女がどんな環境に居るのか知らないんだ!」
紫の大きな瞳が潤む。
「僕が助けなきゃ!」

「シリウス・・・小さなお前に助けられるのか?」
王は真剣な瞳で小さな王子に尋ねる。
少しの憐憫を口に湛えて。

「出来る!やる!あんなとこに!おいては置けないよ!」

あの子をあそこに置いていては、何が起こるか分からない。
僕自身が彼女をあそこに置いておくのは嫌だ!

「口では何とでも言える。」
王は瞳に力を入れる。

「番の大切さは私も分かっている。
運命の相手が不遇の中に居ることを我慢できる人間などいない。」

王は王子の瞳をまっすぐ見つめる。
「だがお前は、我慢しなくてはならない。」

「どんなに辛くとも!だ。」

その王の絶対的に力のこもった言葉に、シリウスが泣きそうになった。

「なんで!なんで僕は我慢しなきゃいけないの!!」
弾かれた様に口をつく。
目に溜まる涙は今にも零れ落ちそうだ。

「お前が王子で、いずれこの国の王になる唯一の子だからだ。
そのお前の運命の番は、王妃になる。
確実に。」

王の話に口を挟もうとするシリウスを遮って王が続ける。

「あの子は人間だ、まだ小さくか弱い。
王妃が人間であることを好まない人間は沢山いる。
彼女が人間でなかったとしても、お前の妃の座を狙って貴族たちが今どのようなことを画策しているか・・・。」

シリウスが血の気の引いた顔でびくりと固まる。

「分からなんだか?
この城が一番彼女にとって危険であること。
小さな人間が、お前の番だと、もし周知されたら何が起きるか・・・。」

「彼女は殺される。」

シリウスはまるで自分の心臓が握りつぶされた様に、胸を押さえ、苦痛に顔をゆがめた。

そんなこと、想像もしたくない。
言葉だけでもこんなに苦しいのに。
もしそれが現実になってしまったら。

僕は・・・耐えられない。
彼女が・・・・そんな・・・・想像もしたくない。

ぽろぽろと涙が流れた。
自分の無力さに、彼女を救えない悔しさに。
泣くしかできないなんて・・・。

「シリウス・・・。耐えることは誰にでもできることではない。
でも、絶対にばれてはいけない。
耐えるしかない。」

王はシリウスの頭を優しく撫でる。
「でも、それは永遠ではない。」

シリウスの零れる涙を優しくぬぐう。

ほんのまだ小さい子供だ。
誰よりも、幸せを願っている可愛い子。

「シリウスが成人し、誰もが王と認める功績を立てるがいい。
お前が王に相応しいと周りが認めたら、私は理由を付けてすぐにでもお前に王位を継がせる。」

シリウスはまっすぐに優しい父の顔を見る。
その瞳には希望の光が宿った。

「王になり、誰もがお前を認めたら、法律も変えることができる。
シリウスに彼女を守る力が手に入る。」

「いいか?それまで、決してバレてはいけない。
そして、彼女を陰から守れ。」

父の顔に戻った王が、小さな我が子の頭を撫でながら優しく諭す。

「シリウス。
お前にならできるよ。

私は信じている。」

父に道を教えられ、シリウスの瞳に力が宿った。

僕は、誰よりも早く、誰よりも立派な王にならなければ。

「有難う御座います。父上。
必ず、彼女を幸せにします。」

礼をして力強い足取りで、場を後にする息子の背中に、王は頼もしい未来を感じ目頭が熱くなる。

「シリウスの幸せを願っているよ。」

王は小さな背中にそっと呟いた。

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