神様に癒しをお願いしたら旦那様がもふもふでした

Keina

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小さな人間の子

9・異世界の私の姿

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私にあてがわれた応接室のドアを開け、中に案内する。
前世の私から考えると十分に広く贅沢な部屋に見えるが、失礼があってはいけない。

「あの、ここが私の部屋で、この部屋でよろしいでしょうか?」

この世界で初めて、母以外の親切な大人に私は緊張も隠せもせず、おずおずと聞いた。

「もちろんで御座います。レディ。
ご案内頂き有難う御座います。」
使者の方は恭しく礼をして、大きな羽根飾りのついた帽子を取って挨拶をした。
帽子を脱ぐと虹色に見える色鮮やかな長い髪がキラキラと現れた。
頭の上にぴょこんと飾り羽が生えている。

この方はきっと鳥の獣人さんなんだ。
まじまじと見た使者の方は深い青い瞳を持ち、切れ長の目をした美しい顔をしていた。

私が見とれていると、ワンちゃんがチャチャチャといつものクッションの山にボフっと座り、不服そうに「ワフッ!」と、吠える。
やきもちを焼いているみたい。

久々に会えた、ワンちゃんに嬉しくなって駆け寄って抱き着く。
大きくなったワンちゃんはお座りしていても、もう私よりも背が高くなっている。
首周りのモフモフがちょうど頬に当たって、抱き着いて顔をうずめたくなるのだ。

「ワンちゃんも、さっきは怒ってくれてありがとう。」

ふわふわを撫でてやりながら言うと満足そうな顔をしている。

「でも、皆をあんまり怖がらせちゃだめよ?
皆に怖い子だと思われちゃうでしょ?」

わざと怒った態度で言い聞かせると、「きゅーん」と耳がぺしっと垂れて可愛い反省をする。
大きくなったのに相変わらずとっても可愛い!

こんなに可愛くちゃ怒れない。
ふわふわの首元に顔をうずめて大好きだよ~と思いながら抱きしめる。

「ブハッ!!」
背後で吹き出す声がした。

振り向くと、涙目で顔を赤くした使者の人が、何とか笑いをこらえようと、口を抑えて頑張っている。
ワンちゃんが「バウ!ワウ!」と抗議するように吠える。

「も、申し訳ありません!!
それでは、まずは採寸から、い、致しましょう。」
にやけた口元を懸命に抑えながら、震えつつようやく言った。

「ふー---!」
何とか仕事モードになろうと、大きく深呼吸をしている。

使者の人もワンちゃんの可愛さにやられたのかもしれない。

後ろに控える商会のスタッフの人に向け手を叩くと、皆てきぱきと準備をし始めた。
色調の落ち着いたカーペットに可愛い靴が何足もずらりと並べられ、華やかなドレスの掛かっているラックが次々と運び込まれる。

その中に煌びやか大きな全身鏡があった。
反射的にぎくりと怖くなり、ワンちゃんの後ろに身を隠す。

どうしよう。
怖い。
顔が、あげられない。

ワンちゃんがどうしたの?と言うように心配そうにふんふんと鼻先を私に向ける。
私がワンちゃんの陰で固まっているうちに、着々と準備は進んでいく。

今まで避けていたこと、でもまさか一生避けられるはずもない事。
それが、今来たのだ。

「ではレディ・ラフィリア、こちらにどうぞ。」

私は覚悟を決めた。
固い足取りで顔を上げることが出来ずにおずおずと鏡の前に進み出る。

怖い。
スカートのすそを握り締める私の手を、ワンちゃんがぺろりとなめた。

勇気をもらえた気がして、鏡の中の私と生まれて初めて対峙する。

そこには紫の光沢をもった金の髪に水色の瞳、ピンクのほっぺたの肌の白い、可愛い女の子がいた。

…これが、わたし…?

美しい母にそっくりな顔立ち、大きな瞳に長いまつげ、唇も頬も血色がよく鮮やかだ。
私から見ても美しい少女に見えた。
髪をかき分け、耳を見て見る。

やっぱり、人間の耳だ。
触った感じで、慣れた感触で分かっていたけれど、やはりがっかりした表情は隠しきれなかった。

美しい顔立ちに見えるのに、きっと獣人の姿でないことはこの世界では醜悪に見えるのだろう。

それでは…、どんな格好をしても、私がどんなに努力しても、この世界の人に好かれることは、無理なのではないかな…。

母に似た顔が嬉しかったのに、同時に沸き上がる不安が、鏡の向こうの私の顔を悲しくゆがめていた。


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