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魔獣戦争
43話 医者
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看護師に案内をされて、医師の元へ行く。患者はいないので、順番が来るまで待つということはなかった。正直、不安だ。病院の中は灯りがあると言っても薄暗く、壁にある汚れは掃除されていない。看護師の調子も悪そうだし、医師もどんな人とか分からない。
悪い噂を耳にするだけの、病院の雰囲気があった。お化け屋敷にでも入った気分だ。
「失礼します。怪我人が来ました」
看護師がコンコンとノックして扉を開けると、そこには紙と睨めっこしている医師がいる。こちらの存在に気づき、レオの方に顔を向けた。
「久しぶりの患者ですね。座っていいですよ。どこをいつ怪我したんですか?」
見かけによらず、口調は穏やかだった。動物のような獰猛な顔をした医者は、目に目立つ傷があり、見た目の印象は噂の通りヤクザ。レオは、それを見てやっぱりやめようと思った。
アメリアが怖がるだけのことはある。病院の印象からも看護師からも医師からも信用を得られない。
「昨日の昼に、鼻が折れてしまって……」
「なるほど。病院に来たのは、鼻の骨の治療ですか?」
「はい」
すると、医者はレオをジーッと見つめた。レオは目先を泳がせながら、オロオロしている。鼻だから当たり前のはずなのに、なぜこんなに見るんだと思ってしまった。
正直、視線が痛い。
「やっぱり信用できませんか?」
「え?」
「いや、患者と医者は信頼し合うことで成り立っているので……。わたしの顔を見ると、やっぱり皆同じ表情をするんですよ」
すると、医者は苦笑いをして首を傾げてみせた。不気味にニヤけているようにも見えるが、もとからそう思われやすい顔をしている。レオはその質問に戸惑いながらも「えっと……目の傷が……」と小さい声で答えた。
「ああ、そうか……うーん。この傷は……」
医者は少し唸りながら考えると、目の傷の話をした。その話をした方が、患者にとって気になることが減って信じれると思ったのだろう。
◇◆◇◆◇
私は、小さな頃から右目だけ見えなかった。どうして見えないかとか、親は教えてくれなくて、鏡で自分の顔を見るたびに嫌悪感を感じた。
微妙に閉じかけた目は、無意識にも白眼になっていて、おかしな形状をしている。周りの皆も、気持ち悪い、怖い、醜い、変とばかり私を罵り、そう言われるたびに一層自分が嫌いになってくる。
そしてある時、私をいじめている男の子に、ナイフで右目を傷つけられた。どうせ見えないんだから、いらないだろって、突然刃物を目に向けて、傷跡だけが残った。
傷が熱くてどんどん血が出ていき、刃物が怖くてトラウマになりそうだった。心臓をドクドクと早めて、頭が真っ白になって、自分はこんなにも嫌われているんだと……。
気持ち悪い醜い右目に、追加された縦方向の深い傷。もう、鏡なんて見たくもない。痛いし、全部嫌いになったし、怖かった。
「医師になれ」
父親は医師をやっていて、自分が継ぐことになった。正直、嫌だったけれど、頑なに推してくる父の姿に断ることはできない。
血を見るたびに背筋がゾッとし、頭がクラクラとする。メスを持とうとすると、指が震えて何もできない。だけど、それは最初だけで、何度も繰り返すうちに慣れていった。吐いたこともあったけれど、体質的に無理なんだと思ったけれど、精神論でなんとかなった。
しかし、医師になっても、私は周りから好まれにくい。顔が父親似で、怖い目鼻立ちをしているのもあるかもしれないが、一番は自分に呪いのようについた右目。私を見るたびに、患者はぎょっとした表情をし、すぐに去っていく。
ヤクザ、悪徳医師、人体実験、なんて噂までも流れ、金銭的にも余裕が無くなっていった。患者が来ないと病院は成り立たないし、他の医者や看護師も退職、ずっと赤字状態だった。
今いる看護師は、体調が悪そうなはずなのに、それでも仕事を頑張るんだから申し訳ない。医師なんて、辞めちまおうなんて考えた。でも、自分みたいな顔の人を、雇ってくれる人はいるのだろうか。
久しぶりに来た患者も、やっぱり同じ顔。ただの言い訳にも聞こえるかもしれないが、こちらの事情を説明したら少しは信頼……なんてないか……。
何をしても怖い人。笑っても、泣いても、何かを見つめてても怖がられる。つい、心の内を患者にこぼしてしまったが、他の病院に行くはずだ。
魔獣戦争から怪我人が増え、患者も来るかと思いきやその気配は全くなし。そこまで、嫌われていたのかと、少しだけ心もガックリしてしまった。
「大変……でしたね」
「ああ、いえ。こんな話されても困りますよね。アハハハ」
医師は困った様子で頭を掻いた。レオはそんな医師を見て、とてもかわいそうに思えた。同情とか、共感とか、そういうものではないけれど、その境遇を聞くと噂というのが最も恐ろしく感じる。
少し気まずい空気になってしまって、沈黙が続いた。カチカチという時計の音が目立つ。
詐欺とか、まずは同情から入る。お人好しな人が、それに引っかかりやすいのは自分でも分かっているけれど、信頼しない自分が嫌になってきた。
人の過去には色んなことがある。そして、それは誰にも想像できないし、意外な物語ばかりだ。言葉というで、たまに塗り替えられ、それを聞いた人は信じるが、真実を知っているのは当の本人だけ。
ここで、疑いが脳裏をよぎるなんて……。そう思って考えると、レオは診察を受けようと思った。
「診察お願いします。僕には、ここしか受けられる所がないので」
見た目から人を判断したくない。理想はそうだが、わずかでも見た目を見てしまう。大丈夫、この人はきっと良い人だ。
悪い噂を耳にするだけの、病院の雰囲気があった。お化け屋敷にでも入った気分だ。
「失礼します。怪我人が来ました」
看護師がコンコンとノックして扉を開けると、そこには紙と睨めっこしている医師がいる。こちらの存在に気づき、レオの方に顔を向けた。
「久しぶりの患者ですね。座っていいですよ。どこをいつ怪我したんですか?」
見かけによらず、口調は穏やかだった。動物のような獰猛な顔をした医者は、目に目立つ傷があり、見た目の印象は噂の通りヤクザ。レオは、それを見てやっぱりやめようと思った。
アメリアが怖がるだけのことはある。病院の印象からも看護師からも医師からも信用を得られない。
「昨日の昼に、鼻が折れてしまって……」
「なるほど。病院に来たのは、鼻の骨の治療ですか?」
「はい」
すると、医者はレオをジーッと見つめた。レオは目先を泳がせながら、オロオロしている。鼻だから当たり前のはずなのに、なぜこんなに見るんだと思ってしまった。
正直、視線が痛い。
「やっぱり信用できませんか?」
「え?」
「いや、患者と医者は信頼し合うことで成り立っているので……。わたしの顔を見ると、やっぱり皆同じ表情をするんですよ」
すると、医者は苦笑いをして首を傾げてみせた。不気味にニヤけているようにも見えるが、もとからそう思われやすい顔をしている。レオはその質問に戸惑いながらも「えっと……目の傷が……」と小さい声で答えた。
「ああ、そうか……うーん。この傷は……」
医者は少し唸りながら考えると、目の傷の話をした。その話をした方が、患者にとって気になることが減って信じれると思ったのだろう。
◇◆◇◆◇
私は、小さな頃から右目だけ見えなかった。どうして見えないかとか、親は教えてくれなくて、鏡で自分の顔を見るたびに嫌悪感を感じた。
微妙に閉じかけた目は、無意識にも白眼になっていて、おかしな形状をしている。周りの皆も、気持ち悪い、怖い、醜い、変とばかり私を罵り、そう言われるたびに一層自分が嫌いになってくる。
そしてある時、私をいじめている男の子に、ナイフで右目を傷つけられた。どうせ見えないんだから、いらないだろって、突然刃物を目に向けて、傷跡だけが残った。
傷が熱くてどんどん血が出ていき、刃物が怖くてトラウマになりそうだった。心臓をドクドクと早めて、頭が真っ白になって、自分はこんなにも嫌われているんだと……。
気持ち悪い醜い右目に、追加された縦方向の深い傷。もう、鏡なんて見たくもない。痛いし、全部嫌いになったし、怖かった。
「医師になれ」
父親は医師をやっていて、自分が継ぐことになった。正直、嫌だったけれど、頑なに推してくる父の姿に断ることはできない。
血を見るたびに背筋がゾッとし、頭がクラクラとする。メスを持とうとすると、指が震えて何もできない。だけど、それは最初だけで、何度も繰り返すうちに慣れていった。吐いたこともあったけれど、体質的に無理なんだと思ったけれど、精神論でなんとかなった。
しかし、医師になっても、私は周りから好まれにくい。顔が父親似で、怖い目鼻立ちをしているのもあるかもしれないが、一番は自分に呪いのようについた右目。私を見るたびに、患者はぎょっとした表情をし、すぐに去っていく。
ヤクザ、悪徳医師、人体実験、なんて噂までも流れ、金銭的にも余裕が無くなっていった。患者が来ないと病院は成り立たないし、他の医者や看護師も退職、ずっと赤字状態だった。
今いる看護師は、体調が悪そうなはずなのに、それでも仕事を頑張るんだから申し訳ない。医師なんて、辞めちまおうなんて考えた。でも、自分みたいな顔の人を、雇ってくれる人はいるのだろうか。
久しぶりに来た患者も、やっぱり同じ顔。ただの言い訳にも聞こえるかもしれないが、こちらの事情を説明したら少しは信頼……なんてないか……。
何をしても怖い人。笑っても、泣いても、何かを見つめてても怖がられる。つい、心の内を患者にこぼしてしまったが、他の病院に行くはずだ。
魔獣戦争から怪我人が増え、患者も来るかと思いきやその気配は全くなし。そこまで、嫌われていたのかと、少しだけ心もガックリしてしまった。
「大変……でしたね」
「ああ、いえ。こんな話されても困りますよね。アハハハ」
医師は困った様子で頭を掻いた。レオはそんな医師を見て、とてもかわいそうに思えた。同情とか、共感とか、そういうものではないけれど、その境遇を聞くと噂というのが最も恐ろしく感じる。
少し気まずい空気になってしまって、沈黙が続いた。カチカチという時計の音が目立つ。
詐欺とか、まずは同情から入る。お人好しな人が、それに引っかかりやすいのは自分でも分かっているけれど、信頼しない自分が嫌になってきた。
人の過去には色んなことがある。そして、それは誰にも想像できないし、意外な物語ばかりだ。言葉というで、たまに塗り替えられ、それを聞いた人は信じるが、真実を知っているのは当の本人だけ。
ここで、疑いが脳裏をよぎるなんて……。そう思って考えると、レオは診察を受けようと思った。
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