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魔獣戦争
40話 セスキの視点
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レオは、驚くほど飲み込みが早かった。二度三度ぎこちながらも言われた通りにするだけで、最終的には綺麗な動きが一連の流れとしてできている。
普通はできあがった癖を修正するのに、かなりの時間と労を浸すのだが、彼はそうはいかずにすぐにコツを掴んだ。
「セスキは無駄な動きが少し目立つわね」
ギルド長の説明を聞きながら、所々レオと比べてしまった。彼よりはできる。できるけど、追いつかれそうなくらいに、レオのフォームがより綺麗になっていく。隣でチラチラ見ながら様子を伺ったが、自分の成長スピードが遅すぎる劣等感を感じた。
自分の方が上手なはずなのに。この中では、一番質の高い教育を受けてきたから、自分のフォームが綺麗だと思う。だけど、あの時負けたんだ。
結局は、試合の結果。戦いの勝ち負け。フォームが誰よりも上手くても、機転を利かせる能力がなければならないのだ。
セスキは最初、レオの剣捌きに時々目を奪われた。そうしながら、自分の指摘されたことを思い起こして素振りを続ける。
力みすぎ。腕を振り上げすぎ。足の踏み込みの歩幅が大きい。体のひねりが弱い。重心の変化ができていない。
たくさんあって頭がパンクしそうだった。
何気なく、チラッとレオを見る。熱心に素振りを続けて、何度も自分の動きを確認していた。
別に、高等な技術ってわけじゃないけれど、それをすごく手慣れた優美な動作でされると、心穏やかではいられなかった。
「セスキ、琉円斬ってできるかしら?」
聞いてきたのはギルド長だ。
琉円斬というのは、剣を素早く流れるように回転する動きで、連続で剣を振る技。むやみやたらに剣を振り回すのではなく、的確な方向に、相手を押しやる。昔、父に教えられたこともあって、難しい技ではあるけども、多少なりともできる。
回転させる時は握りを弱めるので、思う通りには行かず、剣が地面に落ちてしまう。剣の回転スピードに追いつけず、手から離れて飛んでいくこともある。
練習ではできるようになっても、実践で上手く利用するのはかなりの腕前ではないと成功しにくい。決まった型はなく、その時その時で剣の方向を工夫しなければならないからだ。
「一応できます」
「皆にやって見せようと思うから、できるならやってくれない? 結構スジのいい子もいるみたいだし、成功したら私がやるよりも周りはやる気が上がると思うから」
スジのいい子とは、もちろん決まっている。レオのことだろう。セスキは彼にチラリと視線を向けると、「やります」と返事をした。
「集合ー!」
ギルド長が手をパンパン叩いた。それに反応して皆が視線を注ぎ、セスキは大勢の目線に胸がキュッとなった。皆に見られるわけだから、緊張しないわけがないだろう。
「これからセスキが琉円斬をするわ。今日はここまでやらないけど、イメージはつけてて欲しい」
琉円斬の回転するパターンは、大きく分けて二つある。一つ目は、自分にとっての両サイドで回す方法。二つ目は、正面で八の字を描くように振る方法。
回転する瞬間、人差し指と親指でホールドし、残りの三本は緩く持って遊ばせる。柔らかく手首を回し、人差し指と親指は絶対に離さない。
剣の進む勢いに乗って、右サイドで流れるようにスピンさせた。空気を裂くように進み、ビュン。
右上から左下の斜めに向けて、空間を切断する。同じように左側でも回転すると、斜め上に剣を進めた。そして、最初と同じ動作をまた二回。
続けて腕を背中の後ろに下ろしていきながら、肩を前に振り進める。肩から先にムチのように前に腕と剣を振ると、その勢いのまま、順手から逆手へ持ち替えた。
スピードに乗せて、頭の上に腕を回す。
木剣は断然真剣より軽いので、手首に負担がかからず、いつも以上に調子が良かった。しかし、軽さの勢いに、自分を追いつけるのがやっとなんだが……。
次に八の字に回す。なるべく回転を利かせる時は、腕の振りを小さくしてほとんど手首で行う。回転方向は両方できると望ましいが、セスキには半時計周りがまだできていなかった。
その他にも、だいたいの型は似せて、方向や角度を変えながら連続技を繰り返した。主に複数の相手を威圧しながらの攻撃が目的なので、フルスピードで方向や狙う所を見つけ考えなければならない。
本番はそうだが、今は一連の動作を見せれば良いので、直感的な方向に思ったまま振ればいい。
セスキの見事な回しように「うわーっ」という歓声が聞こえてきた。
「はい、そこまで」
そう言われて、セスキは腕の動きを止めた。剣は自分から一度も落ちず、きちんと手のひらで握れている。失敗しなかったことに、彼はホッとした。
「あれ……?」
レオを目で探す。さっきまでいた場所にいない。いや、ちゃんといた。でも、集合から離れて剣を振り回している。早速、真似をしようとするなんて……。
説明も受けずに見ただけでやろうとする姿に、セスキは興味を持って見つめた。どうだろうか、彼なら成功しそうな気がする。
ぎこちなく剣を回し、回転スピードは当たり前遅かった。そもそも、回し方が違うのだ。きちんと持ち手を握ってしまっている。回転する瞬間、わずかに手を緩めていたが、木剣は遠心力を働かせながら飛んでしまった。
「クルクル……カタン……」の繰り返し。なかなか上手くいかずにいると、ギルド長が「タイミングよく握りを弱めて!」とレオに向かって叫ぶ。
その声に反応して、何度か挑戦していた。剣を旋回させる瞬間、全ての指に力を入れないで、一周終えると握り直している。本当なら、人差し指と親指できちんと押させないといけないのだが、ギルド長に言われたこと瞬時に理解してやっている。
俺の回転させた方向と順番を覚えているのか、と驚いた。セスキと全く同じ型と順序で連続技を試している。
クルクル、カタン……。失敗。
クルクル、ヒュン、カタン……。また、失敗。
クルクル、ヒュン、クルクル、カタン……。またまた、失敗。
クルクル、ヒュン、クルクル、ヒュッ、ザッ、クルクル、サッサッ、ヒュン、クルクルクルクル、シュ!
成功した。何度か失敗したが、最後まで落とさずできると「おっ!」というような表情を浮かべている。スピードはセスキより遅かったものの、難しい技をできているのはすごい。しかも、すぐに。
辺りがどよめいた。そして、セスキの時よりももっと大きな歓声。
なんて奴だ。セスキを見る目がしてやったりといった感じで、すごく嫌な気分になった。驚いて喜んでいるけども、少し微笑む程度の表情なので、すごいことを涼しい顔でされるともやもやする。
もともと表情が薄いと思っていたが、もっと喜ぶべきなのに……。
「見事にできちゃったわね」
横でギルドの声が興奮で弾んでいる。セスキは正直面白くなかった。
普通はできあがった癖を修正するのに、かなりの時間と労を浸すのだが、彼はそうはいかずにすぐにコツを掴んだ。
「セスキは無駄な動きが少し目立つわね」
ギルド長の説明を聞きながら、所々レオと比べてしまった。彼よりはできる。できるけど、追いつかれそうなくらいに、レオのフォームがより綺麗になっていく。隣でチラチラ見ながら様子を伺ったが、自分の成長スピードが遅すぎる劣等感を感じた。
自分の方が上手なはずなのに。この中では、一番質の高い教育を受けてきたから、自分のフォームが綺麗だと思う。だけど、あの時負けたんだ。
結局は、試合の結果。戦いの勝ち負け。フォームが誰よりも上手くても、機転を利かせる能力がなければならないのだ。
セスキは最初、レオの剣捌きに時々目を奪われた。そうしながら、自分の指摘されたことを思い起こして素振りを続ける。
力みすぎ。腕を振り上げすぎ。足の踏み込みの歩幅が大きい。体のひねりが弱い。重心の変化ができていない。
たくさんあって頭がパンクしそうだった。
何気なく、チラッとレオを見る。熱心に素振りを続けて、何度も自分の動きを確認していた。
別に、高等な技術ってわけじゃないけれど、それをすごく手慣れた優美な動作でされると、心穏やかではいられなかった。
「セスキ、琉円斬ってできるかしら?」
聞いてきたのはギルド長だ。
琉円斬というのは、剣を素早く流れるように回転する動きで、連続で剣を振る技。むやみやたらに剣を振り回すのではなく、的確な方向に、相手を押しやる。昔、父に教えられたこともあって、難しい技ではあるけども、多少なりともできる。
回転させる時は握りを弱めるので、思う通りには行かず、剣が地面に落ちてしまう。剣の回転スピードに追いつけず、手から離れて飛んでいくこともある。
練習ではできるようになっても、実践で上手く利用するのはかなりの腕前ではないと成功しにくい。決まった型はなく、その時その時で剣の方向を工夫しなければならないからだ。
「一応できます」
「皆にやって見せようと思うから、できるならやってくれない? 結構スジのいい子もいるみたいだし、成功したら私がやるよりも周りはやる気が上がると思うから」
スジのいい子とは、もちろん決まっている。レオのことだろう。セスキは彼にチラリと視線を向けると、「やります」と返事をした。
「集合ー!」
ギルド長が手をパンパン叩いた。それに反応して皆が視線を注ぎ、セスキは大勢の目線に胸がキュッとなった。皆に見られるわけだから、緊張しないわけがないだろう。
「これからセスキが琉円斬をするわ。今日はここまでやらないけど、イメージはつけてて欲しい」
琉円斬の回転するパターンは、大きく分けて二つある。一つ目は、自分にとっての両サイドで回す方法。二つ目は、正面で八の字を描くように振る方法。
回転する瞬間、人差し指と親指でホールドし、残りの三本は緩く持って遊ばせる。柔らかく手首を回し、人差し指と親指は絶対に離さない。
剣の進む勢いに乗って、右サイドで流れるようにスピンさせた。空気を裂くように進み、ビュン。
右上から左下の斜めに向けて、空間を切断する。同じように左側でも回転すると、斜め上に剣を進めた。そして、最初と同じ動作をまた二回。
続けて腕を背中の後ろに下ろしていきながら、肩を前に振り進める。肩から先にムチのように前に腕と剣を振ると、その勢いのまま、順手から逆手へ持ち替えた。
スピードに乗せて、頭の上に腕を回す。
木剣は断然真剣より軽いので、手首に負担がかからず、いつも以上に調子が良かった。しかし、軽さの勢いに、自分を追いつけるのがやっとなんだが……。
次に八の字に回す。なるべく回転を利かせる時は、腕の振りを小さくしてほとんど手首で行う。回転方向は両方できると望ましいが、セスキには半時計周りがまだできていなかった。
その他にも、だいたいの型は似せて、方向や角度を変えながら連続技を繰り返した。主に複数の相手を威圧しながらの攻撃が目的なので、フルスピードで方向や狙う所を見つけ考えなければならない。
本番はそうだが、今は一連の動作を見せれば良いので、直感的な方向に思ったまま振ればいい。
セスキの見事な回しように「うわーっ」という歓声が聞こえてきた。
「はい、そこまで」
そう言われて、セスキは腕の動きを止めた。剣は自分から一度も落ちず、きちんと手のひらで握れている。失敗しなかったことに、彼はホッとした。
「あれ……?」
レオを目で探す。さっきまでいた場所にいない。いや、ちゃんといた。でも、集合から離れて剣を振り回している。早速、真似をしようとするなんて……。
説明も受けずに見ただけでやろうとする姿に、セスキは興味を持って見つめた。どうだろうか、彼なら成功しそうな気がする。
ぎこちなく剣を回し、回転スピードは当たり前遅かった。そもそも、回し方が違うのだ。きちんと持ち手を握ってしまっている。回転する瞬間、わずかに手を緩めていたが、木剣は遠心力を働かせながら飛んでしまった。
「クルクル……カタン……」の繰り返し。なかなか上手くいかずにいると、ギルド長が「タイミングよく握りを弱めて!」とレオに向かって叫ぶ。
その声に反応して、何度か挑戦していた。剣を旋回させる瞬間、全ての指に力を入れないで、一周終えると握り直している。本当なら、人差し指と親指できちんと押させないといけないのだが、ギルド長に言われたこと瞬時に理解してやっている。
俺の回転させた方向と順番を覚えているのか、と驚いた。セスキと全く同じ型と順序で連続技を試している。
クルクル、カタン……。失敗。
クルクル、ヒュン、カタン……。また、失敗。
クルクル、ヒュン、クルクル、カタン……。またまた、失敗。
クルクル、ヒュン、クルクル、ヒュッ、ザッ、クルクル、サッサッ、ヒュン、クルクルクルクル、シュ!
成功した。何度か失敗したが、最後まで落とさずできると「おっ!」というような表情を浮かべている。スピードはセスキより遅かったものの、難しい技をできているのはすごい。しかも、すぐに。
辺りがどよめいた。そして、セスキの時よりももっと大きな歓声。
なんて奴だ。セスキを見る目がしてやったりといった感じで、すごく嫌な気分になった。驚いて喜んでいるけども、少し微笑む程度の表情なので、すごいことを涼しい顔でされるともやもやする。
もともと表情が薄いと思っていたが、もっと喜ぶべきなのに……。
「見事にできちゃったわね」
横でギルドの声が興奮で弾んでいる。セスキは正直面白くなかった。
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