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魔獣戦争
46話 傷付け合い
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「こんなことをしても無駄だ! 国がもっと苦しくなる一方だぞっ!」
セスキが怒りのこもった声を上げた。声を荒立て、これ以上にない大きな声で平民に向ける。しかし、その言葉は届かない。
一揆に集中している人々は、死ぬ気で戦っているのだ。もちろん、自分がこんなことをして無事で済まないことは理解している。死ぬ気だからだ。死ぬことを前提に考えて、この事態を起こしているからだ。
セスキの言葉だけでは、彼らの意志は変えることができない。状況は時間が進むにつれて悪化し、王宮はあっという間に囲まれてしまった。なんというか、誰かが計画したようにスムーズに。
「レオ、中に入るぞ」
荒っぽい口調で、セスキが言った。余裕が無いせかせかした様子で、声がいつも以上に低い。真剣だって分かったけれど、チラッと見えた目は殺意に見えた気がした。どうしたものか、とレオは驚いてしまう。
確かに、仲間が反乱を起こして焦るのは分かるけども、どちらかと言うとそれは冷静に見える。
変に冷静で怒っていて、声が低く、レオの顔を見ようとしない。それが気になった。
「待て! 何するんだ」
「陛下を守るんだよ。馬鹿な俺でも、仕事と情は分けてる」
すると、セスキはさっさと中へ入っていった。壊れた門をくぐり、レオはその後をついていく。
僕が聞いたのは、そういう事じゃないんだ。何するんだってのは、セスキの顔が険しくて気掛かりになって、つい突発的に言ってしまったから。セスキの表情が、まるで一気を起こした人達を……。いいや、そんなはずないか。
中では、騎士と平民が格闘していた。レオは急いで複数の人達を抑え込むが、その勢いは収まらない。陛下はおそらく最上階にいるため、そのための階段を騎士が必死になって通せんぼしている。
殴り、蹴り、剣を向け、魔法を発動させる。武力で抑え込もうと、騎士も冒険者も平民に対して攻撃を続けた。それに負けんばかりと、平民も槍や鎌などを使って逆らった。
「もう、やめて下さい! 落ち着いて下さい!」
レオは一人の男性の腕を掴むと、肩を揺すって終わるように促した。でも、男性はレオの腹を足で蹴り、引き離すと暴れ続けた。他の人にも、同じように声をかけたが無駄だった。
最初から、無駄って分かっていたけど、戦いたくない自分にできることといえばこれくらい。思いつく限りに声を掛けたが、全く効果は見られなかった。
「レオ、あぶない!」
アメリアがレオの服を引っ張った。その拍子に足が絡まって、横に倒れてしまう。すると、横に倒れた状態からたまたま真上に視界が入り、シャンデリアがグラグラしているのか見えた。
ガシャーンっ!
ギリギリで避けれた。キラキラと光ったガラスと金が、床に勢いよく散らばり、レオの皮膚にも少し刺さる。幸い下敷きにならずにすみ、大怪我はしなくてすんだ。
「ありがとう、アメリア」
レオはすぐに立ち上がると、暴れる平民を落ち着かせようと同じことを繰り返す。たまたま視界の中に、セスキが見えた。
剣を振り上げ、人に向けて下ろす。その光景が、嫌でも目に入ってそらせない。
「え……? 何しているの? セスキ」
理解できなかった。なぜ、なぜ、セスキは住民を刺しているのだろう。こんなの、あの元気で無邪気なセスキじゃないよ。いつも冗談言って、変に気合いだけはあって、皆のためには優しいからじゃない。
何があったの? どういうこと? どうして?
「セスキっ! 何……してるの? 僕たちは反乱を鎮める。皇帝を守る。任務は、それだけでしょ……?」
なんかいつもと雰囲気が違かった。静かに黙っていて、レオを振り向くだけでまた剣を動かす。セスキは人を刺すマシーンのようになっていて、淡々と作業を繰り返していた。
魔族は人間をいじめ、人間は自分達を守るために魔族を倒した。ヒドの『おあいっこ』を思い出す。それと似た事が、今、人間同士で行われているのだ。
「本当に……どうかしているよ。なんで……皆が傷付けあうの……?」
「皇帝を攻撃する者は裏切り者だ。だから、当然」
セスキはそう答えると、レオから離れていった。一番、そう言うのに否定しそうなセスキが、彼がそう言っている。人の嫌な一面が露わになって、こんな所にいたくないと思う。
セスキを止められない自分も、本当に嫌になった。追いかけられる距離だけど、止められない。
裏切り者なら殺しても良いなんて、馬鹿な事いうなよ。
「この事態に行き着く事を、皇帝は行ったんだ。だから、俺達平民はそれに抗う!」
すると、背後にいた平民が鎌を振り上げた。レオに向かって睨みながら殺しにくる。レオは剣を使って鎌を抑えると、相手の手首を掴んで攻撃できないようにした。すると、振り払おうと体を左右に動かして、力ずくで手首を動かした。しかし、レオの方が握力が強いため、なかなか解けない。
「ごめんなさい。誰だってこんな事なりたくありませんでしたよね」
レオはパッと手を離すと、鎌の持ち手を切断した。鉄と木でできた鎌は、刃と棒に変わり、もう使い物にならない。その場からレオは去ると、次々と武器を壊していった。
「冒険者だって、僕だって、こんな事したくないよ」
セスキが怒りのこもった声を上げた。声を荒立て、これ以上にない大きな声で平民に向ける。しかし、その言葉は届かない。
一揆に集中している人々は、死ぬ気で戦っているのだ。もちろん、自分がこんなことをして無事で済まないことは理解している。死ぬ気だからだ。死ぬことを前提に考えて、この事態を起こしているからだ。
セスキの言葉だけでは、彼らの意志は変えることができない。状況は時間が進むにつれて悪化し、王宮はあっという間に囲まれてしまった。なんというか、誰かが計画したようにスムーズに。
「レオ、中に入るぞ」
荒っぽい口調で、セスキが言った。余裕が無いせかせかした様子で、声がいつも以上に低い。真剣だって分かったけれど、チラッと見えた目は殺意に見えた気がした。どうしたものか、とレオは驚いてしまう。
確かに、仲間が反乱を起こして焦るのは分かるけども、どちらかと言うとそれは冷静に見える。
変に冷静で怒っていて、声が低く、レオの顔を見ようとしない。それが気になった。
「待て! 何するんだ」
「陛下を守るんだよ。馬鹿な俺でも、仕事と情は分けてる」
すると、セスキはさっさと中へ入っていった。壊れた門をくぐり、レオはその後をついていく。
僕が聞いたのは、そういう事じゃないんだ。何するんだってのは、セスキの顔が険しくて気掛かりになって、つい突発的に言ってしまったから。セスキの表情が、まるで一気を起こした人達を……。いいや、そんなはずないか。
中では、騎士と平民が格闘していた。レオは急いで複数の人達を抑え込むが、その勢いは収まらない。陛下はおそらく最上階にいるため、そのための階段を騎士が必死になって通せんぼしている。
殴り、蹴り、剣を向け、魔法を発動させる。武力で抑え込もうと、騎士も冒険者も平民に対して攻撃を続けた。それに負けんばかりと、平民も槍や鎌などを使って逆らった。
「もう、やめて下さい! 落ち着いて下さい!」
レオは一人の男性の腕を掴むと、肩を揺すって終わるように促した。でも、男性はレオの腹を足で蹴り、引き離すと暴れ続けた。他の人にも、同じように声をかけたが無駄だった。
最初から、無駄って分かっていたけど、戦いたくない自分にできることといえばこれくらい。思いつく限りに声を掛けたが、全く効果は見られなかった。
「レオ、あぶない!」
アメリアがレオの服を引っ張った。その拍子に足が絡まって、横に倒れてしまう。すると、横に倒れた状態からたまたま真上に視界が入り、シャンデリアがグラグラしているのか見えた。
ガシャーンっ!
ギリギリで避けれた。キラキラと光ったガラスと金が、床に勢いよく散らばり、レオの皮膚にも少し刺さる。幸い下敷きにならずにすみ、大怪我はしなくてすんだ。
「ありがとう、アメリア」
レオはすぐに立ち上がると、暴れる平民を落ち着かせようと同じことを繰り返す。たまたま視界の中に、セスキが見えた。
剣を振り上げ、人に向けて下ろす。その光景が、嫌でも目に入ってそらせない。
「え……? 何しているの? セスキ」
理解できなかった。なぜ、なぜ、セスキは住民を刺しているのだろう。こんなの、あの元気で無邪気なセスキじゃないよ。いつも冗談言って、変に気合いだけはあって、皆のためには優しいからじゃない。
何があったの? どういうこと? どうして?
「セスキっ! 何……してるの? 僕たちは反乱を鎮める。皇帝を守る。任務は、それだけでしょ……?」
なんかいつもと雰囲気が違かった。静かに黙っていて、レオを振り向くだけでまた剣を動かす。セスキは人を刺すマシーンのようになっていて、淡々と作業を繰り返していた。
魔族は人間をいじめ、人間は自分達を守るために魔族を倒した。ヒドの『おあいっこ』を思い出す。それと似た事が、今、人間同士で行われているのだ。
「本当に……どうかしているよ。なんで……皆が傷付けあうの……?」
「皇帝を攻撃する者は裏切り者だ。だから、当然」
セスキはそう答えると、レオから離れていった。一番、そう言うのに否定しそうなセスキが、彼がそう言っている。人の嫌な一面が露わになって、こんな所にいたくないと思う。
セスキを止められない自分も、本当に嫌になった。追いかけられる距離だけど、止められない。
裏切り者なら殺しても良いなんて、馬鹿な事いうなよ。
「この事態に行き着く事を、皇帝は行ったんだ。だから、俺達平民はそれに抗う!」
すると、背後にいた平民が鎌を振り上げた。レオに向かって睨みながら殺しにくる。レオは剣を使って鎌を抑えると、相手の手首を掴んで攻撃できないようにした。すると、振り払おうと体を左右に動かして、力ずくで手首を動かした。しかし、レオの方が握力が強いため、なかなか解けない。
「ごめんなさい。誰だってこんな事なりたくありませんでしたよね」
レオはパッと手を離すと、鎌の持ち手を切断した。鉄と木でできた鎌は、刃と棒に変わり、もう使い物にならない。その場からレオは去ると、次々と武器を壊していった。
「冒険者だって、僕だって、こんな事したくないよ」
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