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魔獣戦争
45話 一揆
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「皇帝は上手い飯とかふざけるな!」
「税金を減らせ!」
「なぜ、魔獣をすぐに倒せなかった! 皇帝がきちんと考えていれば、こうはならなかったはずだ!」
「魔獣は皇帝の仕業だ!」
「城を燃やすぞ!」
突然、住民の怒りが頂点に達した。何やら外が騒がしいと思って様子を見ると、人々が武器を持って王都に向かっている。その最もな原因は、魔獣戦争による苦しい生活だった。
そして、その怒りがなぜか皇帝に向けられ、一揆が起こったのだ。
魔獣戦争で亡くなった家族、毎日乏しい生活、景気が悪くなる一方で、誰もが不満を募らせる。そして、一人がそのことに対する発言をすることで、周りも共感し始め、皇帝に怒りを抱くようになった。
なぜ、私達はこんな目に遭わなければならないのか。
皇帝だけが苦しくない生活をしている。
この魔獣の大量発生は皇帝が原因だそうだ。
皇帝の絶対的権力のせいで、私たちは苦しむ一方だ。
国の資産は安定しなくなった。税金も前より五%増えたせいで、私達は生きるのがやっとだ。
冒険者の報酬も生還した人だけだった。死者となった冒険者の家族の収入はどうなるんだ。
噂から噂になり、その狭間でありもしない話が誕生する。それが不確かでも、今の鬱憤とこの不景気な状況から逃れるために、何かと理由をつけて、自分たちより良い生活をしている人に矛先を向けた。
人々は鎌や武器を持って王都へ襲撃を始める。
「何でっ! 住民側の俺たちが、住民を倒さなきゃなんねえんだ……!」
セスキが納得のいかない顔を浮かべている。レオも同じことを思った。これ以上、不必要な争いは何も生まない。
冒険者は自国のために働く常居冒険者と、他国へと旅をしながら働く移転冒険者がいる。その中の常居冒険者は、特にこんな争いなんてしたくなかった。家族、友達、知り合いに歯向かうことになるからだ。
王宮が攻められれば、もちろんギルドに派遣を呼び出される。しかし、住民からしたらそうも行かず、今までの不満をはらすことが何よりも重要。もう一揆が始まってしまうと、王宮へ前進する自分達の気持ちも強くなった。
王に対する怒り、憎しみ、嫉妬が歩くうちに、集団で共感を増やすうちに、「やっぱりそうだ。自分の意見は間違いない」と気持ちが高まっていく。
「はあ……。僕、本当は安静にしてないといけないのに……」
手術から三日が経っていた日の夜に、一揆が始まったので、緊急で王宮を守るように言われた。行きたくない気持ちに耽りながらも、ギルドの命令には渋々従った。
そうか、五日の間で魔獣に対する怒りが陛下へ代わったんだ……。変わるきっかけの噂って、何なんだろう。
馬に乗りながら、ふとそう思う。泣きっ面に蜂なんて、本当にあるもんなんだな、と実感した。魔獣戦争、訓練の強化、資源不足、一揆、内乱、とどれも不運に苦しい国の事情ばかりだ。
「あ……魔法試験、明日だ……」
訓練の強化から魔法と言うワードを思い出し、すっかり忘れていた魔法試験が出てきた。この一揆のせいで、中止なんてことはないといいが、明日に対して徐々に緊張してきた。
あ、いけないいけない。今は、魔法試験について考えない方がいいか。まずは、住民の怒りを沈ませるのが最優先。皇帝ってそんな悪い人なのかな?
速急で国に向かうために渡された馬は、物凄いスピードで駆け抜ける。レオは、自分の視界を悪くする前髪をかき上げて、風によってオールバックにさせた。隣で同じように馬を走らせているセスキは、眉間にシワを寄せて歯を食いしばっている。
「早めに終わらそう、セスキ。僕は人間と武力で向かい合いたくないけど、まずは落ち着かせないとダメなんだ」
彼はコクッと首を振ると、走るスピードを上げさせた。レオもそれに合わせて、遅れまいと速度を合わせた。すれ違う住民、子供、大人、全員がボロボロになって横たわっている。
一揆に参加していない人達も、地面で横になりながらこれが終わることを願っていた。街の中を駆け抜ける冒険者達が、自分達の目の前を通り過ぎると風が生じる。
食糧も水も確保しにくく、服は汚くなって、家は崩壊。魔獣や住民の死体から血の匂いがして、家にいたくても中には入れない。
パカラっパカラっと馬の足音が街中を響かせる。だんだんと王都が近くなって、巨大な王宮の一角が見えてきた。高く高く天に向かって立っているような、大きな真っ白い城を目指す。
ワーワーと大勢が叫ぶ音が聞こえた。一揆を起こした住民は王宮に到着して、もう襲撃を始めている頃だと思う。もし、上手く全員落ち着かせることができだとしても、一番怖いのは再度他で一揆が起こることだ。
ある問題が生じると、なぜかまた同じような問題を起こす人が出てくる。この一揆が静まったとしても、また何日後かに起こることも可能性としてはあるのだ。
レオとセスキは、王宮へ長い坂を登っていった。攻めてきた時の対策にできている長い坂。もう王宮は目前で、後少しで到着できた。アリのように小さい人間が、中へ攻めていくのが見える。
兵士や騎士が一団となって、それに歯向かおうとしたが、勢いにやられて行った。門はすでにぶち壊されていて、自分にできることは何なのだろうと思ってしまう。
建物の一部は倒壊していた。
鎮めるってさ、どうやるの? 皆、もう止められないよ。とりあえず、片っ端から声をかける? いいや、時間がない。人は傷つけたくない。僕より弱い立場の人を傷つけるなんて絶対に嫌だ。
どうする? どうする?
「税金を減らせ!」
「なぜ、魔獣をすぐに倒せなかった! 皇帝がきちんと考えていれば、こうはならなかったはずだ!」
「魔獣は皇帝の仕業だ!」
「城を燃やすぞ!」
突然、住民の怒りが頂点に達した。何やら外が騒がしいと思って様子を見ると、人々が武器を持って王都に向かっている。その最もな原因は、魔獣戦争による苦しい生活だった。
そして、その怒りがなぜか皇帝に向けられ、一揆が起こったのだ。
魔獣戦争で亡くなった家族、毎日乏しい生活、景気が悪くなる一方で、誰もが不満を募らせる。そして、一人がそのことに対する発言をすることで、周りも共感し始め、皇帝に怒りを抱くようになった。
なぜ、私達はこんな目に遭わなければならないのか。
皇帝だけが苦しくない生活をしている。
この魔獣の大量発生は皇帝が原因だそうだ。
皇帝の絶対的権力のせいで、私たちは苦しむ一方だ。
国の資産は安定しなくなった。税金も前より五%増えたせいで、私達は生きるのがやっとだ。
冒険者の報酬も生還した人だけだった。死者となった冒険者の家族の収入はどうなるんだ。
噂から噂になり、その狭間でありもしない話が誕生する。それが不確かでも、今の鬱憤とこの不景気な状況から逃れるために、何かと理由をつけて、自分たちより良い生活をしている人に矛先を向けた。
人々は鎌や武器を持って王都へ襲撃を始める。
「何でっ! 住民側の俺たちが、住民を倒さなきゃなんねえんだ……!」
セスキが納得のいかない顔を浮かべている。レオも同じことを思った。これ以上、不必要な争いは何も生まない。
冒険者は自国のために働く常居冒険者と、他国へと旅をしながら働く移転冒険者がいる。その中の常居冒険者は、特にこんな争いなんてしたくなかった。家族、友達、知り合いに歯向かうことになるからだ。
王宮が攻められれば、もちろんギルドに派遣を呼び出される。しかし、住民からしたらそうも行かず、今までの不満をはらすことが何よりも重要。もう一揆が始まってしまうと、王宮へ前進する自分達の気持ちも強くなった。
王に対する怒り、憎しみ、嫉妬が歩くうちに、集団で共感を増やすうちに、「やっぱりそうだ。自分の意見は間違いない」と気持ちが高まっていく。
「はあ……。僕、本当は安静にしてないといけないのに……」
手術から三日が経っていた日の夜に、一揆が始まったので、緊急で王宮を守るように言われた。行きたくない気持ちに耽りながらも、ギルドの命令には渋々従った。
そうか、五日の間で魔獣に対する怒りが陛下へ代わったんだ……。変わるきっかけの噂って、何なんだろう。
馬に乗りながら、ふとそう思う。泣きっ面に蜂なんて、本当にあるもんなんだな、と実感した。魔獣戦争、訓練の強化、資源不足、一揆、内乱、とどれも不運に苦しい国の事情ばかりだ。
「あ……魔法試験、明日だ……」
訓練の強化から魔法と言うワードを思い出し、すっかり忘れていた魔法試験が出てきた。この一揆のせいで、中止なんてことはないといいが、明日に対して徐々に緊張してきた。
あ、いけないいけない。今は、魔法試験について考えない方がいいか。まずは、住民の怒りを沈ませるのが最優先。皇帝ってそんな悪い人なのかな?
速急で国に向かうために渡された馬は、物凄いスピードで駆け抜ける。レオは、自分の視界を悪くする前髪をかき上げて、風によってオールバックにさせた。隣で同じように馬を走らせているセスキは、眉間にシワを寄せて歯を食いしばっている。
「早めに終わらそう、セスキ。僕は人間と武力で向かい合いたくないけど、まずは落ち着かせないとダメなんだ」
彼はコクッと首を振ると、走るスピードを上げさせた。レオもそれに合わせて、遅れまいと速度を合わせた。すれ違う住民、子供、大人、全員がボロボロになって横たわっている。
一揆に参加していない人達も、地面で横になりながらこれが終わることを願っていた。街の中を駆け抜ける冒険者達が、自分達の目の前を通り過ぎると風が生じる。
食糧も水も確保しにくく、服は汚くなって、家は崩壊。魔獣や住民の死体から血の匂いがして、家にいたくても中には入れない。
パカラっパカラっと馬の足音が街中を響かせる。だんだんと王都が近くなって、巨大な王宮の一角が見えてきた。高く高く天に向かって立っているような、大きな真っ白い城を目指す。
ワーワーと大勢が叫ぶ音が聞こえた。一揆を起こした住民は王宮に到着して、もう襲撃を始めている頃だと思う。もし、上手く全員落ち着かせることができだとしても、一番怖いのは再度他で一揆が起こることだ。
ある問題が生じると、なぜかまた同じような問題を起こす人が出てくる。この一揆が静まったとしても、また何日後かに起こることも可能性としてはあるのだ。
レオとセスキは、王宮へ長い坂を登っていった。攻めてきた時の対策にできている長い坂。もう王宮は目前で、後少しで到着できた。アリのように小さい人間が、中へ攻めていくのが見える。
兵士や騎士が一団となって、それに歯向かおうとしたが、勢いにやられて行った。門はすでにぶち壊されていて、自分にできることは何なのだろうと思ってしまう。
建物の一部は倒壊していた。
鎮めるってさ、どうやるの? 皆、もう止められないよ。とりあえず、片っ端から声をかける? いいや、時間がない。人は傷つけたくない。僕より弱い立場の人を傷つけるなんて絶対に嫌だ。
どうする? どうする?
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