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魔獣戦争

38話 突然の刷新

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 寮に帰ると、魔法取扱者試験の受験票が届いていた。もう残り一週間になり、時間が早いと思ってしまう。レオは部屋に入ると、ボフンっとベッドに飛び込んだ。
 魔獣戦争で疲れ果てていて、セスキとそばを大量に食べたので、もうこのまま寝てしまいたい。

「あー、風呂入らないと……」

 重たい体を起こすと、嫌々ながらも大浴場へ向かった。体は血まみれで、汗と鉄臭てつくさにおいが混ざった汚臭がレオの体に纏わりついている。風呂に入らないという選択肢はなかった。でも、だるい。

「帰ってくるの何時だろ……?」

 アメリアは友達に会うために、外へ出掛けて行った。霊の友達がたくさんできたようで、よく会いに行っては楽しそうだ。
 彼女の帰る時間帯を気にしながら、レオは服を脱いで風呂に入る。寮の一階の奥にある大浴場は、魔獣戦争の後なので人がごった返していた。
 指定の袋に服を入れ、名前と部屋の番号を書いた札を結び、ギルドの受付人に渡すと洗ってくれる。見ると、人が多くてとても忙しそうだった。

 泥や血、汗の混ざった体にゴシゴシと泡を立てて、石鹸とともに垢を洗い落とした。髪の毛は念のために二回洗う。バスタブに溜めてあるお湯を、湯桶で掬い取り頭から熱いお湯をかぶった。

「ふぅ……気持ちいい」

 温泉にゆっくりとからだを沈めて浸かった。風呂に入ると体に溜まった疲れが滲み出てくる。
 明日は依頼をしたくない。一日休んで、次の日にでも訓練場か依頼をやりたいと思った。あと、ギルド長に勝つために鍛えなければ……。

 ◇◆◇◆◇

「はい、こちら報酬の金貨六枚と銀貨三枚になります」

「えっ、多いですね」

「はい、予想よりも死者が多く、人数が減ったので一人あたりの報酬も多くなったんですよ。でも、レオさんは魔族とも戦っており、かなりの量の魔獣を倒しているので、さらに多くなっています」

 翌日、ギルドに行って冒険者達は報酬を受け取った。高額の報酬を貰えたことに、「飲みにいこう!」と騒いでいる。
 しかし、その喜びの束の間、ギルド長はロビーにいる冒険者達に、会議で決めた方針を発表した。

「今日から、魔法訓練と剣士訓練のどちらかに参加してもらう。昨日の会議で、魔族の存在から訓練を強化することに決まった! 皆、希望の訓練を選択し、今日の午後三時から訓練場に集まってくれっ」

 そう言い終わると、ギルド長は受付人に用紙を配らせた。魔法か剣士のどちらかを選択する紙だ。受け取って見てみると、記入欄には名前と冒険者ランク、訓練の選択とその理由があった。その下には、魔法と剣士で時間別の訓練内容が書かれている。

 ギルド長はいつに増しても真剣な表情で、声のトーンや口調が本気モードだった。報酬に興奮していた冒険者も、一瞬にして鎮まりどんよりとした空気に変わった。皆が皆、しばらく休みたいと思っていたからだ。

「昨日のことで疲れていると思うが、陛下の決断でもあるので頑張ってほしい。三時までの間は、自由だ」

 ギルド長は、報告を終えるとスタスタと去ってしまった。その直後に冒険者達はざわつかせると、ため息をついたり、愚痴をこぼしたりしている。レオも少しは休ませてくれっと思ったが、充実できる厳しい訓練内容は有り難かった。
 訓練場は施設としては整っているが、指導者もいるということなので、きちんとした剣のフォームを習うことができる。それはそれで嬉しかった。
 ただ、少しだけでも休ませてくれ。

「よっ、訓練はどっちにするつもり?」

 セスキが肩をポンと軽く叩いた。右手にレオと同じ紙を持って、訓練の選択について質問する。周りが嘆いている中、相変わらず元気な様子だ。

「魔法はできないから、剣士訓練にするつもりだよ。セスキは剣も魔法もできてたよね? どっちにするの?」

「俺も剣士訓練かな。魔法はできるけど、そこまで特化したいと思ってないし。でも、レオ強いから魔法できると思ってた。めっちゃ意外」

「資格持ってないから。一週間後の魔法試験には受験するつもりだけど、合格できるか不安なんだよね。実技試験がなかなか……」

「えっ、実技試験が心配なの? 普通筆記試験だろ。実技は簡単だから、問題ないよ。ちっちぇ火で合格できるぐらいの難易度だし。最初は発動しねぇけどよ、何度か詠唱くりかえしたらできるようになるじゃん?」

「それが、できないんだよね……ハハ」

 レオは引き攣った笑みを浮かばすと、乾いた声で笑った。セスキが「えー、マジ?」と言った表情で、驚いている。異常に魔法ができないことは前々から承知していたが、自分の口から言うと情けなくなる。
 できないことが恥ずかしい。セスキが少しでもできるのは羨ましく、習いたいと思った。

「もしよければ、教えてくれない?」

「おう! もちろんだ」

 思っていたよりも快く返事をされた。否定されたり、嫌な目で見られたりしないか心配になったが、セスキは全くそんな顔もせず、レオの欠点を受け止めてくれる。研究員にされたことが、頭の中で自動的に思い出された。
 でも、そんな事はすぐにかき消す。たまにあの恐怖が、突如として自分に思い出させるが、今は違うんだ。

「ありがとう。僕、頑張るよ」

 自然と言葉が出た。魔法ができないことで欠陥品と呼ばれた自分が、誰かと同等に話せ、優しく接されているのだ。いつも以上に、変に嬉しくなる。
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