上 下
39 / 49
魔獣戦争

37話 会議

しおりを挟む
 魔獣戦争が終わった。魔族を倒すことと、噴火口を爆破させたことの二つが大きな役割を果たし、予想よりも遥かに終わってくれた。

「皆! よく頑張った! 今日はゆっくり休んで、明日ギルドに活躍を報告してくれっ」

 ギルド長の締めで、冒険者は解散となった。帰る人は、来た時よりも半分以下と少ない。自分は本当に奇跡的に生きていると実感した。

「あれ? クロロは?」

 レオを見つけたセスキは、後ろから背中をトンと叩いて話しかけた。腕を回して首を軽く押さえつけ、ふざけたようにレオと接する。

「イダダっ」

「あ、すまん」

 痛そうに叫ぶレオに、セスキはパッと手を離して謝った。鼻が折れていると、頭を少し揺らしただけで痛くなる。セスキの接し方は荒っぽかったが、悪気はないようなので許した。

「衛生兵に、担架で運ばれていったよ。ところでクラーレは?」

「従魔の手当だったと思う。でも、マジで危なかったな。俺、落ちた時にガチで死ぬかと思った」

 セスキの話に、レオは「僕も」と共感した。そう思いながら、セスキが彼の首に触れれたことになぜかホッとしていた。自分は気にしてないと思っていても、本当は少しでも怖かったんだなと思う。

「よぉーし! そば屋行こうぜ」

 セスキは元気に夕食を誘った。魔獣戦争が終わったばっかりにも関わらず、全く疲れた様子を見せない。レオは、その溢れんばかりの謎の気力に、「はいはい」と言いながら笑ってみせた。
 愉快な仲間がいることに、とても楽しそうだ。アメリアは、そんな彼の横顔を見つめた。鼻の周りに分厚い包帯を巻き、頬や額に絆創膏やガーゼが貼られている。怪我をしているのは、一目瞭然。

 でも、口元が笑っているのが、アメリアは嬉しかった。

 レオは変わった。ちゃんとふざけることができるようになったし、前と違って一緒にいて楽しい仲間も増えた。そのおかげで、よく笑えているし、一緒に頑張れる仲間がいる。
 レオには、純粋に幸せになって欲しい。でも、今が不幸せかって言ったら、それは違うことに気付いた。レオは今、十分に幸福を感じている。
 もしかしたら、私が自分の死を、勝手に引きずっていたってのもあるかもしれない。

 ◇◆◇◆◇

 魔獣戦争が解決した次の日の夜。王都にて、会議が行われた。ディケオスィニというアナトリー王国で、強いとされる十人の代表が集まった。

 ディケオスィニは、五年前に国王が結成させた戦いの代表だ。そのメンバーには、セスキの父シフトと、ギルド長のアセトもいる。残り八人も同じように、戦いに特化した人たちで、他の支部のギルド長やSSランク冒険者、騎士団の隊長などがいる。

「今回の魔獣戦争において、参加した者は皆ご苦労様でした。忙しい中、緊急会議を開きお詫び申しあげます。これから、魔獣戦争について参加した者の話や意見を中心に、訓練や方針を話し合い、再度考え直したいと思います」

 国王が会議を始める前に、緊急で集まったことの理由や集まった感謝の言葉を言った。他十人は、丁寧に頭を下げて椅子へと座る。使用人が後から飲み物を出して、国王は先に一口飲むことを勧めた。

「まず、魔獣戦争に参加したシフト、フェニル、ビス。現場の状況報告と調査の詳細をお願いします」

 国王は三人の名前を指名し、事の事情を説明させた。シフトは紅茶を見つめながら湯気を顔に当てており、フェニルとビスは顔を見合わせると、どっちが話すか少し間が空いた。

「では、私から……」

 ゴホンと咳払いをすると、ビスが椅子から立って報告を始めた。ビスは騎士団の隊長ということもあり、こういう発表の場面で積極的に話してくれる。

「この戦争のきっかけは、魔族によるものだと考えられます。魔族は十年前に絶滅したと考えられていましたが、三匹も生き残りが確認されました。このことから、まだ魔族が隠れている可能性もあります。
 兵士、冒険者、騎士の順に死者が多く、騎士でも残った数は半分以下でした。アオニロカイ地方まで魔獣の被害は広がり、発生源に一番近いミリニソ村はもう手遅れでした。民間人の救助はできるだけ行いましたが、人数があまりにも多いため、十分な手当が間に合っていません。家が無くなった人も多くいます。
 発生源の噴火口を調査した所、ほとんどが爆破されていたため詳しくは調べられなかったのですが、規模の大きい魔法陣が見つかりました。魔族はそれを使って魔獣を大量発生させたのだと思われます。
 魔法陣は完成させるのに五年はかかるもので、高度な技術が複雑に使われており、転移魔法ができていました。焼け跡のせいで、その技術について詳細を知ることはできず、今は科学者に調べを任せています。
 これが以上です」

 報告を全て終えると、ビスは席に座った。その話を聞いて、全員が転移魔法に驚いた。できないと証明もされていたはずの魔法が、魔族によって行われているのだ。誰もが気になり、ビスだけが喋っていた部屋にざわめきが生まれる。

「転移魔法……。魔族は私たちよりも、魔法の技術が進んでいるはずです。危機感を強めて、軍を強くしなければ、次責められた時は今度こそ国が滅びてしまかもしれません」

「魔族を倒したことで、魔獣が減って気が緩んだのかもね」

「騎士と冒険者を中心に、訓練を強化しませんか? 冒険者は今まで訓練場を自由参加にしていましたが、曜日で割り振って必ず訓練をさせるのはどうでしょう? 専門な知識を持った人を、指導に雇うのもありです」

「それでは、魔法訓練と剣士訓練に分けませんか?」

 国王はゴホンと咳払いしてみせた。それに反応して、全員が静かになる。国王は一旦内容を整理させると、順番よく話し合いを進めていった。次々と発言してバラバラになる代表者を、会議の進行をしつつまとめ上げる。

 そのまま十時まで会議は続き、訓練の新しい方針と被害にあった国民の処置が決められた。
しおりを挟む

処理中です...