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魔獣戦争
31話 死にたくなきゃ無茶しろ!
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セスキとクラーレの仲裁をしていると、魔獣が襲ってきた。
言わんこっちゃない。こんな所で喧嘩するからだ……。
レオはゴブリンの顔面を蹴飛ばすと、剣でマンドレイクを刺してマンイーターにぶつけた。ハエトリグサのような見た目に触手のようなツルをうねらせ、ぶつかったマンドレイクを絡ませると口へと運んでいった。
マンイーターはうかつに触ると、ツルを絡めて食べられてしまう。咲いている大きな花を切り落とさなければ、動きを止めることができない。かと言って、無理に近づいて触ってしまうとレオが食料になってしまう。
「セスキ、火魔法使える?」
「一応できるけど、少ししか……」
「ツルを焼き払えるならお願いしたい」
セスキが詠唱を唱えると、火の玉が手のひらから現れた。それをマンイーターに向かって投げつける。サッカーボールほどの大きさの炎を五発ほど当てると、マンイーターの触手は燃え上がった。しかし、花だけは引火することなく、焦げもつかずに美しさを保っていた。
そう、マンイーターの花は火に強いのだ。
すると、焦げ落ちたツルの間から、また新しいツルが生えてきた。炎で燃やしてもすぐに再生し、ツルを減らすことはできなかった。
「こいつ、ツルを燃やしてもまた生えちまう」
「セスキ、剣を持って。一気に二人でツルを切断して、花を切り落とそう」
「わ、わかった」
両サイドから挟み討ちをしてマンイーターのツルを切った。なるべく、長くツルには触れないよう一瞬で済ませる。間から新しく生えてきたツルもすぐに刈り、口になっている所もサッと断ち分けた。口は花を囲うように五つあり、レオはそのうちの二つを切断することに成功した。
「うわっ!」
「レオ!」
レオは足元にあったツルに気付かず、足首を掴まれると腕も掴まれ、全身絡まってしまった。このままでは、身動きが取れずに口まで運ばれてしまう。
彼は手首を回して、右手辺りのツルを剣で切り離すと、口の近くまで運ばれたついでに口を切断した。これで三つ。
花を囲って守るように配置された口を三つ切断したことで、花を切り落とす隙間ができた。ツルはすぐに再生できても、口は元に戻るのに一日はかかってしまう。
レオは花の付け根に剣を回すと、太い茎に力を込めて切り落とした。その瞬間に、ツルは力を無くしてヘナヘナと地に落ちる。残りの二つの口も、だるんと曲がってだんだんと黒くなっていった。
「ふう。危なかった……」
「レオ、大丈夫?」
クラーレが彼に駆け寄ると、体に絡まったツルを解いてくれた。一瞬、食べられるかとひやりとしたが、上手く対処できて良かった。
すると、クラーレが手を出したので、レオは引っ張って立ち上がる。
「ありがとう。セスキは怪我ない?」
「おう! 俺は大丈夫だ」
腕に巻いていた包帯が一部解けていた。包帯の先端がぶらぶら揺れて鬱陶しく、邪魔なので、剣で切って包帯を外した。
◇◆◇◆◇
それからセスキ、クラーレ、もちろんクロロも一緒に四人で、魔獣討伐を続けた。セスキ、クラーレのチームは全員亡くなり、仕方なく一人で耐えていたそうだ。
ギルド長の説明で三人の組に分けられたが、それはもう無理な状況。他のチームと協力して合体しても良いと四人で判断したので、セスキとクラーレも加わる形になった。
そして、アメリアも帰ってきた。話によると、この事態を引き起こしたのは、魔族の可能性が高い。そして、まだまだ魔獣は噴火口にいる。
魔族についても詳細を聞いた。数は一匹で、武器は持っておらず、頂上で空を飛びながら様子を眺めている。
「魔族ってSSランクの魔獣だよね?」
「うん。そうだけど、どうしたの?」
「あ、いや。この状況、魔族の可能性があるから……」
レオは魔獣と戦いながら、皆に一から説明した。信じてもらえるかは分からないが、霊が見えること、アメリアに行かせたこと、そして、魔族がいたことを全て話す。
「ややこしいなぁ。でも、レオが言っていることは信じる」
「けどよ、ガキ。そんでどうするんだ? 俺たちがガキの話信じても、国の兵は聞かねえだろ。隊長に話を通すにも時間がかかる」
クロロの言っていることはもっともだ。しかし、これ以上行動しないのは、住民への被害を増やすだけ。噴火口を爆破させて、魔獣を一気に減らすという方法もあるが、一番危険なのは魔族だ。
魔族をどうにかしなければならないのだが、騎士や兵士に声をかけるにも時間がかかってしまう。それに、魔族がいると言っても当然信じてもらえないはずなので、手の打ちようがないのだ。
誰も山には到底近づけなかった。四千メートルは超える巨大な山で、魔獣が降りてくるからこれ以上進めない。人間が空を飛べるはずがないので、だからこそ魔族はあの山を選んだと思う。
「それなら、行くしかねぇだろ」
セスキが言った。そんな軽いノリでは行ける所でもないし、人数も限られてくるので自分から死に行くもんだ。
「バカなの? 魔族相手に私達がどうやって立ち向かうわけ?」
「クラーレの従魔に乗ろうぜ。人数は限られるけどよ、俺達なかなか強いだろっ」
クラーレがため息をついた。クロロは無言で魔獣を倒している。話は聞いているようだった。
「あのなぁ、ガキ。魔族を舐めてたら死ぬぞ。本気をだしたら国一つ潰せる力だ。SSランクはガキの知っている桁じゃねえ」
クロロがザシュッとバジリクスの首を刎ねた。セスキの方を振り向いて、低い声で珍しく真面目な表情をしている。
「俺はBランク」
セスキが自分の冒険者レベルを言った。すると、他の皆も自分のランクを答え始める。
「私はCランクよ」
「僕はAランク」
「俺もAランクだ。Sランクなんて、一人もいねぇ。SSランクの魔獣には到底及ばない」
クロロが最後に答え、セスキの意見の反対を強めた。皆考えるが、沈黙が続いて誰も案が思いつかない。こうしているうちに、魔獣はどんどん降りてくる。
アメリアがレオの裾をクイクイと引っ張った。
「死ぬようなことはしないで」
悲しげな困惑しきった面持ちで、今にも泣き出しそう。レオはその表情に驚いて、背中をさすってみせた。生者だから触ることができないが、空気を撫でるように形だけでもアメリアを落ち着かせようとする。
「大丈夫。無理はしないよ」
「嘘でしょ。レオはいつも無理してる」
アメリアは涙目な様子で、頬をプクーと膨らませた。眉を引きつらせ、心配で怒っている。
「私は怖いの……。レオがいつも危険な事ばっかりして、死んでしまうんじゃないかって気が気じゃない。私は、死者なんかのために頑張るより、ただ純粋にレオが幸せになって欲しいだけ。
逃げることもできて欲しいの!」
完全に泣かせてしまった。レオがあたふたしていると、周りは意味がわからず、一人で喋っている様子をただ見ている。
「なんかよく分かんねえけど、無理しなきゃ死ぬぞ。大丈夫ってのは心配させたくないから言っている言葉なんかもしれんが、冒険者ってのは死ぬか生きるかだ。逃げたら百パーセント死ぬんだよ。
霊さんよ、レオが死ぬのを見たくなきゃ、無茶をさせろ。生きて帰らせ」
アメリアはそれを聞くと黙ってうつむいた。指先がわなわなと震えている。レオはどうしようと弱りきった表情で、アメリアの顔を見るためにかがんだ。
「死んだら、一生口聞いてやんない。絶対に生きてよ」
レオはうなずくと、「心配させてごめんね」と言いながらアメリアを抱きしめた。触れられないけど、空気を触るような感じだけど、これで少しは落ち着いてほしかった。自分にできることなんて、これくらいしかないから。
言わんこっちゃない。こんな所で喧嘩するからだ……。
レオはゴブリンの顔面を蹴飛ばすと、剣でマンドレイクを刺してマンイーターにぶつけた。ハエトリグサのような見た目に触手のようなツルをうねらせ、ぶつかったマンドレイクを絡ませると口へと運んでいった。
マンイーターはうかつに触ると、ツルを絡めて食べられてしまう。咲いている大きな花を切り落とさなければ、動きを止めることができない。かと言って、無理に近づいて触ってしまうとレオが食料になってしまう。
「セスキ、火魔法使える?」
「一応できるけど、少ししか……」
「ツルを焼き払えるならお願いしたい」
セスキが詠唱を唱えると、火の玉が手のひらから現れた。それをマンイーターに向かって投げつける。サッカーボールほどの大きさの炎を五発ほど当てると、マンイーターの触手は燃え上がった。しかし、花だけは引火することなく、焦げもつかずに美しさを保っていた。
そう、マンイーターの花は火に強いのだ。
すると、焦げ落ちたツルの間から、また新しいツルが生えてきた。炎で燃やしてもすぐに再生し、ツルを減らすことはできなかった。
「こいつ、ツルを燃やしてもまた生えちまう」
「セスキ、剣を持って。一気に二人でツルを切断して、花を切り落とそう」
「わ、わかった」
両サイドから挟み討ちをしてマンイーターのツルを切った。なるべく、長くツルには触れないよう一瞬で済ませる。間から新しく生えてきたツルもすぐに刈り、口になっている所もサッと断ち分けた。口は花を囲うように五つあり、レオはそのうちの二つを切断することに成功した。
「うわっ!」
「レオ!」
レオは足元にあったツルに気付かず、足首を掴まれると腕も掴まれ、全身絡まってしまった。このままでは、身動きが取れずに口まで運ばれてしまう。
彼は手首を回して、右手辺りのツルを剣で切り離すと、口の近くまで運ばれたついでに口を切断した。これで三つ。
花を囲って守るように配置された口を三つ切断したことで、花を切り落とす隙間ができた。ツルはすぐに再生できても、口は元に戻るのに一日はかかってしまう。
レオは花の付け根に剣を回すと、太い茎に力を込めて切り落とした。その瞬間に、ツルは力を無くしてヘナヘナと地に落ちる。残りの二つの口も、だるんと曲がってだんだんと黒くなっていった。
「ふう。危なかった……」
「レオ、大丈夫?」
クラーレが彼に駆け寄ると、体に絡まったツルを解いてくれた。一瞬、食べられるかとひやりとしたが、上手く対処できて良かった。
すると、クラーレが手を出したので、レオは引っ張って立ち上がる。
「ありがとう。セスキは怪我ない?」
「おう! 俺は大丈夫だ」
腕に巻いていた包帯が一部解けていた。包帯の先端がぶらぶら揺れて鬱陶しく、邪魔なので、剣で切って包帯を外した。
◇◆◇◆◇
それからセスキ、クラーレ、もちろんクロロも一緒に四人で、魔獣討伐を続けた。セスキ、クラーレのチームは全員亡くなり、仕方なく一人で耐えていたそうだ。
ギルド長の説明で三人の組に分けられたが、それはもう無理な状況。他のチームと協力して合体しても良いと四人で判断したので、セスキとクラーレも加わる形になった。
そして、アメリアも帰ってきた。話によると、この事態を引き起こしたのは、魔族の可能性が高い。そして、まだまだ魔獣は噴火口にいる。
魔族についても詳細を聞いた。数は一匹で、武器は持っておらず、頂上で空を飛びながら様子を眺めている。
「魔族ってSSランクの魔獣だよね?」
「うん。そうだけど、どうしたの?」
「あ、いや。この状況、魔族の可能性があるから……」
レオは魔獣と戦いながら、皆に一から説明した。信じてもらえるかは分からないが、霊が見えること、アメリアに行かせたこと、そして、魔族がいたことを全て話す。
「ややこしいなぁ。でも、レオが言っていることは信じる」
「けどよ、ガキ。そんでどうするんだ? 俺たちがガキの話信じても、国の兵は聞かねえだろ。隊長に話を通すにも時間がかかる」
クロロの言っていることはもっともだ。しかし、これ以上行動しないのは、住民への被害を増やすだけ。噴火口を爆破させて、魔獣を一気に減らすという方法もあるが、一番危険なのは魔族だ。
魔族をどうにかしなければならないのだが、騎士や兵士に声をかけるにも時間がかかってしまう。それに、魔族がいると言っても当然信じてもらえないはずなので、手の打ちようがないのだ。
誰も山には到底近づけなかった。四千メートルは超える巨大な山で、魔獣が降りてくるからこれ以上進めない。人間が空を飛べるはずがないので、だからこそ魔族はあの山を選んだと思う。
「それなら、行くしかねぇだろ」
セスキが言った。そんな軽いノリでは行ける所でもないし、人数も限られてくるので自分から死に行くもんだ。
「バカなの? 魔族相手に私達がどうやって立ち向かうわけ?」
「クラーレの従魔に乗ろうぜ。人数は限られるけどよ、俺達なかなか強いだろっ」
クラーレがため息をついた。クロロは無言で魔獣を倒している。話は聞いているようだった。
「あのなぁ、ガキ。魔族を舐めてたら死ぬぞ。本気をだしたら国一つ潰せる力だ。SSランクはガキの知っている桁じゃねえ」
クロロがザシュッとバジリクスの首を刎ねた。セスキの方を振り向いて、低い声で珍しく真面目な表情をしている。
「俺はBランク」
セスキが自分の冒険者レベルを言った。すると、他の皆も自分のランクを答え始める。
「私はCランクよ」
「僕はAランク」
「俺もAランクだ。Sランクなんて、一人もいねぇ。SSランクの魔獣には到底及ばない」
クロロが最後に答え、セスキの意見の反対を強めた。皆考えるが、沈黙が続いて誰も案が思いつかない。こうしているうちに、魔獣はどんどん降りてくる。
アメリアがレオの裾をクイクイと引っ張った。
「死ぬようなことはしないで」
悲しげな困惑しきった面持ちで、今にも泣き出しそう。レオはその表情に驚いて、背中をさすってみせた。生者だから触ることができないが、空気を撫でるように形だけでもアメリアを落ち着かせようとする。
「大丈夫。無理はしないよ」
「嘘でしょ。レオはいつも無理してる」
アメリアは涙目な様子で、頬をプクーと膨らませた。眉を引きつらせ、心配で怒っている。
「私は怖いの……。レオがいつも危険な事ばっかりして、死んでしまうんじゃないかって気が気じゃない。私は、死者なんかのために頑張るより、ただ純粋にレオが幸せになって欲しいだけ。
逃げることもできて欲しいの!」
完全に泣かせてしまった。レオがあたふたしていると、周りは意味がわからず、一人で喋っている様子をただ見ている。
「なんかよく分かんねえけど、無理しなきゃ死ぬぞ。大丈夫ってのは心配させたくないから言っている言葉なんかもしれんが、冒険者ってのは死ぬか生きるかだ。逃げたら百パーセント死ぬんだよ。
霊さんよ、レオが死ぬのを見たくなきゃ、無茶をさせろ。生きて帰らせ」
アメリアはそれを聞くと黙ってうつむいた。指先がわなわなと震えている。レオはどうしようと弱りきった表情で、アメリアの顔を見るためにかがんだ。
「死んだら、一生口聞いてやんない。絶対に生きてよ」
レオはうなずくと、「心配させてごめんね」と言いながらアメリアを抱きしめた。触れられないけど、空気を触るような感じだけど、これで少しは落ち着いてほしかった。自分にできることなんて、これくらいしかないから。
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