上 下
29 / 49
魔獣戦争

27話 地獄絵図

しおりを挟む
 もう何だろう、完全にお荷物なんだよな。
 でも、まあ、この二人が生きようが死のうが、俺には関係ないし。俺は俺だけ守ってたらいいか。

 なぜか震えるジジイを先頭に、俺、子供の謎編成で魔獣討伐が開始した。どうせ、ジジイは弱りすぎて、子供も力がねぇだろうから、役に立たねえただのお荷物だ。

「なあ、ジジイは先帰った方がいいんじゃねえの?」

「なななにを……いいっとるるんじゃ!」

 何言ってるのかさっぱりわからん。あまり聞き取りにくいから、しっかりと言ってほしいんだが、無性にイライラしてくる。

「あの、クロロさん。これから大量の魔獣相手に任務をするんですよ? 皆で協力しないと……」

「綺麗事をほざくな。子供には分からんかもしんねぇけど、冒険者ってのは奪い合いだ。利益の奪い合いな。それで足を引っ張るやつがいたら潰す。捨てる」

 レオは黙り込んだ。こいつとは何を話しても無駄だ、という顔でもう諦めている。アメリアもクロロのことを穢けがれたものでも見るような目で眺め、近寄ろうとはしなかった。

 魔物の大量発生でこれから協力するというのが、一生叶わない気がしてきた。大量発生という言葉だけで、どれだけの量の魔物に、どれだけの強さかなんて、全く言われていない。だからこそ、話が曖昧でレオは不安だった。
 クロロに関しても不安だが、トラブルを避けて関われば良い話。

「クロロさん、もうすぐですよ」
 レオが岩で休憩を挟んでいる彼を見て、心配そうに声をかけた。思っていたよりも、クロロは体力が少ないようだ。

「お前らキツくねえのかよ。三時間も坂を登ったんだぞ」
 クロロが岩に座り、水を飲みながら二人に言った。しかし、レオもオルトもケロッとした様子で、「別に?」と答える。

「僕は一時期森で暮らしていましたから、これくらい慣れているんで……」

「わわわしも、早くはああ歩けんけど……そんなつつつ疲れはせんよ」
 プルプル震えているジジイに言われても、そんなに説得力がない。ただの年寄りの意地にしか見えねぇっつうの。しかも、だんだん慣れてきたとはいえ、ジジイの喋り方はイライラしかしねえ。

 ◇◆◇◆◇

 三人は、三時間程かけて指定された地点に着いた。クロロがちょこちょこ問題発言をしてきたが、特に大したトラブルは起きずにすんでいる。

 冒険者達は、五つの地点に分かれて魔物の討伐を任された。発生源とされているところから、包囲するようなイメージでレオ達はB地点に来ている。
 見ると、もう既に他の冒険者もいた。そして、本当にたくさんの魔獣が暴れ回っている。スライムやゴブリンなどの弱小モンスターから、ケルベロス、オーガ、ミノタウロス、空にはガーゴイルやワイバーンも飛んでいた。

「マジかよ。なんで……こんなに魔獣が……」
 クロロが一歩後退りながら呟いた。レオもその隣で、難しく眉を顰めた。鼓動が早くなる。色々とテンパってしまった。
 今、レオ達の目の前にいる魔獣は、数十匹という数を軽く超えている。数百という数の群れだ。こんな規模の群れには、しっかりと対策を練った熟練の騎士や兵士でなければ難しい。
 おそらく、冒険者達の派遣は、作戦を練る国の兵士のための時間稼ぎにすぎないだろう。

 こんなに大量で、様々な種類の魔獣を一斉いっせいに見るのは、何かあるとしか思えない。大それた異常現象に、恐怖さえ感じた。

 木々は折れて荒地となり、所々に火が高く燃え上がっていた。ワイバーンを中心に他の魔獣も火を吹き、冒険者は命がけで魔獣と格闘している。もう、すでにボロボロの状態で、これは地獄絵図と喩えていいほどだった。
 被害を受けた村なんて、もう原型をとどめていないんじゃないかと思ってしまう。冒険者の人数も全然足りてない。

「クロロさん、綺麗事を否定できる余裕はありますか?
 これは、協力すべきだと思うんですが……」

「……」

 彼は無言で頷いた。レオはそれを見ると、腰から剣を抜いて戦闘に意識を切り替える。クロロも背中から大剣を出した。オルトは杖をついたままだった。

「どうする? ガキ」

「まずは、目の前にいる簡単な魔物を倒しましょう。そして、厄介な魔獣はクロロさんが正面から、オルトさんが横から魔法を、僕は背後から急所を狙います」

 特に異論もなく、三人はそれで実行することにした。レオは近くにいたケルベロスに向かい、クロロはケンタウロスに大剣を振る。オルトはスライムと一緒にプルプルしていた。

「こんな量、無限に湧き出て一生終わらねえ気がすんだが」

「でも、今は目の前にいる魔獣を倒すしかないですよ……。あっ、クロロさん、後ろ!」

 ケンタウロスに苦戦している彼を、背後からガーゴイルが襲った。クロロはすぐに大剣を振り回して追い払ったが、挟み討ちされてはなかなか上手くいかない。鬱陶しいガーゴイルのせいで、ケンタウロスに集中して戦うことができなかった。

「おい、ジジイ! お前これでも冒険者かよ。ちゃんと戦えや!」

 喋っている余裕なんてないはずなのに、クロロはオルトに向かって叫び出した。イライラが爆発して、彼にぶつけている。オルトもオルトでのんびりしていた。

「わわしは、よぼよぼのろろろ老人……じゃ。だだから、ギリギリまで……ほほほ本気を出さん」

「は? 何言ってるか意味わかんねえ。さっさと討伐しろっ」

 この状況になっても喧嘩をしている。すると、オルトが腰を伸ばして「仕方ない」と言いながら、杖をぶんぶん振り回した。

「おりゃー!」

 大きな声を上げながら、杖でスライムを叩いている。ベチベチスライムを殴りながら、十回くらい振り回してやっと一匹やっつけた。

「それ魔法の杖じゃねえのかよ! ジジイふざけんな!」

 レオもチラッとオルトの方を見ると、その光景に「マジか……」とつい呟いてしまった。なんとも言えない気持ちに、心配が倍増する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

前世は最悪だったのに神の世界に行ったら神々全員&転生先の家族から溺愛されて幸せ!?しかも最強➕契約した者、創られた者は過保護すぎ!他者も!?

a.m.
ファンタジー
主人公柳沢 尊(やなぎさわ たける)は最悪な人生だった・・耐えられず心が壊れ自殺してしまう。 気が付くと神の世界にいた。 そして目の前には、多数の神々いて「柳沢尊よ、幸せに出来なくてすまなかった転生の前に前の人生で壊れてしまった心を一緒に治そう」 そうして神々たちとの生活が始まるのだった... もちろん転生もします 神の逆鱗は、尊を傷つけること。 神「我々の子、愛し子を傷つける者は何であろうと容赦しない!」 神々&転生先の家族から溺愛! 成長速度は遅いです。 じっくり成長させようと思います。 一年一年丁寧に書いていきます。 二年後等とはしません。 今のところ。 前世で味わえなかった幸せを! 家族との思い出を大切に。 現在転生後···· 0歳  1章物語の要点······神々との出会い  1章②物語の要点······家族&神々の愛情 現在1章③物語の要点······? 想像力が9/25日から爆発しまして増えたための変えました。 学校編&冒険編はもう少し進んでから ―――編、―――編―――編まだまだ色んなのを書く予定―――は秘密    処女作なのでお手柔らかにお願いします。文章を書くのが下手なので誤字脱字や比例していたらコメントに書いていただけたらすぐに直しますのでお願いします。(背景などの細かいところはまだ全く書けないのですいません。)主人公以外の目線は、お気に入り100になり次第別に書きますのでそちらの方もよろしくお願いします。(詳細は200) 感想お願いいたします。 ❕只今話を繋げ中なためしおりの方は注意❕ 目線、詳細は本編の間に入れました 2020年9月毎日投稿予定(何もなければ)  頑張ります (心の中で読んでくださる皆さんに物語の何か案があれば教えてほしい~~🙏)と思ってしまいました。人物、魔物、物語の流れなど何でも、皆さんの理想に追いつくために! 旧 転生したら最強だったし幸せだった

処理中です...