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研究所
12話 決意
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アメリアは川で愉快にはしゃいだ。水は物だから掬おうと思ったらできるし、水飛沫を上げずにすり抜くこともできる。だから、バレずに魚に近づくこともできた。口をあんぐり開けた面白い顔で、つい笑みが顔に出てしまう。
それとは裏腹に、水を触った感触がしなかったのが、物寂しさを感じた。水以外もだが、草が揺れているのを見ても風は感じないし、水のにおいも分からなかった。
音と目しか、感じることができない。
寂しい? 悲しい? 死にたくなかった?
そういうわけではない。でも、レオ以外には誰にも見えないんだ。ある意味、最強な存在だね。
彼がいる限り、孤独だって感じない。幽霊だから空も飛べる。今を大いに楽しもうじゃないか。成仏してたら、こんな体験絶対にできなかったもんね。
◇◆◇◆◇
「捕まえた! うおっ!」
バシャっと魚を捕まえると、レオは水から離した。両手で抑えるが、おびれを左右に揺らして思わず落としそうになる。
意気が良く、とてもとはいかないが大きい。焼いて食べれそうだと思ったので、レオは火を起こそうとした。
火の起こし方は簡単だ。まず、乾燥した枯葉と小枝をたくさん用意して、隙間が適度にできるように少し積み上げる。
火を起こす条件は、点火源、可燃物、酸素供給源の三つだ。可燃物は小枝、酸素も隙間を作ったので確保できている。あとは、最も重要な着火のきっかけだ。
火魔法を使いたい所だが、魔法の発動の仕方が分からないので無理。魔力はあっても発動できないのは、少々不便だとこういう時に思う。
でも、科学好きを舐めてもらったら困るな。こっちは、家にも学校にも行きたくなくて、図書館に引きこもって科学の本を読んでいたんだ。
そこで、こいつが役に立つ!
レオは、ちょうど良さそうな形と大きさの石を手に取った。その石は灰白色で、ガラスのような光沢が粒々で見える。石英は硬度が高く、火打ち石として使いやすい。
ポイントは、石の角を削るように強く叩く。打ちすぎると火花は飛ばず、ただ石が崩れてしまうこともある。
鉄にしろ、一部の金属は酸化しやすい。よく錆びるから分かるね。でも、塊の状態では熱伝導が低いので、燃焼するほど高温を保てない。
ところが、中学のスチールウールの実験のように、空気と触れる表面積を広くすれば、燃えることができちゃうのだ。
石を打つのは、細かな粉となった物質が高温のため、燃焼しちゃう現象。金属に力を加えて熱を与えるとともに、細かくすることで燃焼する状況を作り出し、この燃えている細かい金属が火花になる。
と、まあ、そんなこんなで、簡単にできるのだ。木を擦る方法もあるが、マッチョほどの力が無ければ難しい。
パキパキと音を立てて、炎が揺らめいた。
「わあ、いい匂いだ」
魚の美味しいそうなにおいが、胃を刺激した。早く食べたいと思いつつも、まだ我慢だと自分を落ち着かせる。まともな食事が摂れるなんて、いつぶりだろうか。
研究者のスープよりは、断然良い。
熱々の魚を頬張りながら、彼はアメリアの方を見た。ゆらゆらと燃える炎を見つめながら、ボーッとしている。
今なら、僕はアメリアとちゃんと話せそうな気がする。タイミングが分からなくて、ずっと先延ばししていたけど、例のあの話をきちんとしたい。
「ねえ、アメリア」
「うん?」
火から視線をレオに向けると、彼女は目を細めて笑った。なになに?、と首を傾げながら微笑んでいる。
その笑顔を見ると、伝えるのを躊躇いそうになった。場の空気を悪くしそうで、自分でもあまり言いたくなかったからだ。でも、先延ばしすると永遠に言わなくなりそうで、思い切って正直に話そうと思った。
「ずっと考えていたんだ。生き返らせたら、どれだけいいことかって……。
僕は、アメリアを守ることが……できなかったから」
「レオ! 別に私のことは気にしなくていいよ」
アメリアは、どう言う内容か理解すると、話の途中からすぐに突っ込んだ。自分が亡くなったことを気に留めているのが、負担をかけてしまっているのではないか、と思ったからだ。
実際に死んだのは悲しいし、生き返りたいとは思うが、それを人に任すのは気が重い。
「私は、別に死んだことを悔いていない。むしろ、レオと脱走できて良かったと思ったよ。だって、世界はこんなにも広くて、楽しさとハプニングで溢れているんだもん。
それを知れたのは、レオのおかげだから。私のためで言っていると思うけど、そのせいでレオが苦しんだら私は嫌だ……」
レオは首を横に振った。
「苦しいとは思わないよ。僕はアメリアと一緒にいたかった。同じように、体験してもらいたかった。
それでね、考えたんだ。でも、まだ未熟で弱い僕には答えが分からない。ただ単に生き返らせたい、とそれしかなかった。
僕にはアメリアが、かけがえのない存在で……純粋に、好きなんだ……」
涙が溢れる。勢いで、直球に好きと言ってしまい、恥ずかしさで顔が火照た。涙と鼻水で、顔がぐしゃぐしゃになるのがかっこ悪いと思った。
いつのまにか、焚き火の炎は弱まっていた。木が黒く赤くなっていて、火は少しだけになっている。
「だから、冒険者になって、その方法を探しながら……旅をしたいって思ったんだ。この世界だからこそ、方法はあると思う……」
僕の知っている世界よりも、もう何でもありな感じが唯一の光だった。死をも超えることができるだろうか。
いや、できるはずだ。絶対に探すまで諦めない。
それとは裏腹に、水を触った感触がしなかったのが、物寂しさを感じた。水以外もだが、草が揺れているのを見ても風は感じないし、水のにおいも分からなかった。
音と目しか、感じることができない。
寂しい? 悲しい? 死にたくなかった?
そういうわけではない。でも、レオ以外には誰にも見えないんだ。ある意味、最強な存在だね。
彼がいる限り、孤独だって感じない。幽霊だから空も飛べる。今を大いに楽しもうじゃないか。成仏してたら、こんな体験絶対にできなかったもんね。
◇◆◇◆◇
「捕まえた! うおっ!」
バシャっと魚を捕まえると、レオは水から離した。両手で抑えるが、おびれを左右に揺らして思わず落としそうになる。
意気が良く、とてもとはいかないが大きい。焼いて食べれそうだと思ったので、レオは火を起こそうとした。
火の起こし方は簡単だ。まず、乾燥した枯葉と小枝をたくさん用意して、隙間が適度にできるように少し積み上げる。
火を起こす条件は、点火源、可燃物、酸素供給源の三つだ。可燃物は小枝、酸素も隙間を作ったので確保できている。あとは、最も重要な着火のきっかけだ。
火魔法を使いたい所だが、魔法の発動の仕方が分からないので無理。魔力はあっても発動できないのは、少々不便だとこういう時に思う。
でも、科学好きを舐めてもらったら困るな。こっちは、家にも学校にも行きたくなくて、図書館に引きこもって科学の本を読んでいたんだ。
そこで、こいつが役に立つ!
レオは、ちょうど良さそうな形と大きさの石を手に取った。その石は灰白色で、ガラスのような光沢が粒々で見える。石英は硬度が高く、火打ち石として使いやすい。
ポイントは、石の角を削るように強く叩く。打ちすぎると火花は飛ばず、ただ石が崩れてしまうこともある。
鉄にしろ、一部の金属は酸化しやすい。よく錆びるから分かるね。でも、塊の状態では熱伝導が低いので、燃焼するほど高温を保てない。
ところが、中学のスチールウールの実験のように、空気と触れる表面積を広くすれば、燃えることができちゃうのだ。
石を打つのは、細かな粉となった物質が高温のため、燃焼しちゃう現象。金属に力を加えて熱を与えるとともに、細かくすることで燃焼する状況を作り出し、この燃えている細かい金属が火花になる。
と、まあ、そんなこんなで、簡単にできるのだ。木を擦る方法もあるが、マッチョほどの力が無ければ難しい。
パキパキと音を立てて、炎が揺らめいた。
「わあ、いい匂いだ」
魚の美味しいそうなにおいが、胃を刺激した。早く食べたいと思いつつも、まだ我慢だと自分を落ち着かせる。まともな食事が摂れるなんて、いつぶりだろうか。
研究者のスープよりは、断然良い。
熱々の魚を頬張りながら、彼はアメリアの方を見た。ゆらゆらと燃える炎を見つめながら、ボーッとしている。
今なら、僕はアメリアとちゃんと話せそうな気がする。タイミングが分からなくて、ずっと先延ばししていたけど、例のあの話をきちんとしたい。
「ねえ、アメリア」
「うん?」
火から視線をレオに向けると、彼女は目を細めて笑った。なになに?、と首を傾げながら微笑んでいる。
その笑顔を見ると、伝えるのを躊躇いそうになった。場の空気を悪くしそうで、自分でもあまり言いたくなかったからだ。でも、先延ばしすると永遠に言わなくなりそうで、思い切って正直に話そうと思った。
「ずっと考えていたんだ。生き返らせたら、どれだけいいことかって……。
僕は、アメリアを守ることが……できなかったから」
「レオ! 別に私のことは気にしなくていいよ」
アメリアは、どう言う内容か理解すると、話の途中からすぐに突っ込んだ。自分が亡くなったことを気に留めているのが、負担をかけてしまっているのではないか、と思ったからだ。
実際に死んだのは悲しいし、生き返りたいとは思うが、それを人に任すのは気が重い。
「私は、別に死んだことを悔いていない。むしろ、レオと脱走できて良かったと思ったよ。だって、世界はこんなにも広くて、楽しさとハプニングで溢れているんだもん。
それを知れたのは、レオのおかげだから。私のためで言っていると思うけど、そのせいでレオが苦しんだら私は嫌だ……」
レオは首を横に振った。
「苦しいとは思わないよ。僕はアメリアと一緒にいたかった。同じように、体験してもらいたかった。
それでね、考えたんだ。でも、まだ未熟で弱い僕には答えが分からない。ただ単に生き返らせたい、とそれしかなかった。
僕にはアメリアが、かけがえのない存在で……純粋に、好きなんだ……」
涙が溢れる。勢いで、直球に好きと言ってしまい、恥ずかしさで顔が火照た。涙と鼻水で、顔がぐしゃぐしゃになるのがかっこ悪いと思った。
いつのまにか、焚き火の炎は弱まっていた。木が黒く赤くなっていて、火は少しだけになっている。
「だから、冒険者になって、その方法を探しながら……旅をしたいって思ったんだ。この世界だからこそ、方法はあると思う……」
僕の知っている世界よりも、もう何でもありな感じが唯一の光だった。死をも超えることができるだろうか。
いや、できるはずだ。絶対に探すまで諦めない。
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