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第三章 アラシノナカ
寒気
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倉庫にいる者が驚いていた。喋っている加羅と、言葉を受けている平川以外は。
「アキラさん?遺体は移動させたんじゃないんですか?亡くなる前に全ての犯行を行ったのですか?不可能です」
刀利は反論した。まだ頭が加羅の推理についていっていない。
「アキラさんは死んだように見せかけられただけだ。アキラさんが倒れているのが発見されるのが、俺たちを騙すのが目的だったんだ。不可能を消去していけば、最後に可能性だけが残る。アキラさんの遺体が無くなった事件で犯人たちは隙を突かれた。アキラさんが死んでいたと仮定しよう。唯一の出口は廊下へと続く扉だ。そして応接室を通らなければならない。それを発見されれば、当然怪しまれる。犯人としては取りたくない行動だろう。遺体を背負っている姿を発見されればただでは済まない。応接室という空間が、あそこから遺体を消すのを不可能にしている。。だが、思い出してほしい。管制室から応接室へ出るタイミングが一度だけあった。館の人間が全員同じ場所に集まっている時間が」
「四方木さんが自白した時ですね?」
「そう。全員が集まっていた。あの時だけ応接室には誰もいなかった。しかし逆に、同じ場所に全員が集まっているのだから誰も遺体を運び出せないはずだ。選択肢は一つしかない。アキラさんが自分の足で立って管制室から平然と出ていった。それで終わり。いや、始まりか」
加羅は淡々と語る。胸の内では若干の心配が燻っていたが。
「理解しました。しかし、アキラさんは管制室で殺されていたはずです。それは、私達が確認したことじゃないですか?確かに死んでいたはずです」
刀利は腑に落ちた表情と共に、最もな疑問を述べた。
「死体を確かめたのは誰だった?平川と四方木さんだ。その二人以外、誰もアキラさんの死を確認していない。それに四方木さんの供述は不可解だった。背もたれのある椅子に座っているアキラさんを後ろから刺し殺すことは出来ない。俺たちは思い込んでいただけ。平川と四方木さんがアキラさんの死を偽造した。倒れている人物を見れば誰でも動揺する。先に知っていた平川は真っ先にアキラさんの死体、いや、アキラさんに向かっていって生死を確かめるフリをした」
「平川さんがそんなことをするとは、どうしても思えません」
刀利は小さな声でいった。平川の方を見る。平川はどこか遠くを見るような目をしている。
「そう。俺もそう思った。しかし、推理するうちにどうしてもその壁にぶち当たった。全ての事象が平川が共犯者であることを示していた。信じたくはない。平川、認めるか?この悪天候が終われば助けが来る。調査も始まる。犯人が暴かれるのは時間の問題だ。お前が一番よくわかっているはずだ、平川。警察は甘くない」
加羅は平川に煙草を差し出した。平川がそれを受け取り口に加えた。加羅が火をつけてやった。煙草を吸い、煙を吐き出す平川。
「認めるよ。アキラさんの死を偽造した」
「どうしてなんですか!?なんのために!?」
刀利は信じられないと言うかのように叫んだ。
「事件を起こす必要があったから。つまり、注目を集めたかった」
平川は遠くを見るような目で煙草を吸っている。
「事件が起きれば警察が来る、当然ニュースになる、そういうことか?」
加羅は友人との別れを感じつつもいった。
「そう。北央七瀬の事件を解決する必要が、どうしてもあったんだ。警察の調べでは、事件性が無いと判断された。だが、僕にはそれがどうしても認められなかった。北央七瀬の、僕の最愛の彼女の死が事故だと判断されるのが許せなかった。しかし、死体を偽造したことで問題が発生してしまった。最初は、死体を偽造して、それで終わりのはずだった。しかし連続殺人が起こってしまった。僕は殺人者も同然だ」
「お前は北央七瀬と交際していて、連続殺人は犯人の暴走ということか?」
「そう。七瀬は優しい子だった」
「そうか……。四方木さんの自供は正しいのか?」
「正しくない。四方木さんは僕に協力してくれただけだ。アキラさんが七瀬を殺したというのは正しくない。正しいのは、七瀬は確かに秋野さんの姉だったということ。神楽七瀬。それで間違いない。島で妹の秋野さんと暮らそうとしたというのは間違いじゃない。しかし七瀬は殺されてしまった」
平川は煙を吐き出した。不幸を噛み締めながら。
「四方木さんが殺されたのも、七雄さんが殺されたのも、道間夫人が殺されたのも、お前は関わっていないんだな?」
加羅は少し違和感を覚えていた。
「ああ。僕も戸惑った。アキラさんが暴走するとは思わなかったんだ」
うなだれる平川。
「犯行の計画を知っていたのは誰だ?」
「僕と、四方木さんと七雄さん。そしてアキラさんだ」
「アキラさんの死体を偽造して、殺人事件に見せかけて警察に調査してもらうという方向性だったんだな?」
「そうだ」
「殺すつもりはなかったということは……アキラさんの暴走とも取れるが、いや、それでも……」
加羅の頭の中はぐるぐると回っていた。平川の言葉を信じるならば何かおかしい。死体を偽造してアイドルの死亡事件を掘り下げる。殺人をする必要はない。
アキラは確かに館内を自由に歩き回れるし、見られてはいけないというリスクはあるが、人を殺すだろうか?いや、マスターキーを持っていたのだ。いつだって、自由に……。マスターキー。そこで加羅は気がついた。寒気を覚えた。
「アキラさん?遺体は移動させたんじゃないんですか?亡くなる前に全ての犯行を行ったのですか?不可能です」
刀利は反論した。まだ頭が加羅の推理についていっていない。
「アキラさんは死んだように見せかけられただけだ。アキラさんが倒れているのが発見されるのが、俺たちを騙すのが目的だったんだ。不可能を消去していけば、最後に可能性だけが残る。アキラさんの遺体が無くなった事件で犯人たちは隙を突かれた。アキラさんが死んでいたと仮定しよう。唯一の出口は廊下へと続く扉だ。そして応接室を通らなければならない。それを発見されれば、当然怪しまれる。犯人としては取りたくない行動だろう。遺体を背負っている姿を発見されればただでは済まない。応接室という空間が、あそこから遺体を消すのを不可能にしている。。だが、思い出してほしい。管制室から応接室へ出るタイミングが一度だけあった。館の人間が全員同じ場所に集まっている時間が」
「四方木さんが自白した時ですね?」
「そう。全員が集まっていた。あの時だけ応接室には誰もいなかった。しかし逆に、同じ場所に全員が集まっているのだから誰も遺体を運び出せないはずだ。選択肢は一つしかない。アキラさんが自分の足で立って管制室から平然と出ていった。それで終わり。いや、始まりか」
加羅は淡々と語る。胸の内では若干の心配が燻っていたが。
「理解しました。しかし、アキラさんは管制室で殺されていたはずです。それは、私達が確認したことじゃないですか?確かに死んでいたはずです」
刀利は腑に落ちた表情と共に、最もな疑問を述べた。
「死体を確かめたのは誰だった?平川と四方木さんだ。その二人以外、誰もアキラさんの死を確認していない。それに四方木さんの供述は不可解だった。背もたれのある椅子に座っているアキラさんを後ろから刺し殺すことは出来ない。俺たちは思い込んでいただけ。平川と四方木さんがアキラさんの死を偽造した。倒れている人物を見れば誰でも動揺する。先に知っていた平川は真っ先にアキラさんの死体、いや、アキラさんに向かっていって生死を確かめるフリをした」
「平川さんがそんなことをするとは、どうしても思えません」
刀利は小さな声でいった。平川の方を見る。平川はどこか遠くを見るような目をしている。
「そう。俺もそう思った。しかし、推理するうちにどうしてもその壁にぶち当たった。全ての事象が平川が共犯者であることを示していた。信じたくはない。平川、認めるか?この悪天候が終われば助けが来る。調査も始まる。犯人が暴かれるのは時間の問題だ。お前が一番よくわかっているはずだ、平川。警察は甘くない」
加羅は平川に煙草を差し出した。平川がそれを受け取り口に加えた。加羅が火をつけてやった。煙草を吸い、煙を吐き出す平川。
「認めるよ。アキラさんの死を偽造した」
「どうしてなんですか!?なんのために!?」
刀利は信じられないと言うかのように叫んだ。
「事件を起こす必要があったから。つまり、注目を集めたかった」
平川は遠くを見るような目で煙草を吸っている。
「事件が起きれば警察が来る、当然ニュースになる、そういうことか?」
加羅は友人との別れを感じつつもいった。
「そう。北央七瀬の事件を解決する必要が、どうしてもあったんだ。警察の調べでは、事件性が無いと判断された。だが、僕にはそれがどうしても認められなかった。北央七瀬の、僕の最愛の彼女の死が事故だと判断されるのが許せなかった。しかし、死体を偽造したことで問題が発生してしまった。最初は、死体を偽造して、それで終わりのはずだった。しかし連続殺人が起こってしまった。僕は殺人者も同然だ」
「お前は北央七瀬と交際していて、連続殺人は犯人の暴走ということか?」
「そう。七瀬は優しい子だった」
「そうか……。四方木さんの自供は正しいのか?」
「正しくない。四方木さんは僕に協力してくれただけだ。アキラさんが七瀬を殺したというのは正しくない。正しいのは、七瀬は確かに秋野さんの姉だったということ。神楽七瀬。それで間違いない。島で妹の秋野さんと暮らそうとしたというのは間違いじゃない。しかし七瀬は殺されてしまった」
平川は煙を吐き出した。不幸を噛み締めながら。
「四方木さんが殺されたのも、七雄さんが殺されたのも、道間夫人が殺されたのも、お前は関わっていないんだな?」
加羅は少し違和感を覚えていた。
「ああ。僕も戸惑った。アキラさんが暴走するとは思わなかったんだ」
うなだれる平川。
「犯行の計画を知っていたのは誰だ?」
「僕と、四方木さんと七雄さん。そしてアキラさんだ」
「アキラさんの死体を偽造して、殺人事件に見せかけて警察に調査してもらうという方向性だったんだな?」
「そうだ」
「殺すつもりはなかったということは……アキラさんの暴走とも取れるが、いや、それでも……」
加羅の頭の中はぐるぐると回っていた。平川の言葉を信じるならば何かおかしい。死体を偽造してアイドルの死亡事件を掘り下げる。殺人をする必要はない。
アキラは確かに館内を自由に歩き回れるし、見られてはいけないというリスクはあるが、人を殺すだろうか?いや、マスターキーを持っていたのだ。いつだって、自由に……。マスターキー。そこで加羅は気がついた。寒気を覚えた。
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