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第三章 アラシノナカ
全員揃うのは不可能ではありませんこと?
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「わっ」
刀利が後ずさる。加羅は咄嗟に刀利を庇おうと前に出た。手を刀利の前に出した。血まみれの女は動かない。苦痛の表情を浮かべて仰向けに転がっている。
「刀利、後ろに下がるんだ。犯人が近くにいるかもしれない」
加羅は努めて冷静に振る舞った。内心は動揺していたが、刀利を守らなければならない。
「なんなんですか?」
刀利は涙目になっている。加羅の手を握っている。
「調査して前に進もうとすれば、すぐに次の事件が起こるな」
加羅は廊下の先を見た。カーブして入り口付近まで近づいている廊下。死体以外の人影は見えない。
死者が誰なのかを確かめようとした加羅。死体に近づいていく。
「加羅さん、戻ってきて」
刀利は恐怖で動けない。
「刀利はそこを動くな」
加羅が死体の様子を確かめた。苦しそうに死んでいる顔に見覚えがある。道間夫人だ。傷口が腹と肩にあった。腹にはナイフが刺さっていた。それを確認した後、刀利のもとに戻った。
「加羅さん、怖い」
「大丈夫だ。俺が守る。死んでいたのは道間夫人だ。もう一回遊戯室に戻って、そこから応接室へ行きみんなと合流しよう。この廊下を進むのは危険だ」
「はい」
刀利は震えている。
二人は死体を背にして遊戯室に戻った。遊戯室には誰もいない。早足で遊戯室を駆け抜け、応接室への扉を開いた。
急いで応接室へと帰ってきた、いや、逃げ込んできた加羅達。
遊戯室で加羅と刀利が推理をしていた時間のせいか、既に人が応接室に集まっている。時間が経過していたらしい。
平川、秋野、白井、権田、滝瀬、道間。平川は寝室から皆を見つけるのに成功したらしい。 その六人の所に加羅と刀利は小走りで向かった。
「加羅、何か収穫はあったか?こちらは寝室から人を呼んだんだが、道間夫人だけがいないんだ」
平川が尋ねた。煙草は吸っていないようだ。
加羅はちらりと道間の方を見た。話すかどうか迷った。しかしいつかは言わなければならない。加羅は話すことに決めた。
「道間夫人が、遊戯室から入り口まで向かう廊下で殺されていた」
「え?」
道間が気の抜けた声を出した。
「バカな。妻が死ぬはずがない」
「残酷ですが、ナイフで刺されていました。もう息がなかった。助かりませんでした。なんといってよいのか……」
「そんなはずはない!」
道間は遊戯室に向けて走り出そうとした。それを平川が肩を掴んで止めた。
「道間さん、少し我慢してください。加羅の話が本当なら、新たな犠牲者を出すわけにはいきません。そうだよな、加羅?」
「その通りだ。まずは情報の共有」
加羅は頷いた。
「しかし、しかしだ!そんなことは信じられない!」
道間はあくまでも遊戯室に向かおうとしている。
「賢いあなたならわかるはずです、道間さん。今動くのは危険だと」
加羅が柔らかい口調で話した。落ち着かせなければならない。
凍ったような表情の秋野がゆっくりと口を開いた。
「誰がやったのかを調べなくてはいけないわけですね?そして、そのためには、いつやったのかを調べなくてはいけないわけですね?廊下で亡くなっていたということは、殺人現場に犯人が向かったことは事実であると考えます。人を殺すには誰にも見られてはいけない。一人一人のアリバイを証明していって、そこから推理するしかないわけですよね?容疑者は少ないですしね。館の中の誰か。そして、七雄さんを殺したのと同一人物なのか」
秋野が小さめの声でいった。
「誰が、いつ、も重要ですが何故かも重要です。七雄さんに毒を盛ったというのは計画的犯行のように思えます。しかし、道間夫人は……道間さんの前なので言葉は選びましたが、突発的犯行だったのではないでしょうか。殺す場所も、廊下とはなかなか奇妙です。見られたくない何かを道間夫人に発見されてしまったのかもしれません」
加羅は辺りを見回した。
「第一の事件は四方木さんが犯人でした。なので、次の事件を考えてみましょう。色々とあったんですが……七雄さんが毒を盛られた事件です。七雄さんの部屋には食べかけのサンドイッチとソーダがあった。これは間違いなく事実です。問題はその中に毒が仕込まれていたのかどうか」
「毒など入っているわけがない!そんな隙はなかったはずです」
権田が抗議した。
「しかしまあ、怪しいというのはわかります。厨房には権田さんと俺しかいなかったんだから」
滝瀬の方は素直に認めた。客観的に怪しいのは明らかだ。
「でも俺達がやったんじゃないっていう証明は出来ますよ」
肩を竦める滝瀬。
「どうやって?」
刀利は驚いた。そんな方法があるのだろうか。
「俺があの残りのサンドイッチとソーダを食べてしまうこと。権田さんは毒なんて絶対盛らないしね。安心して食べれますよ」
「滝瀬……信頼してくれるのか」
権田も驚いている。
「まあ、権田さんは小心者ですしね。殺人なんて出来っこないですよ」
滝瀬は笑った。照れ隠しだろうか。
「お話はわかりました。しかし滝瀬さん、間違ってもサンドイッチとソーダを腹に入れないでください。万が一ですが死んでしまう可能性がある」
加羅は考えながら喋った。ここまで言い切られると、食事に毒が入っていたとは思えない。
「でも、食べないと信じてもらえないんでしょ?」
「いえ、覚悟は伝わりました。食事に毒は入っていない方向で考えましょう。食事に毒が盛られたのでなければ、可能性は一つです。直接、毒の入った薬のようなものを飲まされた。この場合、渡すときは明らかに怪しい。七雄さんが信頼していた人物の可能性が高いです」
「信頼している人物でも、例えば錠剤のようなもの……そんな謎の物体を飲んでくださいと言われて、素直に飲むでしょうか?」
刀利が首を傾げた。
「錠剤である必要はない。例えばチョコレートでもいい。軽く口に入るものならたやすく飲ませられる」
「なるほど。容疑者は、加羅さん、私、平川さん、秋野さん、白井さん、道間さん、六人ですね。かなり絞られている気がします」
「容疑者の数が足りない」
「え、またですか?」
「権田さんと滝瀬さんが入っていない」
「二人は無罪の方向で考えるんじゃ?」
「食事に毒が入ってなかったからといって、毒を直接渡していないとは限らない。食事に加えてなにか食べさせた可能性はある」
「なるほど。安全圏に見せかけて殺したってことね」
滝瀬は顎に手を当てている。派手な金髪に似合わず考え込んでいる。納得しているようにも見える。
「加羅さん、どうすればいいのですか?」
道間がそわそわとしている。徐々に現状を飲み込み、指針を求めている。
「奥さんの死体は見ないほうが良いです。残酷です。もう寝室は安全とは言い切れません。徹夜してでも全員でこの応接室にいるべきだと思います」
「加羅さんの言う通りだと思います。刑事さんだっていますしね。全員で集まっている限り、これ以上の犠牲者は出ないはずです。全員で揃えば……」
秋野の発言は歯切れが悪かった。
「秋野さん、何かあるのですか?」
加羅はニコチンの不足している状態で、秋野に尋ねた。
「あ、ええ……全員と言いましたけど、全員揃うのは不可能ではないかと思いました」
「何故?」
「四方木は部屋から出れません。だから全員揃うのは不可能です」
その一言で辺りは静寂に包まれた。
刀利が後ずさる。加羅は咄嗟に刀利を庇おうと前に出た。手を刀利の前に出した。血まみれの女は動かない。苦痛の表情を浮かべて仰向けに転がっている。
「刀利、後ろに下がるんだ。犯人が近くにいるかもしれない」
加羅は努めて冷静に振る舞った。内心は動揺していたが、刀利を守らなければならない。
「なんなんですか?」
刀利は涙目になっている。加羅の手を握っている。
「調査して前に進もうとすれば、すぐに次の事件が起こるな」
加羅は廊下の先を見た。カーブして入り口付近まで近づいている廊下。死体以外の人影は見えない。
死者が誰なのかを確かめようとした加羅。死体に近づいていく。
「加羅さん、戻ってきて」
刀利は恐怖で動けない。
「刀利はそこを動くな」
加羅が死体の様子を確かめた。苦しそうに死んでいる顔に見覚えがある。道間夫人だ。傷口が腹と肩にあった。腹にはナイフが刺さっていた。それを確認した後、刀利のもとに戻った。
「加羅さん、怖い」
「大丈夫だ。俺が守る。死んでいたのは道間夫人だ。もう一回遊戯室に戻って、そこから応接室へ行きみんなと合流しよう。この廊下を進むのは危険だ」
「はい」
刀利は震えている。
二人は死体を背にして遊戯室に戻った。遊戯室には誰もいない。早足で遊戯室を駆け抜け、応接室への扉を開いた。
急いで応接室へと帰ってきた、いや、逃げ込んできた加羅達。
遊戯室で加羅と刀利が推理をしていた時間のせいか、既に人が応接室に集まっている。時間が経過していたらしい。
平川、秋野、白井、権田、滝瀬、道間。平川は寝室から皆を見つけるのに成功したらしい。 その六人の所に加羅と刀利は小走りで向かった。
「加羅、何か収穫はあったか?こちらは寝室から人を呼んだんだが、道間夫人だけがいないんだ」
平川が尋ねた。煙草は吸っていないようだ。
加羅はちらりと道間の方を見た。話すかどうか迷った。しかしいつかは言わなければならない。加羅は話すことに決めた。
「道間夫人が、遊戯室から入り口まで向かう廊下で殺されていた」
「え?」
道間が気の抜けた声を出した。
「バカな。妻が死ぬはずがない」
「残酷ですが、ナイフで刺されていました。もう息がなかった。助かりませんでした。なんといってよいのか……」
「そんなはずはない!」
道間は遊戯室に向けて走り出そうとした。それを平川が肩を掴んで止めた。
「道間さん、少し我慢してください。加羅の話が本当なら、新たな犠牲者を出すわけにはいきません。そうだよな、加羅?」
「その通りだ。まずは情報の共有」
加羅は頷いた。
「しかし、しかしだ!そんなことは信じられない!」
道間はあくまでも遊戯室に向かおうとしている。
「賢いあなたならわかるはずです、道間さん。今動くのは危険だと」
加羅が柔らかい口調で話した。落ち着かせなければならない。
凍ったような表情の秋野がゆっくりと口を開いた。
「誰がやったのかを調べなくてはいけないわけですね?そして、そのためには、いつやったのかを調べなくてはいけないわけですね?廊下で亡くなっていたということは、殺人現場に犯人が向かったことは事実であると考えます。人を殺すには誰にも見られてはいけない。一人一人のアリバイを証明していって、そこから推理するしかないわけですよね?容疑者は少ないですしね。館の中の誰か。そして、七雄さんを殺したのと同一人物なのか」
秋野が小さめの声でいった。
「誰が、いつ、も重要ですが何故かも重要です。七雄さんに毒を盛ったというのは計画的犯行のように思えます。しかし、道間夫人は……道間さんの前なので言葉は選びましたが、突発的犯行だったのではないでしょうか。殺す場所も、廊下とはなかなか奇妙です。見られたくない何かを道間夫人に発見されてしまったのかもしれません」
加羅は辺りを見回した。
「第一の事件は四方木さんが犯人でした。なので、次の事件を考えてみましょう。色々とあったんですが……七雄さんが毒を盛られた事件です。七雄さんの部屋には食べかけのサンドイッチとソーダがあった。これは間違いなく事実です。問題はその中に毒が仕込まれていたのかどうか」
「毒など入っているわけがない!そんな隙はなかったはずです」
権田が抗議した。
「しかしまあ、怪しいというのはわかります。厨房には権田さんと俺しかいなかったんだから」
滝瀬の方は素直に認めた。客観的に怪しいのは明らかだ。
「でも俺達がやったんじゃないっていう証明は出来ますよ」
肩を竦める滝瀬。
「どうやって?」
刀利は驚いた。そんな方法があるのだろうか。
「俺があの残りのサンドイッチとソーダを食べてしまうこと。権田さんは毒なんて絶対盛らないしね。安心して食べれますよ」
「滝瀬……信頼してくれるのか」
権田も驚いている。
「まあ、権田さんは小心者ですしね。殺人なんて出来っこないですよ」
滝瀬は笑った。照れ隠しだろうか。
「お話はわかりました。しかし滝瀬さん、間違ってもサンドイッチとソーダを腹に入れないでください。万が一ですが死んでしまう可能性がある」
加羅は考えながら喋った。ここまで言い切られると、食事に毒が入っていたとは思えない。
「でも、食べないと信じてもらえないんでしょ?」
「いえ、覚悟は伝わりました。食事に毒は入っていない方向で考えましょう。食事に毒が盛られたのでなければ、可能性は一つです。直接、毒の入った薬のようなものを飲まされた。この場合、渡すときは明らかに怪しい。七雄さんが信頼していた人物の可能性が高いです」
「信頼している人物でも、例えば錠剤のようなもの……そんな謎の物体を飲んでくださいと言われて、素直に飲むでしょうか?」
刀利が首を傾げた。
「錠剤である必要はない。例えばチョコレートでもいい。軽く口に入るものならたやすく飲ませられる」
「なるほど。容疑者は、加羅さん、私、平川さん、秋野さん、白井さん、道間さん、六人ですね。かなり絞られている気がします」
「容疑者の数が足りない」
「え、またですか?」
「権田さんと滝瀬さんが入っていない」
「二人は無罪の方向で考えるんじゃ?」
「食事に毒が入ってなかったからといって、毒を直接渡していないとは限らない。食事に加えてなにか食べさせた可能性はある」
「なるほど。安全圏に見せかけて殺したってことね」
滝瀬は顎に手を当てている。派手な金髪に似合わず考え込んでいる。納得しているようにも見える。
「加羅さん、どうすればいいのですか?」
道間がそわそわとしている。徐々に現状を飲み込み、指針を求めている。
「奥さんの死体は見ないほうが良いです。残酷です。もう寝室は安全とは言い切れません。徹夜してでも全員でこの応接室にいるべきだと思います」
「加羅さんの言う通りだと思います。刑事さんだっていますしね。全員で集まっている限り、これ以上の犠牲者は出ないはずです。全員で揃えば……」
秋野の発言は歯切れが悪かった。
「秋野さん、何かあるのですか?」
加羅はニコチンの不足している状態で、秋野に尋ねた。
「あ、ええ……全員と言いましたけど、全員揃うのは不可能ではないかと思いました」
「何故?」
「四方木は部屋から出れません。だから全員揃うのは不可能です」
その一言で辺りは静寂に包まれた。
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