モニターが殺してくれる

夜乃 凛

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第三章 アラシノナカ

調査と推測

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 加羅と刀利は平川と別れ、遊戯室へと向かった。応接室を通り赤いドアへ。道間夫妻と秋野の姿をまだ確認していなかったが、応接室には権田と滝瀬、白井しかいなかった。寝室にいる可能性が高い。遊戯室に人がいるとは思えなかった。一応の調査である。
 遊戯室の赤いドアの前に加羅と刀利が立った。加羅がそのままドアをノックしてみた。
 静寂。
 返事はない。

「開けるぞ」

「はい」

 息を呑む刀利。
 加羅が赤いドアを慎重に開いた。部屋の中は薄暗い。入って右手に、ライトの白いボタンがあった。加羅はそれを押した。
 部屋が明るくなった。中の様子がよく見渡せる。壁は淡いクリーム色。ビリヤード台。スロットマシンのような物。酒類も見えた。棚にたくさん酒が並んでいる。麻雀機なども置かれていた。どれも遊戯室の設備のようだ。入ってきたドアの反対側にドアがあった。館の入り口に繋がっていると説明された気がする。はるか昔のことに思えた。

「誰もいませんね。良かったのか悪かったのか……秋野さんと道間夫妻は寝室にいるのでしょうね」

 刀利は部屋の中央に置かれている緑色の椅子に近づいた。二脚ある。加羅がその椅子に座った。それに習うように刀利も椅子に座る。

「そうだな。少し話をしようか」

「話ですか?平川さんと合流は?」

「色々な事が起こりすぎた。二人で話をしよう。まとまっていないと平川にも話しづらい」

「わかりました。ええと、もの凄いシンプルですけど、館の中に殺人犯がいるという状況ですよね」

「間違いない」

「館の人物をまとめれば、ある程度絞れてきそうな気がします。館の中の人間は、被害者のアキラさんと七雄さんは除外するとして、秋野さん、四方木さん、白井さん、権田さん、滝瀬さん、道間夫妻ですね。七分の一の確率で、犯人なんですね……」

「それでは足りない。俺と刀利と平川を足して十分の一の確率になる」

「私達も入れるんですか?」

「客観的に判断するためだ」

「了解です」

「これまでの三つの事件が起きた。一つ目がアキラさんの死。二つ目がアキラさんの遺体が無くなったこと。三つ目が七雄さんが殺されたこと。一つ目の事件はそこまで複雑ではなかった。四方木さんが自白して全てが終わった。四方木さんの供述に不可解な点はあるが、物理的に実現可能な犯行だった。二つ目の事件だが、これは飛ばす。最大の謎だからだ。三つ目の事件の話をしよう。七雄さんの死。あれは、部屋にあったサンドイッチとソーダに毒を入れるか、あるいはその二つはダミーで、別の方法で毒を盛ったと考えられる。これも実現可能な犯行だ。しかし、飛ばした二つ目の事件がわからない。アキラさんの遺体が消えたこと。これが、実現可能のようで、不可能なんだ。別に死体がいなくなった所で被害者が増えるわけでもないが、それでもひっかかる。遺体を消す方法が思いつかない」

「確かにそうですね。となれば、遺体が消えた謎は忘れたほうがいいかもしれませんね。七雄さんを殺した人物を突き止める方向のほうがいいですよね。また新しい被害者が出るかもしれないんですから」

 刀利は当たり前のようにいった。切り替えが速い。

「まあ、その通りだな。鋭い。そう、次の事件だけは防がないといけないな。七雄さんがどうやって殺されたか」

「一番殺人犯に近いのは、権田さんと滝瀬さんですよね。七雄さんにサンドイッチとソーダを持っていったのは滝瀬さん。厨房で毒を仕込む機会があったはずです。それに、毒を盛ったんだ!と疑われていてもコックは二人いる。権田さんと滝瀬さん、どちらがやったのか断定することは出来ない。計算済みでしょうか?」

「もしあの二人のうちの一人が犯人ならそうだろうな」

 加羅は刀利の推理を評価した。理にかなっている。

「容疑者は四人」

 続けて加羅が指を四本立てた。

「四人ですか?」

「権田さんと滝瀬さん以外に犯人がいたとしよう。その人物をエックスとする。容疑者は、権田さん、滝瀬さん、エックス、七雄さんの四人だ」

「七雄さん?ええと、自殺ってことですか?」

「そう。四方木さんに協力した七雄さんが、罪の意識に囚われて自殺した可能性。七雄さんが四方木さんに協力しなければ、四方木さんがアキラさんを殺すこともなかった。捕まることもなかった。最も、まだ四方木さんは警察に捕まってはいないが」

 加羅は自分の推理を披露していった。しかし、七雄の自殺というのはあくまで可能性の話だと加羅は思っている。

「うーん、そういうものなんですかね?人間ってそんな簡単に死ねますか?」

「可能性の話だ。しかし、エックスにしろコックにしろ、厄介だな。毒を持っているのだから、警察が来るまで気をつけなければならない。刀利は出来る限り俺の側にいてくれ」

「側、ですか……?」

「側にいてくれれば必ず守る」

「加羅さん……」

 刀利は顔を少し赤くして俯いた。殺人が起きているのに不謹慎だが、やっぱり頼りになるなぁと思う刀利だった。

「加羅さん、皆で情報共有しないといけないですね。戻りましょうか?応接室に」

「そうしよう。帰り道は反対側のドアを通ってみるか。入り口へと繋がっているはずだ」

 加羅は遊戯室の奥、加羅達が入ってきたドアの正面にある扉を見た。あの扉は館の入り口へと向かう三本の廊下に繋がっているはずだ。遊戯室から入り口まで廊下を歩いて、中央の廊下から応接室に戻ろうと考えた。
 加羅がまっすぐ遊戯室の目的の扉へと向かう。辺りを見回しながら後ろをついていく刀利。
 すぐに扉の前にたどり着き、扉を開けた。鍵はかかっていなかった。白い廊下が二人の視界に映った。違和感はあった。

 廊下が見え、目の前に血まみれの女が一人廊下に転がっていたのだから。
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