モニターが殺してくれる

夜乃 凛

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第三章 アラシノナカ

掠める違和感の在処

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 四方木は背筋を伸ばしながら淡々と語った。
 それを聞いていた者は、驚きや警戒の感情を抱いた。話を聞き終えた平川が拳銃を四方木に向けている。

「動かないでください」

 平川は四方木に険しい声色で命令した。
 四方木は両手を上げた。

「何故ですか?四方木、何故アキラさんを殺したのですか?」

 秋野が目に涙を潤ませ四方木にいった。

「北央七瀬をご存知でしょう。アイドルの北央七瀬は、お嬢様の姉にあたります。本名は、神楽七瀬です。正真正銘、お嬢様の姉上なのです。そして、七瀬様の死は事故死ではありません。アキラが殺したのです。酒を大量に飲んだアキラは口を滑らしました。自分が崖から海に突き落としたと。七瀬様はアイドルの仕事をしながらも、お嬢様のために、家族のために一緒に暮らすという覚悟で白良島に来てくれたのです。アイドルを辞めることまで考えて。それを、それを……」

 四方木が語る。秋野は目を見開き、口に手を当てている。

「アキラが何を思って七瀬様を殺そうとしたのかはわかりません。しかし私は決断しました。七瀬様の無念。お嬢様の家族の未来を奪ったアキラを殺そうと。しかし私は捕まるわけにはいかなかった。私は牢に入れられてもいい。だがお嬢様を残して捕まるわけにはいかなかった!!私がそばにいてあげられなければ、誰もお嬢様の側にいてあげることが出来ない。ご恩を返すことも出来ない。お嬢様を悲しませる。だから、だから」

 四方木は俯きながらいった。刀利が口に手を当てて驚いている。平川はピストルを四方木に向けたまま。

「あなたを部屋に閉じ込めます。警察が到着するまで幽閉します。異存は?」

 平川が刑事らしくいった。加羅も発言はしなかったが、賛成だった。

「その通りにします。お嬢様、七雄さん、申し訳ない」

 四方木はうなだれた。

「アキラが悪いんだ!四方木さんは正しいはずだ!」

 七雄が叫んでいる。
 正しいの定義は難しい。二人の人物がいて、相容れない正しさをお互いに持って対立することもある。

「四方木」

 秋野が泣いている。ただ、立ったまま泣いている。

「まだ、力石がいます。彼を頼ってください。お供出来ずに申し訳ありません。この四方木、あなたに仕えられて本当に幸せでした」

 四方木の言葉の後、沈黙が辺りを包んだ。


 その後どうなったかというと、四方木はとある部屋に閉じ込められた。寝室のある廊下の胃一番奥にある倉庫である。その倉庫は内側から鍵を操作出来ない。ドア以外の出入り口もない。外からはマスターキーを使うことが出来るので、四方木を幽閉するにはもってこいの場所だった。四方木はまったく臆する様子もなく、部屋へ幽閉されることを受け入れた。四方木が平川に部屋に入れられる一瞬、秋野と四方木の目があった。四方木は頭を下げていた。


「秋野さんになんて言っていいのか、わからないですね」

 刀利が呟いた。事件が終わった今、応接室に人が集まっている。加羅、刀利、平川、秋野、七雄、白井、権田、滝瀬、道間夫妻。
 刀利は悲しんでいた。悲しいと、ただ思った。
 
「刀利君、悲しいけど危機は去ったんだ。もう殺人者に怯える必要はなくなった」

 平川がいった。

「はい。でも、なんか、やりきれないですね」

「いかなる事情があるにしても殺人は殺人だ」

「そう、ですね」

 刀利は俯いてしまった。これからの秋野の孤独を思うと胸が痛んだ。

「悲しい事件でしたが、犯人が捕まったということは、全員で同じ場所にいる必要はないということですよね?」

 黒いサングラスの白井がいった。

「そうですね。犯人はもう殺人を犯す事はできません。安全だと思います」

 平川は頷いた。

「みなさん、寝室をお使いになってください」

 秋野は心ここにあらずといった様子で皆に話しかけた。

「秋野さん、無理をしないで」

 刀利が秋野の手を取った。

「大丈夫です。四方木が警察に捕まる時は大丈夫ではないかもしれませんが。それでも館の主として、みなさんを導く義務があります。外はまだ悪天候です。どうかお休みになってください。権田さん、滝瀬さん、皆さんに何か食べ物か飲み物を作ってあげてください」

 コック達の方を向く秋野。コックの権田は頷き、滝瀬は悲しげな表情をしていた。

「四方木さん、相談してくれればよかったのにな」

 滝瀬が呟いた。

「過ぎたことを悔やんでも始まらん。みなさんに食事をお出しするぞ、滝瀬。厨房に行くんだ」

 ジャージの権田はそう言うと、厨房に向けて歩いていった。滝瀬も無言で後に続いた。

 結局、それぞれが自室、つまり白良島の寝室に行くことになった。一人一部屋の寝室もあれば、二人入れる寝室もある。二人用の寝室は道間夫妻が使うことになった。

 加羅と刀利が寝室にいた。加羅の寝室である。一人用の部屋だが二人で集合している。部屋の中にはベッドと、簡素な机と大きな椅子がある。その椅子に加羅は座っていた。刀利は立っている。
「アキラさんが北央七瀬さんを殺したのなら、今回の事件は誰が正しいんでしょうね」

 幽閉されている四方木の姿を想像しながら刀利が呟いた。

「報復も正しいのかもしれない。しかし、方法がダメだ。殺してはいけない。生きて罪を償わせないといけない」

 加羅が呟いた。そして、何か考えている様子だ。どこか上の空。

「加羅さん、どうかしましたか?」

「少し思ったんだが、北央七瀬が死んだ時、島の住民にはアリバイがあったはずだよな、と思っていた」

「そうですね。それだと、四方木さんの自白と矛盾しますね。アキラさんには北央七瀬さん、いや、神楽七瀬さんを殺せなかった?」

「管制室にもう一回行きたいところだな。部屋の中はパッと見ただけで詳しくは調査していない。たしか、船の出入りを表示するモニターがあったはず。それに気になる点がもう一つある。俺の思い過ごしでなければ」

「気になる点?」

「確か、光っているモニターの近くに椅子が一台あった」

「それが?」

「四方木さんはアキラさんを後ろから刺したと言っていた。椅子には高い背もたれがあったから、映画を見ていたアキラさんを背後からナイフで刺すのは不可能じゃないか?」

「あ」

 刀利はこくこくと頷いた。

「つまり、どういうことなんですか?」

「四方木さんは何かのために嘘をついている」

「なんのために?」

「わからない。今あるマスターキーは、秋野さんが一つ。平川が四方木さんから回収したのが一つ。アキラさんの持っていた行方不明のマスターキーが一つ。リッキーさんのが一つ。何かが、何かが気になる。平川に管制室のドアを開けてもらえるように頼もう。調査のためだと言えば平川は貸してくれるはずだ。今頃煙草でも吸ってるだろう」

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