モニターが殺してくれる

夜乃 凛

文字の大きさ
上 下
11 / 26
第二章 探偵達と四色の扉

現れましたコック達

しおりを挟む
 緑色のドアを加羅が開けた。緩やかな右カーブの通路が視界に映る。通路には窓ガラスが貼られていて雨風を吹き飛ばしている。
 通路に人の気配はなかった。
 七雄が後ろからついてきている事を確認しながら加羅は歩いた。
 北央七瀬の死。その事件からこの惨劇は仕組まれていたことなのだろうか。加羅の頭を想像が頭を駆け巡った。
 緩やかなカーブの先に、またしても緑色のドアがあった。
 加羅はそのドアに前で立ち止まった。おそらく緑のドアの中が厨房だろう。
 いきなり棒立ちになった加羅。ピタリと足を止めてドアを凝視している。

「入らないんですか?」

 七雄が加羅に尋ねた。

「いや、入ります。ただ、今更ですが、勝てるかどうかと思っていました」

「ああ、そうか……犯人が中にいるかも……そうですね。ノックしてみましょうか」

 七雄は頷いた。
 加羅の慎重さ。犯人が中にいるのかもしれないのだ。
 七雄がドアに近づきドアをノックした。そしてすぐにドアから距離を取る。
 一瞬の静寂。

「はい!」

 中から野太い男の声が聞こえた。どうやら大丈夫そうだ。
 そしてドアが開いた。
 太った男が顔を出した。全身ジャージ姿だ。

「え?あの、お客様ですか?」

 太った男は驚いた様子で加羅達に話した。安全で良かったと加羅は思った。

「はい。神楽秋野さんに招待されました。加羅と申します」

「僕は七雄です。館に来たことは何度もありますが、初めまして」

「あ、ご丁寧に……私は権田と申します」

 権田はぺこぺこと頭を下げた。

「ところで、何か御用が?四方木さんは?」

 権田は不思議そうに加羅達を見ている。

「少し、事情があって……一緒に来て欲しいんです。それと、もう一人コックさんがいるはずですが……」

 加羅は厨房の中をちらりと見た。
 厨房はそこまで広くはない。だが一般的な家庭のキッチンの二倍以上はあるだろう。
 奥にまたしても緑色の扉が見える。どこへ繋がっているのかはわからない。

「ええ、コックはもう一人いますよ。おい滝瀬!こっち来い」

 権田が手招きした。ドアの死角に向けて。
 加羅達の見えない所、入って左側にいた男が呼ばれて出てきた。
 黒いジャケットに青いジーンズ。とてもコックには見えない。短い金髪が主張しすぎて、料理に入ってしまうのではないかと心配になるほどだった。

「なんですか?」

 滝瀬が無愛想に話す。

「こら、お前!お客様の前だぞ。丁寧にせんか。なんでも、用事があるって話だ」

「初めまして、加羅と申します。応接室まで来ていただけると助かります」

「どうも。四方木さんは?」

 滝瀬はさらに無愛想になった。

「四方木さんも応接室にいます」

 加羅が受け答えする。嘘はついていない。

「四方木さんが呼んだの?」

 滝瀬の方が加羅より年下のようだが、横柄な口調で話す滝瀬。

「四方木さんが呼んだわけではありません。しかし、そう……四方木さんなら呼ぶでしょうね」

「ふーん……まあ、仕事も終わったし行けるけど」

「お客様の前では礼儀正しくしなきゃダメだぞ」

 権田が滝瀬を咎める。加羅はあまり気にしていない。むしろ若い滝瀬が微笑ましい。

「とにかく応接室に行きましょう」

 七雄が話をまとめた。

「後で説明してもらいますよ」

 滝瀬がぼやいた。
 七雄を先頭に、入り口から出ていく。滝瀬、権田、七雄。
 加羅は最後に部屋の中の様子を観察していた。窓がない。厨房は安全だったことになる。マスターキーで扉を開けられれば話は違うが。

「行くんじゃないの?」

 滝瀬が加羅を急かした。

「ええ、行きます。ただ、あの奥の扉はどこに繋がっているのですが?」

「ああ、奥のドア。カーブして入り口まで繋がっていますけど」
 滝瀬の応えに加羅は想像した。館に入った時、三つに分かれた通路があった。正面は応接室に繋がっていたが、左右どちらかの通路は厨房に繋がっていたのだろう。
 加羅はもう一度部屋を見回してから七雄たちの最後尾についた。

 応接室に戻ると平川と刀利が二人で話していた。刀利はすぐに加羅の姿を見つけた。

「あ、加羅さん!何もなかったのですね」

 刀利は笑顔を見せた。安心したようだ。四人戻ってきたということは安全だったのだろうと認識していた。

「ああ。厨房には窓もなかった」

「それは安全ですね」

「安全って、何が?」

 滝瀬は不機嫌そうだ。
 加羅の認識している限り、館の人物が全員応接室に集まっている。四方木と秋野は階段の上にいるはずだ。加羅は事件の事を話すことに決めた。

「管制室で人が殺されました」

 加羅の言葉。
 滝瀬の動きが止まる。不意打ちされたかのような硬直。微動だにしない金髪。

「え、殺された?ど、どういうことですか?」

 ジャージ姿の権田が慌てている。

「管制室で、アキラさんが背後から一突き。そしてアキラさんの持っていたマスターキーを犯人が盗みました」

「そんな、殺人など」

 権田は狼狽した表情を見せている。

「現場、見に行ってもいいの?」

 滝瀬はさほど動揺していないように見える。冷静な性格なのか、人の生き死にとか、そういうセンサーが無いのかもしれない。

「一旦はこの応接室に留まってほしいです。現場は鍵をかけて保存してあります」

「なんで?この天気じゃあ警察だってすぐにはこられないだろ?調べなきゃ」

「犯人の動きがわかりません」

「ここに全員集めて、守りを固めようってか。お互いを証人にして」

 滝瀬は無表情で話す。飲み込みが速いと加羅は思った。

「そうです。館の中に犯人がいれば犯人は身動きが取れず、外部に犯人がいても大人数相手には慎重になるでしょう」

 加羅が作戦を話す。煙草が吸いたいな、と加羅は思った。

「応接室にいる人間は、全員そのことを知っているのですか?」

 権田が汗をかきながら質問した。

「いえ、まだ全員に話していません。今から人を集めて説明しようと思います」

「四方木さんは?」

 滝瀬がまたも口にした。四方木を気にしている。

「秋野さんが失神されて、その看護をしています。階段の上にいます」

「なるほど。しかし四方木さんの話なら喜んで協力するけど、初めて会ったあんたに協力するのもね」

「安全のためです」

「まあ、合理的」

 滝瀬は納得したようだ。

「ありがとうございます。刑事もいますしね」

「え、刑事?」

 滝瀬は初めて顔色を変えた。

「はい。平川という刑事です。そこの」

 加羅は刀利の傍にいる平川を見た。

「なんの偶然か知らないけど、それなら安全かな。銃も持ってるだろうし」

 滝瀬が淡々と語る。

「最悪の時にしか使いませんけどね」

 平川の受け答え。彼は滅多なことでは発砲しない。しかし、銃を持っているというだけでも大きなアドバンテージだ。

「最悪の時って、どう判断するの?」

 滝瀬が意味深なことを言う。

「どう判断?犯人が襲ってきたら、使うでしょうね」

 平川が答える。

「人が襲ってくることと、犯人が襲ってくることはイコールじゃないんだけど」

「どういうことですか?」

「例えば、勝手にやけになって襲ってくるやつがいたとして、そいつが事件の犯人とは限らないだろ?つまり最初の事件が犯人Aで、まったく別の犯人Bが襲いかかってくるかも知れない」

「それは……」

「冗談。だけど、こんなことで迷ってたら刑事としての役割果たせないよ」

 滝瀬が生意気な口を叩く。しかし言っていることは一理ある。
 刀利が、滝瀬の金髪を見つめている。

「なにか?」

 視線に気づいた滝瀬。

「協調性がないぞよ!」

 刀利が手をパーにして滝瀬の方に向けた。

「協調性っていったって、初めて会ったんだから……」

「そんなことでは社会の海に流されて、ぶらり桃太郎ぞよ」

「社会に揉まれて、じゃないの?」

「うぐぐ……腹の立つ小僧め!」

「あんたの方が年下に見えるけど……」

 滝瀬は呆れている。

「すみません、まだ新人なもので……こら、滝瀬!協調性は大事だぞ」

 権田が割って入った。権田と滝瀬の協調性を足して二で割れば、丁度良い塩梅かもしれない。

「ビシッと指導しといてください!」

 刀利が権田の方に向かってうんうんと頷く。

「四方木さんが言うんだったら聞くけどね」

 滝瀬が首を振る。

「む、四方木さんには弱いと見える」

 刀利は侍のような口調になっている。

「四方木さんは超人だから。尊敬してる。ずっとお嬢様に尽くしてるだろ。言葉より行動。あの人は行動できる人」

 滝瀬は意外にも四方木の事を賞賛した。

「とりあえず、全員に情報を通達しないといけない。勝手に部屋から出ていったら困る」

 加羅は部屋の中を見ている。サングラスの白井と、知らない男一人と女が一人が見える。
 しかし、どうしようかと加羅は迷った。管制室で人が殺されました、それではあまりにも突飛すぎる。

「七雄さん、あそこにいる男女のペア、知っていますか?」

「あ、ええ。知人とは言いませんが、名前くらいなら」

「呼んできてもらえますか?」

「わかりました。しかし、なんと伝えれば?」

「いきなり事件の話をするより、とりあえず集まってもらった方がいいと判断しました。みんな集まってるから来て欲しい、というニュアンスでお願いします」

「わかりました」

 七雄は頷くと、男女のカップルらしき人物たちの元へ向かった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

いわゆる異世界転移

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:353

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:109,639pt お気に入り:7,821

最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:14,848

アルファポリスはじめました。

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:3

けん者

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:405pt お気に入り:2

祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:21

幼い皇女はつがいの皇帝に溺愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,648pt お気に入り:24

断罪者 ~絶望を知った少女が救済する物語~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:23

処理中です...