モニターが殺してくれる

夜乃 凛

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第一章 地獄の島へご出発

まるで推理小説みたいですね

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「ここには何をしに?」

 秋野が首を傾げた。

「加羅さんに付き添って、バーベキューしに来ました」

「キャンプですね」

 加羅と平川は黙っていた。二人はアイドルの事件についての関心があったが、この雰囲気を壊してはいけないような気がしていた。質問をしない。
「あ、みなさん、もうじき夕食になります。それまでこの部屋でくつろいでください」

 秋野は加羅達に向けて話した。空気を読むのが上手いと思われた。
 今、大部屋には九人の人物がいる。
 加羅、刀利、平川、七雄、白井、秋野、老人、そして女が一人と、男が一人。

「七雄さん、みなさんへの道案内、ありがとうございます」

 秋野は七雄の方を向きぺこりと頭を下げた。

「いえいえ、お嬢のためなら」

 七雄は笑顔を見せた。今までの中で一番明るい笑顔だった。
 加羅はその様子を見て確信した。やはり七雄が道案内出来るのは招待主の思い通りだった。

「ところで、神楽さんの隣にいる方は?」

 続けて、加羅は隣の老人が気になっていたので尋ねた。

「失礼。私は四方木(よもぎ)と申します」

 四方木が頭を下げた。

「お嬢様にお仕えさせていただいております」

 四方木が頭を上げる。老人ながらも背筋は伸びている。武術でもやっているかのようなしなやかさを思わせる体だった。

「執事さんみたいなものですか?」

 刀利が首を傾げる。

「大体、その通りでございます」

「門を開けてくれたのも四方木さん?」

「いえ、門を開けたのは別の者です。この部屋にはいません」

「管制室のようなものがあるのですね?」

 加羅が管制室のありそうな部屋を想像しながら尋ねた。

「その通りです。管制室に興味があるのですか?」

 四方木は不思議そうに加羅を見つめている。
 加羅はちらりと平川の方を見た。平川がこくりと頷く。

「この島そのものに興味がありまして……管制室は、客は立ち入り禁止ですか?」

「いえ、お嬢様が招待なされたお客様なら見ても構いません。見に行かれますか?」

「是非。あ、その前に……」

「なにか?」

「煙草を吸わせてもらっても、よろしいでしょうか?」

「受動喫煙だ!」

 刀利が割ってくる。

「部屋の隅に灰皿が置いてあります。そちらでどうぞ」

 秋野が笑顔で部屋の隅に置いてある灰皿を指さした。喫煙者への配慮がしてあるようだ。

「助かります」

 加羅は一礼して灰皿の方へ向かっていった。平川が続く。
 刀利はため息をついてそれを見守っていた。

「いつもああなんですよ。許されませんよね」

 刀利が秋野に話しかけた。

「喫煙者の方も、肩身が狭いですから……」

 秋野は笑っている。それを見て刀利は、自分の方が秋野より幼いのではないかと思った。そこまで煙草を毛嫌いしているわけではないが、それはある種の慣れかもしれなかった。加羅の店で散々煙草の匂いには慣れている。加羅に、絶対にお前は吸うなと言われたことがあるが、そう言われると逆に吸いたくなったものだ。だが煙草はお金がかかる。そして健康のため。結局は加羅の言葉を真剣に受け止め、煙草を吸ったことはない刀利。

「結婚相手が喫煙者だったらどうしますか?」

 刀利は秋野に聞いてみた。将来の事を考えているのだろうかと。

「喫煙というよりもむしろ、パートナーとして信じられるかというか……あ、質問の答えになっていませんね。そうですね……吸わないほうがいいですね」

「ですよねぇ」

「加羅さんとはどういう関係なのですか?」

 秋野が聞いてくる。刀利は迷った。実際のところ、どういう関係かと聞かれると答えづらい。コーヒー店を営んでいる加羅の元に刀利が勝手に押し寄せているに過ぎない。刀利は加羅のことが好きだったが、結局、他人なのかもしれない……。

「加羅さんのことが、お好きですか?」

 秋野は無表情に戻っている。

「はい」

 淀みのない刀利。

「何故ですか?」

「何故……うーん、私は昔に、両親を亡くしたんですよね。その時は私は十九歳でしたけど……。どうしたらいいかわからなくて。私のお気に入りだったコーヒー店が加羅さんの営業しているお店だったので、私は加羅さんに泣きついてしまったんです。それを加羅さんは嫌な顔一つせず、私の話をよく聞いてくれました。とても、とても長い時間話していたと思います……。どうしたらいいかって相談に乗ってくれて、加羅さんはとても優しい表情でした。優しい人なんです。それ以来、もうメロメロで」

 刀利は笑顔で語る。

 メロメロとは?と秋野は聞きたかったが胸に秘めた。

「好きな方がいて羨ましいです」

 秋野は寂しそうな眼をして言った。

「あ……」

 刀利はしまったと思った。
 秋野の両親は亡くなり、そして刀利のように縋れる人物はいなかったのだ。

「いえ、大丈夫です。四方木がいてくれましたから……刀利さんも管制室を見に行ってみてはいかがですか?管制室の設備は結構面白いですよ」

「ごめんなさい。いいんですか?」

「はい。私たち……似ていますね」

 秋野の黒い目が刀利を見つめている。その目が刀利には深い闇のように見えた。

 その時、応接室に轟音が聞こえた。

「雷!?」

 刀利は叫んでしまった。
 秋野はすぐに応接室の入り口から見て左側の窓を見た。先程までは降っていなかった雨が、強く降っている。ガラス窓を強い雨が叩いている。風も強い。雨が揺れている。

「天気予報ではこうではなかった」

 秋野が窓を見つめながら呟く。無表情。
 再び光が走った。直後、轟音。雷で間違いない。

「よかったです」

 秋野が刀利の方を向いて話した。

「よかった?」

「船に乗っている最中でなくて」

「ああ」

 その通りだと刀利は思った。船の中でこうなっていたら、どうなっていただろうか。悪寒が走った。

 煙草を吸いに行っていた加羅と平川が戻ってきた。加羅と平川は、刀利と秋野の元に戻る時に話をしていた。一台しかない船。頑丈な黒の扉。悪天候。三つの壁に加羅達は帰ることを阻まれた。

「みなさん、雷が鳴りましたが……この館に泊まっていってください。明日には良くなると思います」

 秋野が素早く提案した。四方木がその通りだというように頷く。加羅達にしてみれば、この申し出を引き受けなくてはどうしようもない。好意に甘えることを秋野に伝えた。

「良かった。夕食会を早めに開きましょう。この悪天候では不安になる方もいるでしょう。四方木」

 秋野は四方木の方を向いた。四方木は頭を下げ加羅達の元から去った。夕食会という催しの準備があるのだろうか。

「嵐の中の館……うーん、人生で一度味わえるかどうか」

 刀利は首を傾げている。

「推理小説みたいだな」

 加羅が同意した。

「そうそう。これで、事件が起きて……名探偵が解決するんですよね。あ、いや、でも」

「でも?」

「探偵役がいないような気がします。加羅さんが解決してくれますか?」

「事件が起きればな」

「おお、頼もしい!私は助手ですね!平川さんは、えっと……情報提供者」

「僕は刑事役じゃないのか」

 平川の苦笑。

「刑事は後から到着するんですよ!それで、えっと……」

 犯人、と言い出そうかと思ったが、刀利は不謹慎かと思いやめておいた。もう手遅れな感じがあるが。

「えっと?」

 加羅が笑いながら聞いた。

「えっと、夕食会が楽しみですね」

「全然脈絡がないぞ」

「細かいことを気にしてたら煙草没収ですよ!」

「俺の煙草だ」

「えー、我々は健康を守るために……」

 刀利が謎の演説を始めた。
 秋野が笑っていた。加羅と平川はやれやれといった様子である。慣れている。

「四方木が準備を進めてくれます。厨房に二人のコックがいるので、完成した料理を四方木がこの部屋に運んでくれるでしょう」

 加羅の方を向いて話す秋野。

「四方木さんはご老人のようですが、若く見えますね」

「はい。私の両親に恩があるといって、私を助けてくれて……本当に四方木には……」

 秋野は言葉を切った。言葉には言い表せない恩というものがある。
 世の中には裏切る人間がいる。しかし四方木は秋野に尽くしていた。秋野に飛びかかる泥はことごとく排除した四方木。秋野を守り続けてきた四方木。今頃厨房でコックたちの様子を見ているのだろうか。
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