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第一章 地獄の島へご出発
灰色の天の海
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今、船には、加羅、刀利、平川、七雄、リッキー。五人の人間がいる。
リッキーの本名はまだわかっていない。聞けば答えてくれるだろうが。
あだ名というのは不思議なものだ。大抵、あだ名には元になる言葉がある。しかし元の言葉を知らない人間でもあだ名を使う。元の言葉は忘れ去られて、消え去ってしまう。
あと一人の女が到着すれば出発出来る。加羅たち五人は事件の話など無かったかのように、白良島の話をした。主に話をリードしていたのは七雄。白良島で起きる催しを知っていた。ささやかな食事会が開かれるらしい。それに天候が良ければ皆でキャンプに出かけるようだ。
そして、ビリヤード等を遊戯室で遊ぶなど、歓談の時間が設けられているようだ。何故七雄がそこまで詳しいのか誰も触れなかった。
加羅が少し気になった点は、日焼けしたリッキーの言葉。七雄のことを坊ちゃんと言っていた。白良島に七雄が行ったことがあるのは間違いないと加羅は想像した。しかしどのような立場なのかは想像もつかなかった。いや、想像する気が無かったというべきか。ビリヤードは苦手だな、とぼんやりと思いながら煙草を吸っていた。
五人はそのまま談笑していた。十五分程経っただろうか。
船の中央には白いボックスのようなスペースがあり、その中で会話を交わしていた。
「絶好のリゾート日和なのだ」
刀利がニコニコしている。空は曇りである。全然リゾート日和ではない。
しかし天候など関係ないのかもしれない。晴れが好きな人間もいれば、雨が好きな人間もいる。リゾートと一言で言っても、そのシチューエーションから感じる感情は人によって異なる。
「すみません、この船は白良島行きですか?」
船の外からやや大きめの声が聞こえた。女の声だ。
船内に居たリッキーが慌てて出ていった。
「はい、この船は白良島行きですが」
「よかった。私、白良島に招待されて……船が港から出ると聞きました。白井夏帆と申します。遅れて申し訳ありません」
白井と名乗った女は、黒のジャケットに、同じく黒いパンツ。そして、黒いサングラス。刑事の平川も顔負けの服の黒さだ。髪も黒いロング。白い招待状を手に持っている。
「ああ、もうお客の皆さんは船の中にいますよ。あなたが最後の一人です」
待っていた、とはリッキーは口に出さなかった。プレッシャーを与えたくなかったからだろうか。このような配慮が社会を円満に回している。
「さあ、船に乗りましょう」
「お邪魔します」
リッキーと白井が船に乗り込んだ。操縦はリッキーがするのだろう。
船の中では加羅と平川が急いで煙草を揉み消していた。白井が来たからだ。
やはりこの時代では煙草を吸うのは難しい。
「みなさん、初めまして。白井夏帆と申します」
白井が船内にいる加羅達に向けて頭を下げた。
初めまして、と皆が挨拶を返した。
「あなた、どこかでお会いしたことがありますか?あ、僕は相川七雄といいます」
七雄が白井にきいた。
「七雄さん……いえ、勘違いだと思います。私は会ったことがありません」
「そうですか。失礼、忘れてください」
刀利はその様子を眺めていた。
「口説いてるのでしょうか?」
加羅に耳打ちする刀利。そして加羅に頭を叩かれる。
「では、出発しましょう」
リッキーは船の先頭付近の操縦席に座った。操縦席は狭い。一人しか乗り込めないくらいだ。気休め程度の雨除けの屋根が操縦席には設置されている。
「船旅なんて初めてだなぁ」
刀利は楽しそうだ。体験は人を進化させる。塵が積もるようにゆっくりと。
曇りだった天気が少し雨模様に変わった。
雲は灰色に広がり、何かの暗い暗示のようだった。
船は出発した。
港には不審な人物は、加羅の観察では見当たらなかった。平和そのものの風景に見えた。
平和とはなんだろうか?
それは平和でない状態、悲惨な状況を知っているものだけが、強く意識することだろう。平和な状態しか知らない人間は、平和をあまり意識することがない。悲惨さを想像するしかない。目の前の幸せを強く知らない。平和であることの幸せ。
海の上を進む船。
船が揺れる感覚が心地よいな、と加羅は思った。
少し加羅は考えた。七雄が色々と知っているようだったからだ。
だが七雄には聞かないことにした。島でもっと情報が集まってから話せば良い。それに聞かなくても話してくれそうな雰囲気だった。
事件について考える加羅。
謎のアイドル、北央七瀬。気になる点は二点。
一点。なぜ北央七瀬は島を訪れたのか。
二点。島で亡くなったのは、本当に北央七瀬だったのか。というのも、北央七瀬の死体は発見されていないのである。島に訪れていた北央七瀬が島の館からいなくなったという証言を島の住人が揃って口にしていた。他にいなくなった人物はいないと住人たちは断じていた。
警察は島の状況から海に落ちたのは北央七瀬だと決定したようだった。事件当時の関係者の証言と、北央七瀬が白良島から出ていないという情報を元に決定をしたのだ。島の出入りをチェックし、いなくなっているのが北央七瀬だけという事実からだ。
七瀬の荷物は館の中に置いてあった。遺書はない。
本当に死んでいるのか怪しいと思われる。だが北央七瀬が生きていたとして、身を隠す場所はないはずだ。船の出入りの検査。そこに当然、北央七瀬の姿は確認されていない。食料無しで島に隠れて生き延びられるとも思えない。
隠れられる場所があるとすれば住民の住む館だが、その可能性は極めて低い。自殺にみせかけて住民達が七瀬の存在を隠蔽する必要性がないと思われる。そんなことをしても、いずれはバレるのだ。警察に察されたら住民も北央七瀬の立場も危うい。
やはり、海に落ちて死んだのか。加羅の頭の中を想像が駆け巡っていた。
リッキーの本名はまだわかっていない。聞けば答えてくれるだろうが。
あだ名というのは不思議なものだ。大抵、あだ名には元になる言葉がある。しかし元の言葉を知らない人間でもあだ名を使う。元の言葉は忘れ去られて、消え去ってしまう。
あと一人の女が到着すれば出発出来る。加羅たち五人は事件の話など無かったかのように、白良島の話をした。主に話をリードしていたのは七雄。白良島で起きる催しを知っていた。ささやかな食事会が開かれるらしい。それに天候が良ければ皆でキャンプに出かけるようだ。
そして、ビリヤード等を遊戯室で遊ぶなど、歓談の時間が設けられているようだ。何故七雄がそこまで詳しいのか誰も触れなかった。
加羅が少し気になった点は、日焼けしたリッキーの言葉。七雄のことを坊ちゃんと言っていた。白良島に七雄が行ったことがあるのは間違いないと加羅は想像した。しかしどのような立場なのかは想像もつかなかった。いや、想像する気が無かったというべきか。ビリヤードは苦手だな、とぼんやりと思いながら煙草を吸っていた。
五人はそのまま談笑していた。十五分程経っただろうか。
船の中央には白いボックスのようなスペースがあり、その中で会話を交わしていた。
「絶好のリゾート日和なのだ」
刀利がニコニコしている。空は曇りである。全然リゾート日和ではない。
しかし天候など関係ないのかもしれない。晴れが好きな人間もいれば、雨が好きな人間もいる。リゾートと一言で言っても、そのシチューエーションから感じる感情は人によって異なる。
「すみません、この船は白良島行きですか?」
船の外からやや大きめの声が聞こえた。女の声だ。
船内に居たリッキーが慌てて出ていった。
「はい、この船は白良島行きですが」
「よかった。私、白良島に招待されて……船が港から出ると聞きました。白井夏帆と申します。遅れて申し訳ありません」
白井と名乗った女は、黒のジャケットに、同じく黒いパンツ。そして、黒いサングラス。刑事の平川も顔負けの服の黒さだ。髪も黒いロング。白い招待状を手に持っている。
「ああ、もうお客の皆さんは船の中にいますよ。あなたが最後の一人です」
待っていた、とはリッキーは口に出さなかった。プレッシャーを与えたくなかったからだろうか。このような配慮が社会を円満に回している。
「さあ、船に乗りましょう」
「お邪魔します」
リッキーと白井が船に乗り込んだ。操縦はリッキーがするのだろう。
船の中では加羅と平川が急いで煙草を揉み消していた。白井が来たからだ。
やはりこの時代では煙草を吸うのは難しい。
「みなさん、初めまして。白井夏帆と申します」
白井が船内にいる加羅達に向けて頭を下げた。
初めまして、と皆が挨拶を返した。
「あなた、どこかでお会いしたことがありますか?あ、僕は相川七雄といいます」
七雄が白井にきいた。
「七雄さん……いえ、勘違いだと思います。私は会ったことがありません」
「そうですか。失礼、忘れてください」
刀利はその様子を眺めていた。
「口説いてるのでしょうか?」
加羅に耳打ちする刀利。そして加羅に頭を叩かれる。
「では、出発しましょう」
リッキーは船の先頭付近の操縦席に座った。操縦席は狭い。一人しか乗り込めないくらいだ。気休め程度の雨除けの屋根が操縦席には設置されている。
「船旅なんて初めてだなぁ」
刀利は楽しそうだ。体験は人を進化させる。塵が積もるようにゆっくりと。
曇りだった天気が少し雨模様に変わった。
雲は灰色に広がり、何かの暗い暗示のようだった。
船は出発した。
港には不審な人物は、加羅の観察では見当たらなかった。平和そのものの風景に見えた。
平和とはなんだろうか?
それは平和でない状態、悲惨な状況を知っているものだけが、強く意識することだろう。平和な状態しか知らない人間は、平和をあまり意識することがない。悲惨さを想像するしかない。目の前の幸せを強く知らない。平和であることの幸せ。
海の上を進む船。
船が揺れる感覚が心地よいな、と加羅は思った。
少し加羅は考えた。七雄が色々と知っているようだったからだ。
だが七雄には聞かないことにした。島でもっと情報が集まってから話せば良い。それに聞かなくても話してくれそうな雰囲気だった。
事件について考える加羅。
謎のアイドル、北央七瀬。気になる点は二点。
一点。なぜ北央七瀬は島を訪れたのか。
二点。島で亡くなったのは、本当に北央七瀬だったのか。というのも、北央七瀬の死体は発見されていないのである。島に訪れていた北央七瀬が島の館からいなくなったという証言を島の住人が揃って口にしていた。他にいなくなった人物はいないと住人たちは断じていた。
警察は島の状況から海に落ちたのは北央七瀬だと決定したようだった。事件当時の関係者の証言と、北央七瀬が白良島から出ていないという情報を元に決定をしたのだ。島の出入りをチェックし、いなくなっているのが北央七瀬だけという事実からだ。
七瀬の荷物は館の中に置いてあった。遺書はない。
本当に死んでいるのか怪しいと思われる。だが北央七瀬が生きていたとして、身を隠す場所はないはずだ。船の出入りの検査。そこに当然、北央七瀬の姿は確認されていない。食料無しで島に隠れて生き延びられるとも思えない。
隠れられる場所があるとすれば住民の住む館だが、その可能性は極めて低い。自殺にみせかけて住民達が七瀬の存在を隠蔽する必要性がないと思われる。そんなことをしても、いずれはバレるのだ。警察に察されたら住民も北央七瀬の立場も危うい。
やはり、海に落ちて死んだのか。加羅の頭の中を想像が駆け巡っていた。
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