モニターが殺してくれる

夜乃 凛

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第一章 地獄の島へご出発

七雄登場

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 喫茶店を出て加羅達はすぐ船乗り場へ向かった。天候こそ曇りであるが海はどこまでも続いているようで綺麗だ。どこまでも続く海に終わりは見えない。
 港に白いボートが五台ほどぷかぷか浮かんでいる。人気は少ない。綺麗な海は晴天だったらきっと輝いて見えただろう。

 五台あるボートのどれが白良島行きかわからなかった。とりあえず船の人間に尋ねてみることにした加羅達。
 加羅達が五台の白いボートの中の一つに近づくと、日焼けした恰幅の良い男性が船の前に居たので平川が声をかけた。

「すみません、白良島行きの船に乗りたいのですが、白良島に向かう船をご存知ではありませんか?」

「ああ、この船が白良島行きだよ。アンタ、随分怖い恰好だね。白良島がどうした?」

「そこへ招待されました。三人。船で送ってくれるとのことで」

 平川は黒い鞄から白い招待状を出し男に見せた。後ろにいる加羅と刀利も招待状を見せる。計三枚の招待状。

「ああ、お嬢様の言っていたお客さんか……乗りなさい乗りなさい。案内します」

 日焼けした男は笑顔になり船に乗り込んだ。
 それに続いて平川を先頭に三人で白い船に乗った。そこそこ大きい船。操縦は船の先端でするようだ。

「お嬢様って、誰?」

 刀利は不思議そうだ。刀利は事情を何も知らないのだ。

「多分……白良島にいる大富豪だ。年は十五くらい。高校生ぐらいだな」

 加羅は知っていた。平川から聞いたのだ。

「その年で大富豪なの?」

「その子の両親が大富豪だったんたが、事故で亡くなった。遺産が入ったわけだな」

「あ……そうなんだ……」

 刀利が普段あまり見せない暗い表情を見せた。境遇が似ている。刀利はそう思った。きっと心細かったんだろうと刀利は想像した。両親を失った刀利もまた、寂しかったから。

「会って話してみるといい」

 加羅は刀利の心中を察してか穏やかな口調だった。

「はい。お嬢様……どんな子かな」

 三人が白い船に乗り込んでもすぐには出発出来なかった。日焼けした男の話によると、まだ来ていない乗客がいるらしかった。まだ二人来ていない。男が一人と女が一人らしい。
 加羅と平川は煙草を吸いながら待っていた。海に揺れる船で煙草を吸うのも美味いものだ。
 刀利はすることが無いのでスマートフォンをいじっていた。パズルゲームをしている。あまりにも刀利の手の動きが速いので、加羅から阿修羅と呼ばれたことがある。刀利は阿修羅の存在を知らなかったが、なんとなく褒められているようで嬉しかった。実際には加羅は少し引き気味だった。知らないほうが良いことも世の中にはある。

「くらえ!十二連鎖!決まった!」

 刀利は笑顔で何か叫んでいる。子供だろうか。

 加羅達が船に乗り込んで十五分ほど経って、男が一人現れた。長い髪色は銀髪に近かった。日焼け止めはしているのだろうかと心配になるほど白い肌。白いシャツに紺色のジーンズを穿いている。

「リッキー、お待たせ」

 銀髪の男は日焼けした男に話しかけた。加羅達を船に乗せてくれた日焼けした男の呼び名がリッキーなのだろう。あだ名だろうか。

「おお坊ちゃん。先客がいらっしゃってます」

「ああ、招待された人が他にもいるんだ。待たせたかな」

「そうですね」

 その会話は加羅達にも聞こえていた。残りの客だろうと想像がつく。
 銀髪の男は船に乗り込み、船の先頭付近にいる加羅達に話しかけた。

「初めまして。僕は七雄といいます」

「あ、初めまして。千之時加羅です。よろしくお願いします」

 加羅は急いで煙草を揉み消し、軽く頭を下げた。

「消さなくて結構ですよ」

 七雄は笑った。煙草のことだ。

「私は笠吹雪刀利といいます!」

「僕は平川冬彦といいます。刑事です」

 皆が挨拶をした。
 平川が刑事だと言ったとき、少し七雄の表情が動いたように見えた。

「みなさんは何をしに白良島へ?」

 七雄が尋ねる。既に表情はコントロールされている。

「リゾートです!」

 笑顔の刀利。

「えっと、招待されたんですよ。館に泊めてもらえるそうで……事故死があったようですね」

 加羅が刀利の頭を叩きながら答える。

「事故死、ですか……」

「そうです。しかしそれほど深刻に考える必要は無さそうです」

「アイドルが死んだんですよね?」

 七雄がそう口にすると、横で見ていた平川は少し表情が険しくなった。

「何故知っているのですか?」

「なんでだと思いますか?」

 七雄は受け流している。日焼けした男、リッキーと呼ばれた船の運転手は皆の様子を確認している。

「ニュースになっていたら、私も知っているはずだから……事件関係者の中に七雄さんの知人がいたんですね?その人から聞いたんじゃないですか?」

 刀利がすらすらと言葉を口にした。

「よくわかりましたね。そう、この前事件の話を聞きました」

「自殺と他殺、どちらだと思いますか?」

 刀利は止まらない。頭が回転し続けている。彼女の悪い癖だ。殺人とまではいかなくても、
何か事件性のあることが発生すると、冷静に事象を分析しようとする。冷たいのかもしれない。しかし彼女は優しい人間だ。

「他殺です」

「え?でも……」

「アリバイがあるっていう話ですよね。簡単な話です。白良島に未知の人物が隠れていた。その人物が、アイドル……北央七瀬を崖から突き落とした」

 七雄はアイドルを七瀬と呼んだ。少なくとも何かの情報を知っている。

「そうは思えません。警察の捜査で船で出入りした人間は調査済みですが、怪しい人物は発見されていません」

 平川が口を出した。刑事としては少々迂闊だろう。情報を漏らしている。

「だから僕は白良島に行きたいんですよ」

 七雄の意味深な言葉。

「まだ島に犯人が残っていると思っているのですね?」

 聞いていた加羅はゆっくりと話した。余裕がある。

「その通りです。出入りが怪しくなければ、出入りしなければいい。島に潜んでいる可能性も十分にある。そして当然住人が怪しくなります。白良島で暮らしていればいいのだから」

「あなたは色々と事情がありそうですね」

「はい、まあ……お嬢にも面識がありますしね」

 ここでもまたお嬢様。白良島の顔のようなものか。

「まあ、白良島は安全ではあると思います。事件は事件。殺される動機が無いものが襲われる道理もありません。楽しみましょう」

 七雄はそう言って笑った。それが自然な笑いなのか、作り笑いなのか、加羅にはわからなかった。
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