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第一章 追放されし聖女

見当違いの追放である

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「フランシスカ、貴様を極刑に処す。永遠に罰を受けよ」

 光の差す、大聖堂。その中で、フランシスカという聖女が、叱責されていた。
 フランシスカは弁明している。

「お待ちください!確かに、私は、国のためにならない存在かもしれません。ただ、自分なりに、出来ることをやり、聖魔の石に、聖女の祈りを……」

「たわけが!何が聖魔の石だ!なんの役にもたたん。我が国の内政は、混乱しているだけではないか。国を守れず、たかが石ころにすがり、何様のつもりだ!貴様には、罰を受けてもらう。第五聖地……アクドラに追放する。あの、かつての聖女達がひしめく、あの場所にな」

 語っているのは国王。金の冠が、いかにも似合っている。

「アクドラ!?あそこは、死地では……」

「そうだ。あの死地で、息絶えるが良い。もう、お前に用はない。一日くらいなら、くれてやる。精々、準備を整えて、死地に出向くのだな」

「お待ちください!私は、私の出来る精一杯を……」

「意見など求めていない!」

 そう言って、国王は、フランシスカの部屋から出ていった。


 そんなやり取りがあり、聖女フランシスカは、溜息をついていた。
 無理もない。第五聖地アクドラとは、かつてに聖女達が土地の名誉の覇権を賭けて、戦っている場所なのだ。そんな所に、聖女であるフランシスカが赴けば、敵視されることは間違いない。フランシスカは戦うつもりなど毛頭なく、ただ、国に呆れていた。聖魔の石の力は、とても強いものなのに、何故、わかってもらえないのかと。

 覚悟を決めるしかなかった。アクドラに向かうのは、もう仕方がない。元聖女たちの争いに巻き込まれても、仕方がない。
 だが、ただ倒れるわけにもいかない。現状を、国の内政をよくわかっていない、あの国王に、復讐がしたかった。だから、考えた。もしかしたら、アクドラにて、国に反旗を翻し、よりよき平和を作ることが出来るのではないかと。

 フランシスカは覚悟を決めた。彼女が持っているものといえば、国王から、使えないと烙印を押された、聖魔の石。それくらいだ。仲間もいない。国王に反対するものなど、いなかったのだ。ひとりぼっち。良くしてくれた侍女も、屋敷の者たちも、フランシスカを見捨てた。
 追放。それが、現実だった。

 自分一人で何が出来るのか、とても不安な面持ちで、フランシスカは自分の屋敷から出た。もう一度、帰ってきたいな、と思いながら。

 大きな街。そこから出るために、フランシスカは歩いた。
 街並みが見渡せる。フランシスカは、帽子を目深に被っていた。誰にも見つかることはない。

「(この街とお別れか)」

 ため息。残留。少しの、名残惜しさ。
 行き交う人々。笑顔の人もいれば、悲しそうな人もいる。
 今までありがとう。力不足でごめんなさい。フランシスカは、そんなことを想った。
 歩いていく。街の外門、第五聖地アグドラに向かうため……。
 そんな、フランシスカに、話しかけてくる人がいた。黒髪の女の子だった。目が赤い。

「どこへ行く、フランシスカ」

「ホウオウ」

 フランシスカは驚いた。誰にもバレないと思っていたからだ。
 話しかけてきた少女の名前は、ホウオウ。黒い装束を身に着けている。髪も同様に黒く、赤い瞳が特徴的である。腰に剣を携えている。
 対するフランシスカは、長い銀髪をしている。瞳は青い。白いワンピースを着ている。まるで、対照的な、二人の恰好。

「ホウオウ……私ね、聖女を辞めさせられたの。だから、この国を出なくてはならないの」

「あの国王?」

「そう」

「だから、早めに見切りをつけておいたほうがいいと、言っておいたはずだが。あの国王はダメだ。このままでは、国が終わる。いわゆる無能」

「ええ……国王がどうしようもないのは、わかってる。でも、この国の人々のことを想うとね……」

「そういう所が甘い。国王は、いつかは見捨てなければならない。聖女を追放してばかり……どこへ行くつもり?何か、そそのかされた?」

「第五聖地アクドラに向かいます。そこに行くように、指示されました。聖女の役目は終わりです」

「アクドラ……?死地じゃないか。あそこは、元聖女たちが争っている、生ける牢獄。行ったら、殺されてしまう。あそこの元聖女たちは、殺し合いをしているんだ。聖女に返り咲くために。そんなところに行く必要はない。そう思う」

「国王の命令ばかりは、逆らうわけにはいかないの」

「どうしても?」

 ホウオウの赤い瞳が、フランシスカを見ている。何かを、試すかのように。

「はい。正直、恨んではいます。仕返ししてやりたい。でも、私が断れば、私に関わった人たちが、不幸になる。だから、私は自分の意志でアクドラに行きます。例え、そこで殺されようとも」

「そうか」

 ホウオウは俯いた。右手で膝を、とんとんと叩いている。

「なら、私も一緒に連れていってほしい」

「え?」

 フランシスカは驚いた。ホウオウの提案に。

「私は、フランシスカに救われた恩を、返していない。人に殴られた。路上に放置された。着物もぼろぼろ。泥水まですするような、あの地獄から解放してくれた恩を、返していない。フランシスカ、貴女が死地に赴くというのなら、私も行こう。謙遜無しで、私は強い。貴女を守りきって見せる」

「ホウオウ……いえ、いいの。昔の恩義なんて、感じる必要はないの。気持ちは嬉しいけれど」

「人間としての器の問題だ」

「ホウオウは巻き込めない」

「自分の意志だ。貴女の剣となろう。いや、そうさせてほしい」

 ホウオウはフランシスカの前で跪き、フランシスカの手の甲に、キスをした。それは、騎士としての誓いの印である。
 フランシスカは、胸が熱くなった。
 こんな自分に、尽くしてくれる人がいる。
 自分が、なんとか救えた人が、恩義を返そうとしてくれている。
 ありがとう。そう思った。

「一人ぼっちだと思っていたわ」

 自然と涙を流すフランシスカ。

「そうはさせない。共に行こう。私の主」

「ええ」

 そうして、二人は街を出た。死の領域、第五聖地アクドラへ向かって。
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