そして503号室だけになった

第五章 何手詰め？

ホワイトホテルの秩序

「加羅さん、どう思いますか？東条さんの証言に対してです」

「さあ……フロントに居たというのは、事実だろう。周りから、裏が取れる。ただそうなると、コンビニ店員の伊藤の証言が、丸々嘘だったことになる」

「そうですよね。どっちが信頼できるかって、東条さんの方ですよねぇ」

「理由は？」

「だって、意味不明じゃないですか。よくよく考えて、5階の自販機って、思い返せば、超不自然でしょう？そもそも嘘だった場合、自然なような」

「しかし、現実問題、伊藤は死体を発見している。通報したのだから」

「誰かから、教えてもらったんじゃないですか？ほらほら、よくあるじゃないですか」

「ああ、なるほど」

　加羅は頷いた。すかさず桜。

「どういうこと？何を教えてもらったの？」

「情報ですよ。確かに、通報をしたのは、伊藤かもしれません。しかし、伊藤が、他の人物から情報を提供してもらって、その情報を元に、通報したとしたら。それならば、ホワイトホテルにいなくても、通報のギミックは成り立ちます」

「伊藤が、犯罪者とグルっていう主張？」

「そうです。東条さんが、フロントにいたという壁を崩せない。そうであれば、字面通り、伊藤はエレベーターなんて使っていない。問題なのは、そのメリット。伊藤には得がありません」

「メリットねぇ……一般的に言えば、お金や、恨みだと思うけど。伊藤と、ホワイトホテルの被害者……浦部大樹に、そこまで関係性があったかどうか。恨んでいるなら、自分で手を下しそうな気もするけど」

「メリットはあります。ホワイトホテルの、秩序が崩壊します」

「秩序？」

「はい。伊藤が死体を発見していないとして、そうすると、通報時刻の信憑性が、浮かび上がります。通報された瞬間、浦部大樹は生きていたかも」

「そうすると……」

　腕を組む桜。考え込むときに、腕を組んでしまう謎。

「浦部大樹の身の回り」

　刀利がぴしゃりと言った。

「そうだな」

　加羅は頷いた。煙草が吸いたいな、と思う彼であった。