俺なんかに目をつけられた可哀想な不良

きのこ

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朝起きると体は綺麗になっていて、服も着替えさせられていた。意識が飛んだあと介抱してくれるくらいの人の心を持ってるなら、体を壊さないで済むように少しは手加減をしてくれてもいいんじゃないのか。

おっさんのくせに遅漏でそのうえ絶倫で、サイズも無駄にでかいせいで毎度死にそうになる。今も生きているのが不思議なくらいだ。
頭は痛いし、足腰にも力が入らない。

ふらふらとリビングに向かうと、男がフライ返しを片手にキッチンに立っていた。

「似合わな」
男をじとっと睨みつけて呟くと、バルコニーに向かった。もう聞かなくても制服の場所が分かるようになっているのもなんだか癪だし、毎度ご丁寧に洗濯されているのも謎だ。性犯罪者のくせして変なところ律儀だな。苛つく。

「飯出来てるから食え」

「いらな…」

「食え」
被せ気味に言われ、亮は押し黙った。
あんなことをされている相手に介抱され、服を洗われ、飯を用意されるなんて違和感しかない。俺は愛人か何かか?
考えただけで吐きそうだ。

机の上にはバターが塗られた食パンと、目玉焼きが用意されていてガラス製のコップに入れられた牛乳まで置いてある。母親にも用意してもらったことの無いような飯をよりにもよってこの男に作って貰っている事に違和感が留まることを知らない。

けれど腹を空かせているのも確かで、飯を食べる食べないで言い争うのも億劫なので渋々食パンに齧り付いた。

「うざ…」
不健康な食生活を送っているせいかただの食パンがやけに美味しくて逆に腹が立つ。

「美味いのか」
してやったりの得意顔で向かい側に座る男の顔はなんだか機嫌が良さそうだ。体のあちこちが軋むように痛む俺を目の前に申し訳なさは微塵も感じない。
言葉を交わすだけで怒り狂いそうになるので亮は男から顔を背けた。

「苺もあるぞ」

「えっ」
自分の大好物を耳にして、亮は反射で顔を輝かせた。

「食うか?」

「…うん」
がっつき過ぎると好みがバレてしまうと思い遠慮気味に頷くと、男はくすくすと笑って冷蔵庫から苺を取り出してきた。
もう洗い終わっているようで、苺のヘタも取られていた。練乳をかけていないのは見直した。あれは苺の味を台無しにするし、甘ったるくて嫌いなんだ。


しかも目の前に出された苺は一粒一粒規格外のサイズをしている。スーパーで目にする度に買うのを我慢するのに苦労していたものが今目の前にあることに感動を覚える。なにせ苺は高いからだ。
一パックでカップラーメン4つ分はある。

思い切って一口で頬張ると、果汁が口の中で溢れた。
苺の種が潰れる食感は頬を喜ばせ、瑞々しい果汁と共に飲み込むと喉が甘酸っぱく潤う。
まさかこいつの家に来て得をするようなことがあるなんて…!

「気に入ったようで何よりだが、先に飯を食え。冷める」
もう一個と思い手を伸ばしかけたところ、男の声で我に返る。そういえばこいつも居たんだった…
少しげんなりしたが、確かに楽しみは最後に取っておくべきだと思い食べかけだった食パンを手に取った。
男は食パンの上に目玉焼きを乗せて食べていて、そういう食べ方もあるのかと興味を惹かれた亮は、村沢の真似をして自分も食パンの上に目玉焼きを乗せた。食べてみると確かに美味しいし、時短になるから苺にありつけるのが早くなる。
黄身を零さないように気をつけつつ完食すると、男が自分の皿と一緒に俺の分の皿も下げて、軽く水でゆすいだ後、食洗機に入れた。

手で洗った方が早そう。

苺を頬張りながらどうでもいいことを考えていると、男と目が合った。苺の味が落ちたような錯覚におちいる。

「それ全部食べてていいぞ」
余りに親切すぎる発言に亮は目を丸くした。

「お前は食べないのか?」

「あぁ。俺は果物はあまり好きじゃない」

「へー」
苺を独り占め出来ることに亮の口角が緩む。

でも、何で好きでもないのに冷蔵庫に苺が入ってるんだろう。すぐに食べられるようにしてあったみたいだし。

辻褄の合わない男の発言を不思議に思ったが、久々の苺に夢中になってそんなことはすぐにどうでも良くなった。
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